時空変異は治せない
!)貞、旧、新、全ての世界に行きます。
「ねえ、千尋」
「どうしたの、カヲルくん」
「好きだよ」
「うん」
「好きだよ、好き…」
「私も…」
そう言って私を抱き締めたカヲルくん。それが私と彼が交えた、最後の会話だった。
*
カヲルくんと初めて出会ったのは、ネルフ本部ではなく、ピアノが置いてある廃墟だった。聞いてみれば、よくその場所でピアノを弾いていたんだとか。聞いただけで弾けてしまうのはきっと彼の才能であろう。
私も元々習っていたバイオリンを持ち寄っては、よく彼と演奏をした。
それから、彼は学校に転入してきた。それ以前の履歴はなく、生年月日はセカンドインパクトと同日。少し引っかかる点はあったものの、彼とはすぐに打ち解けていた。気付けば二人きりで何かをしていて、お互いに笑った。帰るときも、学校でも、よく一緒だった。
そして、出会ってから少し経ったある日、私はカヲルくんに告白された。最初は驚いたけど、カヲルくんのことは気になっていたし、一緒にいるととても楽しい。私も好き、と返事をすれば、カヲルくんは綺麗な顔をして笑った。
その日から、晴れて私達は恋人同士になった。
しかし、平穏な日々はそう長くは続かない。
ある日の事だった。カヲルくんは私に少し甘えたように抱き着いて、ずっとそのままでいた。
「どうしたの…?」
「千尋…僕達はきっとまたどこかで出会える」
「え…突然どうしたの…?」
「だから千尋、僕のことは忘れないでね」
「う、うん…?」
その日はただ訳がわからず、カヲルくんの言葉に頷いた。そうすればカヲルくんはいつものように綺麗に笑って、その後に私にキスをした。優しい優しいカヲルくん。こんな幸せな日々が、永遠に続いて欲しいと願った。
しかし、その次の日。私がいつものように目を覚ますと、隣にカヲルくんはいなかった。なんだか変な胸騒ぎがして、急いで走ってあの場所に行けば、初号機がカヲルくんを殺している場面を目の前で見てしまった。
「か、カヲル…く」
「千尋ちゃん!?どうしてここに!」
「い、いやぁああああぁああぁああ」
それからの記憶はない。ただ、目が覚めて分かったのは、カヲルくんはもうこの世にいないこと。死んでしまったこと。二人の間で何があったのかわからなかった私は、シンジくんがカヲルくんを殺したのだと、そう思った。
しかしどんなに恨んでも泣いても悔やんでも、カヲルくんは帰ってこない。私はただただ、放心し続けた。気付けば食べ物も食べられなくなって、話すことすら出来なくなっていた。それほどまでに、私の中では彼の存在が大きかったのだ。
例え彼が使徒だったとしても、私の中でカヲルくんはただの大切な男の子だったのだ。
そして、カヲルくんが死んでから2週間が経ったある日、私はふと思い出した。カヲルくんが言ったあの言葉を。そうだ、会えるかもしれない。時間を戻せば…何回やり直せば、カヲルくんが死なない未来を創ることが出来るのだろうか。私はひたすら考え、そして病室を離れた。
プラグやコードを沢山集め、病室に篭ってカヲルくんに会うために開発をした。完成したのはそれから1週間後だったけど、まだ遅くない。私は誰にもわからないようにそのプラグを病院の器具と同化させ、自分に繋いだ。
きっと彼に会えるだろうと信じて−−。
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