頭が回らないらしい
馬鹿と煙は高いところが好きだとか、馬鹿は風邪をひかないだとか。全くそんな言葉を考えた奴は誰だ。いや、確かに本当のことかもしれないけど……。高い所は大好きだしびっくりするくらい風邪もひかないし。そう、よく周りの子に言われるのだ。
まあそれはさておき、今日は始業式。今年はラスト中学生だ。3年生、楽しもう!仲いい子と同じクラスであることを願って、クラス発表の紙を見に行った。
*
ゴンッ
机に頭を打ち付けて目を瞑った。
そりゃないよ先生。だって私だけ仲間外れだよ?!中学でも特に仲のいい子三人とはクラスが離れ、まさかの私だけが違うクラス。なんじゃそりゃ。私先生に嫌われてるのか…。確かに授業中はうるさいし信じられないレベルの馬鹿ですけど…。
だって、私の取り柄と言えば無駄に明るいこの性格と、運動くらいだ。それを取ったら馬鹿しか残らない。そんなの自覚済だよ。
ああ、最後の中学校生活、終わった。くっそ、せめて黄瀬くんがいればよかったのに…。まあ、この性格だ。緊張なんてものとは無縁。すぐに友達もできるだろう。
そしてそのまま顔を机に突っ伏したまま唸っていた。
すると、誰かに話しかけられた。
「さっきからずっとそうしてるけど、体調でも悪いの?」
誰だろう…と思い体を起こした。
「………」
「…大丈夫かい?」
いや、大丈夫なんだけれども、この人誰だっただろうか。後少し、後少しで思い出せそうなんだ。えーっと、確か、あか、あか、………赤司一郎くんだっけ!
「赤司一郎くん!」
「は?」
あれ、間違っていただろうか。まるでゴミでも見るような目で見下されてる気がする、え、違うっけ、間違えてた?ごめん。
「まあ、その感じだと体調は大丈夫そうだね。それと、赤司一郎じゃなくて赤司征十郎、体調よりも頭の方が心配だよ」
「…うー…惜しい…征十郎くんでしたか………それにしても、赤司って、あの赤司?」
「……ふふ…どの赤司?」
なんか笑われてるけど、笑い方がお上品だ。やっぱりこの赤司くんはあの赤司くんだろうか。いや、どの赤司くんだよ。
「えーっと、バスケ部主将さんの、赤司くんだよね?」
「ああ、そうだよ、けど意外だね、まさかわかるとは思わなかった」
「んー…同じバスケ部の黄瀬くんからよくお話を聞くものでして、赤司っちこわい!こわい!!ばっかりなんだけどね……ハッ」
ガタンッ
そうだ、この人怖い人だった。(黄瀬くんに聞いた話だと)と思い、椅子を後ろに引き少し距離を置いた。
すると、赤司くんは驚いた様な顔をした後に少し怪訝そうな顔をして、言った。
「どうして椅子を引いたんだ」
「黄瀬くんが、赤司くんはこわい!って言ってたのを思い出してですね」
あ、やばい、怒らせてしまったかも、と思ったとき、ふと、聞き覚えのある声がした。
「千尋さん、大丈夫ですよ。赤司くんはいい人ですから。黄瀬くんが怖いと言っているのは、いつも彼が何かして怒られているからです。つまり、自業自得です。まあ、怒らせると手に負えませんが、何かしない限りはとてもいい人です。安心してください。」
「黒子っち……そっか…赤司くんはいいひとなんだね!」
「黒子…所々トゲがあるようだが」
「言葉のあやってやつです。まあ、千尋さんは全体的に黄瀬くんに似ているので、もしかしたら赤司くんを怒らせ……いえ、何でもないです。」
「え!?なに!?すごく気になるんだけど!黒子っちー!教えてよー!」
「へぇ、黄瀬と同じタイプの人間か。まあ納得できる。これからよろしくね、千尋」
にっこりと素敵な笑顔を向けて、手を差し出してくる赤司くん。こわい!!こわいよ!!けど手を取らないと殺されてしまう気がする。
脅されたような気分に陥りながらも、赤司くんの手を握り返して、よろしくね!!と言った。
*
それから少し遅れてきたさっちゃんことさつきちゃんと、静かだったから気付かなかったけど真ちゃんこと緑間くんとも同じクラスだった。
なんだ、案外知ってる人も沢山いるじゃないか!それに黒子っちに至っては3年間同じクラスだ。やったね。
授業なんて上の空で、そんな事を考えていると、先生に当てられた。
「よし、白澤、これくらいならわかるだろう」
「はい!√4ですね!」
自信満々超ドヤ顔で答えたのだが、おかしい、拍手喝采は巻きおこらない。
チラッと目を開けてみれば、呆れ顔でこちらを見る先生の顔が見えた。
「2×2は?」
「4!」
「つまり?」
「√4!」
「はぁ…隣の馬鹿をたのんだぞ、赤司。ちなみに答えは2だ。」
先生までそんなこと言うなんて酷い…!何て事を考えつつ、席についた。すると、隣で肩を震わせ必死に笑いを堪える赤司くんが見えた。
「予想以上の馬鹿さで驚いたよ…っふ…ふふ…」
「あれはたまたまだよ…!!」
「……っふふ…紫原からは唯一同じ目線で話せる友達と聞いていたから、どんな巨人かと思えば俺よりもずっと小さいし、黄瀬からは、おばか属性、だとか聞いていたからどの程度かと思えば………千尋には驚かされてばっかりだ…ははっ…っふ…」
「なっ…身長は………身長だけは…!!しょうがない!成長期に見放されたんだよ!あと、おばか属性って何ですかもう!」
むすーっと、ふぐみたいに頬を膨らませて言えば、更に赤司くんは笑うし…。けど、思ってたよりも怖い人じゃないみたいです。よかった。
*
「千尋っちぃいぃいいい!!!!」
「黄瀬くぅううん!!!!」
お互い身体測定の紙を持ち、ドキドキしながらせーの!と言って紙を裏返した。
「やったぁあぁああ身長伸びてるっすぅうぅう」
「あと1cmだぁあぁああぁあああ」
体操着のまま、そう言いながら廊下で2人で歓喜の舞を踊っていると、後ろから赤司くんに声をかけられた。
「へぇ149cm…」
「あ、赤司っち!赤司っちは何cmだったっすか?」
「俺は173cmだよ」
「おっ 」
「なんだ?」
「いや、赤司っちと千尋っちの身長差って、ちょうどハグしやすい身長差だったなって」
「へぇ」
「そなの?」
そんな身長差があるのね、恐ろしいわ。私から見れば、赤司くんも黄瀬くんも巨人だ。むっくんこと紫原くんに至っては、森のくまさん並だ。
それにしても、ハグしやすい身長差とは?何、どんなふうにしやすいわけ?と思い、赤司くんにハグしてみた。
ぎゅっ
「…………」
「千尋…?」
「ふむ…確かに丁度かも…」
「ああ、なるほど…」
「なんか、胸の中にすっぽり収まる感じで、安心するね?高過ぎないし、納得…!」
赤司くんの胸に手を置いてそう言って、さっちゃんに呼び出されたのを思い出し、その場を離れた。え?ビッチみたい?いや、兄2人弟1人の中に女1人の私からしてみれば、どうってことないんですよ。
しかし、その後の2人の会話を、私は知る由もなかった。
「赤司っち、顔赤いっす」
「…無自覚でやっているのか…」
「男3人に女1人の兄妹って言ってたので、恐らくそうっす、あと赤司っち髪の毛くらい顔赤いっす」
「うるさい」
*
「お昼ご飯っを食っべませう〜〜」
「あ、千尋ちんー」
ゆるゆると歩きながら手を振っているのは、むっくんだった。
「あー、むっくーん!!良かったらお昼一緒にどうかな!」
「いいよー、あ、赤ちんに桃ちんー」
「今からお昼〜?」
「そうだよ〜さっちゃんと赤司くんも一緒に食べない?」
「勿論!」
「ああ」
「なんか赤ちん顔赤ーい」
「うるさい」
その後むっくんに何やら事情を話していたさっちゃんだけど、私には教えてくれなかった。赤司くんに至っては目さえ合わせてくれなかった。この間のこと怒ってるかな…?屋上に着いたら謝ろう。
「あっ、赤司くん」
「なんだい、千尋」
「この前は突然抱きついちゃってごめんね…!その、怒ってる?」
「いや…………」
「……本当にごめん…」
いや。って言われちゃったよ。うわわわ怒ってるかも…どうしよう!怒らせたら怖いんだよね!?きーちゃんきせくんきせちん助けて!!!いや、ここはさっちゃんに…助けを求めようとしたとき、赤司くんは言葉を発した。
「別に嫌ではなかったよ、ただ、もう少し危機感を持つべきだ。男なんていつ襲ったりするかわからない生き物だからね。千尋は可愛いし特に……」
「あ、赤司くんもそういう人なの…?友達だったら大丈夫かなって思ったんだけど…」
「はぁ…君は本当に馬鹿だね。俺だって男だよ。それとも千尋は俺のことを女だと思って接しているのかな?」
「ち、違うの…!!違うよ!赤司くんは男の子だし…かっこいいとも思うから…だから、男の子で…友達だから大丈夫で………あああわかんなくなっちゃったよ!!!」
そう言うと赤司くんはまた笑って、頭をぽんぽんと撫でたあとに、まあ、ハグくらいなら許容範囲か。と言った。
よ、よかったよ。怒ってないみたい。
「赤司くん、ありがとう!!」
がばっ
「…っと…千尋…………」
嬉しいと抱きついてしまう癖が発動してしまい、思い切り赤司くんに抱き着いてしまった。少しよろめいたけれど、すぐに受け止めてくれた。しかし、これはやばいんじゃないか私…。
屋上にはさっちゃんとむっくんも居たけれど、既に私は目の前の赤司くんで頭が一杯だった。
だって……絶対怒ってる…!!!
恐る恐る上を向いてみると、赤司くんの顔は怒っているようには見えなくて、少し安心した。けど、何だかいつもより顔が赤いような…。
「あのー…赤司くん…?お顔があか」
ぐいっ
「見るな」
「え、えっと……」
「千尋が悪い」
「ひっ…!やっぱり怒ってる?ごめんね?!つい、癖なの!癖なの!!!」
許して下さい〜。と半泣きでお願いしてみるものの、赤司くんに届いているかな。さっき赤司くんに思い切り頭を胸に押し込まれてしまったので、お顔も見えませんし、喋りづらいです。
「………責任…」
「えっ?」
「責任はとってもらうよ、千尋」
「え?!え!?!!?なんの!?」
「はぁ…………まぁ、しばらくはこのままでも許してやらないこともない」
何のことかわからないけど、とりあえずありがとう!!!と言っておいた。自然な成り行きで赤司くんから背中に手を回され、抱き合ってるみたいな形になっちゃったけど、今はそれよりも許してもらえたことが幸せなのです!!
結局、暫くはその体勢でいたから、ご飯の時間は短くなってしまった。急いで食べて、教室に戻ったけど、さっちゃんとむっくんの事を忘れていたことをおもいだした。さっちゃんもむっくんも、赤司くんに道のりは長そうだね〜と話していた。何のことだろうか。
まあ、いいかな。
その様子を見ていると、私に気付いたさっちゃんが手招きをしてくれた。はーい!と返事をして向こうに行くと、不思議と赤司くんは嬉しそうに笑っていた。
赤司くんが私のことを好きだと気付くのは、まだまだ先のお話。
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