3 一番会いたくない人
「赤司くん、赤司くん」
「どうした、梓」
「あのね、いつもありがとう」
「今日は大胆だな」
「ふふっ」
目を閉じれば、彼女との思い出が浮かぶ。あの頃の情景が、感覚が。僕はまだ覚えているよ。
「梓……………」
移動するバスの中、窓を見つめながら呟いた。もう1年以上経つのに、忘れられないなんて僕もなかなか面倒くさいやつだな、なんて自嘲気味に笑った。これから向かうのは桐皇学園。そこに彼女がいると思えば、悲しいような悔しいような、また、嬉しいような、何だか複雑な気持ちが湧いた。
*
「ねえ、青峰くん」
「あ?」
「今日の試合って、何処の高校とやるの?さつきちゃんが全然教えてくれなくて」
「何処だったっけなぁ、お、覚えてねぇや」
「うそー!?青峰くん!?それはないでしょう…まあ、今日自分で確かめます…」
青峰くんなら忘れることもありえるかな、なんて失礼な事を考えながら、私は体育館へと向かった。
すると、目の前には何だか慌てた様子のさつきちゃんが見えた。
「あ、梓ちゃん」
「そんなに慌ててどうしたの?さつきちゃん」
「ん?あ、ああ、いや!ほら、梓ちゃん凄く顔色悪いから…体調悪いんじゃないのかなと思って、無理しないでね?ほら、保健室行こっ!」
「え、え?」
体調が悪いつもりは無いのだけど、言われてみればそうなのかもしれない。最近考え事ばかりで少し寝るのが遅かったし…。さつきちゃんもこんなに心配してるんだし少し休んだ方がいいのだろう…。私はさつきちゃんの言葉のせいか、すっかり相手校の事など忘れていた。
*
試合中、一度も梓の姿が見えることは無かった。マネージャーをしているのも知っていたし、確か大輝とさつきは知っていたような…。
仕方ない、直接聞こう。あいつらの事だ、何か隠しているのかもしれない。
「大輝」
「なんだよ」
「彼女は何処にいる」
「はぁ?し、知らねーよ、さつきに聞けよ………」
相変わらず嘘をつくのが下手だな、大輝は。呆れてそのままさつきの元へと向かった。向かってくる僕に気付き、驚いた様だが気にすることはない。彼女に悪気はないだろうし。
「梓を知らないか」
「き、今日は体調悪くて、もう帰ったみたいよ?」
「おかしいな、朝から一度も見ていないんだが」
「ふふ、気のせいじゃないかしら?」
「さつきも大輝も、嘘をつくときの癖が同じだな。嘘をつくとき必ず、最初の言葉を繰り返す癖がある。」
「そ、そんなことは無いと思……」
さつきが言葉を発したその時、体育館の扉は開かれた。
「さつきちゃーん、熱はなかったよ〜」
聞き覚えのある声のする方へ目を向ければ、そこには梓がいた。
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