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  届いた願いと叶った恋


私の好きな人は、決して手の届くような人ではなくて。
好きだという思いが届けばいいのに、とは願うけど、話すことすらも無いんじゃないか、と思うくらいすごい人。
年は私の一つ上で、2年生。入学して3ヶ月、そろそろ夏休みという頃だけど、彼と話したことは殆どない。それもそのはず。
だって私は特にこれといった才能もない普通の女の子だから。小さい頃から兄がバスケをやっていて、バスケは好きだったからよく見てた。それで、バスケの雑誌でたまたまみかけた彼に一目惚れをして、その後を追うようにこの中学に入学した。
勿論部活もバスケ部のマネージャー。でも、こんな私にA軍の担当なんて出来るはずもなくて……。

「はぁ……」

その時、ぽんぽんと頭の上に手が置かれた。

「そんな顔するなよ、お前はいつも頑張ってるだろ」

「お兄ちゃん……」

「何か悩み事があるなら言えよ」

「うん、ありがとう…」

私が笑えば、お兄ちゃんもよし、と笑って頭をくしゃくしゃと撫でた。この主将、虹村修造は私の兄な訳なのだが、果たして部員の何人がそれを知っているのか。
私と違ってスポーツ万能で頭も良い兄はよく目立つ。そのせいか、余計私は普通の子に見えるし目立たない。それでもお兄ちゃんは好きだし、特に気にならない。ただ、たまに羨ましいな、とは思う。
それは………

「あ、虹村さん」

「今のシュート、こう打った方が入りやすいだろ」

「ああ、確かに……勉強になりました、ありがとうございます」

「ああ」

綺麗に微笑んで礼をするのは、私の好きな人、赤司征十郎先輩。優しくて、かっこよくて、バスケが上手で、頭も良い。そんな王子様のような存在の赤司先輩のことを好きになってしまった。

私は認識されているかすら危ういのに……お兄ちゃんはあんなに話せて羨ましいな…なんてね。
でも落ち込んでばかりじゃいられないよね、よし、この荷物運ぼう。

そう思い持ち上げた荷物は思いの外重たく、大きかった。背の小さい私が持つと、前が見えなくなった。それでもよろよろとよろめきながら転ばないように下を見て歩く。そんなときコロコロコロとボールが転がってきて、反応が遅れた私はそれに躓いた。
その瞬間、ガシャンと荷物が落ちる音と、私が思い切り転んだ音が体育館に響いた。音は意外に大きく、体育館にいた殆どが振り向いた。

「いっ…」

立ち上がろうとしたが、どうやら頭を打ったらしく、再び地面へと倒れ込んだ。それを見た赤司先輩は一番に私の方へとかけてきた。

「大丈夫か?!」

「あ……あか…せん……ぱ」

「喋るな、頭を強く打ったんだろう、僕が保健室まで連れていく、君達は養護の先生を呼んできてくれないか」

赤司先輩が優しく私の体を抱き上げる。抵抗したいものだけど、頭を打ったせいで意識が朦朧とする。そんな中、赤司先輩は辛そうに綺麗な顔を歪めて無理をさせてすまない……と呟いた。


*

目が覚めたら、そこは知らない場所。でもお兄ちゃんが笑った顔が見えて、ここは病院かどこかなのかな、と思った。

「無理すんなって言っただろ、ばか」

「いたっ」

ゴンと怪我人にも容赦なく殴るお兄ちゃん。地味に痛む……というか頭自体が少し痛いかもしれない。
でもまあ何もなくてよかったよ。と笑うお兄ちゃんに、そうだね、と笑い返せば、ガラガラと病室のドアが開いた。

「おう、赤司か」

「虹村さんに千尋さんも……無事でよかった」

嬉しそうに微笑み、こっちへと近付いてくる赤司先輩。ドキドキと心臓がなる。

「お前を運んだのは赤司だったんだぞ、ちゃんとお礼言っとくんだぞ、じゃあ俺は父さんのところに行ってくるから、後は赤司、任せた」

「お兄ちゃん?!」

「はい、わかりました、俺に任せてください」

じゃあな、と病室を出ていったお兄ちゃん。赤司先輩と2人きりなんてドキドキしてしょうがない……。何を話せばいいのかな……あ、お礼言わなきゃ。

「あ、あの、赤司先輩……その、ありがとうございました…」

「いや、礼を言われる事ではないよ、君が無理をしていたことに気付けなかった俺の責任でもあるしね」

「そ、そんなことないです…!赤司先輩はいつも私達マネージャーのことも気遣ってくれますしそれに」

そう言いかけたところで赤司先輩の手が私の頭の上に置かれた。そして赤司先輩は私の頭を撫でながら、君はいつも頑張っていたね、千尋。と言った。

「あ……の…赤司先輩……?」

「俺はちゃんと君のことを見ていたよ」

「そ、その」

「俺は君のことが好きなんだ」

「え……え?」

微笑んで私の方を見る赤司先輩は、確かに赤司先輩なのだろうか。幻覚か夢か、はたまたただの妄想か。困惑して沈黙を貫いていれば、赤司先輩は私の頬に触れた。

「夢じゃないよ」

「あ…かし……先輩…わた、わたし……」

「ん?」

「私も……好きです…」

そう伝えれば、赤司先輩は、ああ、そうか、と微笑んで、私の事を抱きしめた。
叶わないと思っていたはずの恋は叶ってしまった。



願いは、届いたんだね。



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