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  時空変異は治せない 3





次に目覚めた先は、全く知らない場所。
何処だろう、此処。廃墟……?なんか荒廃した場所についた…。見渡してみても、不思議な場所でしかない。人は誰一人としていないし、何故か私のすぐ傍に置いてあるバイオリン。不思議には思ったけど、懐かしいそれを手に取って、私は歩き始めた。

少し歩くと、聞こえてきたピアノの音色。この曲…何だろう、どこかで聞いたことあるような…。ていうか、音が聞こえるということは人がいるんだよね。取り敢えず人に会わないとな、そう思い音の聞こえる方へと足を進める。どんどん大きくなるピアノの音色。進んでいくうちに、その音色は下から聞こえることに気付いた。
走っていって、思い切りその場で静止した。

「…っ!」

危ない、もうすぐで落ちるところだった。宙吊り状態のバイオリンを引き上げてその場にしゃがみ込んだ。すると、下から声がして、思わず私は息を呑んだ。

「降りておいでよ」


*

どうやって降りたんだっけ、どうしてここまで来れたんだっけ。さっきの事なのにもう忘れてしまった。あの時聞こえたピアノの音色、あれはカヲルくんがよく弾いていた曲だ。何で、忘れていたんだろう。今は二人でその曲を連弾している。荒れ果てた場所に響く美しい音色。懐かしく、儚いその音に、思わず涙が溢れた。

「大丈夫…?」

「え、あ…ごめんね…!」

というか、自分でも気付かなかったけど…。溢れる涙を手で拭おうとしたが、カヲルくんの手が伸びてくるのが先だった。その手は私の涙を拭った。
驚いて顔を上げれば、やっぱり綺麗に笑うカヲルくんがいた。ああ、本当に綺麗で儚いな…。


*

「あ、の…ありがとね…」

「うん、大丈夫だよ。それより…」

「ん…?」

「君は……」





***

「か、カヲルくん?」

「いやぁあぁあぁぁあぁあぁぁあやめて、やめて!!!もう嫌よ!!」

ミサトさんとアスカに抑えられながらも、泣き叫ぶ私。何度やり直しても変わらなかった。どんなに頑張ってもいなくなってしまう、カヲルくん。どうして?どうしてなの?

そして私は一つの答えに辿りついた。ああ、そっか、シンジくんのせいでいつもカヲルくんは死んじゃうんだ。シンジくんが、シンジくんがいなければカヲルくんは……。


「………」

「シンジ…くん…」

私が彼にそう話し掛けると、落ち着いたと思ったのか抑える手を離した2人。私はそれをいいことにシンジくんに殴りかかろうとした。
が、その場に倒れ込んだ。

「っ……うぅ…」

ぼろぼろと溢れてくる涙。止まらない涙。

「シンジくん…どうして、どうして?どうしていつもカヲルくんを奪うの…?」

「…千尋…」

「あはは…何度やり直してもカヲルくんは死んじゃうんだ…毎回毎回、シンジくんのためにね…でも…嘆いてもダメなんだよ…ね…」

「っ……」

「さようなら、シンジくん…そしてさようなら、カヲルくん…」


少しずつ消え始める私の体。どうやら私の体はそろそろ限界らしい。溢れる涙を拭おうともせず、微笑んだ。いつもの彼の様に、綺麗に、儚く。

そして私は、元の世界へと戻った。






*
もう戻って来たけど、私はあの世界を新世界と名付けた。今までと状況が少し違ったからだ。そしてもう一つわかったことは、全ての世界において、カヲルくんは意識を共有していたこと。きっと私が別世界の人間だということも知っていたはずだ。だけど彼は死を選んだ。世界のため、シンジくんのため、そして、私のため。

もう、同じ過ちは繰り返さないよ。カヲルくん。だから、もう少し待っていてね。もう少ししたら、会えるから。


真っ白な病室を飛び出て、学校へと走っていった。途中で私を呼んだ委員長に、振り向いて微笑み、そのまま走り去った。
来た場所は屋上。綺麗だ。まるで使徒がいるかなんて嘘のように綺麗な空。私は屋上の端に立ち、この世界にサヨウナラを告げた。

「また、会えるかな」



*

ピアノを暫く弾いた後に、私のバイオリンとカヲルくんのピアノを合わせて演奏した。気付けば外は真っ暗になっていて、綺麗な星だけが輝いていた。

「あ、の…ありがとね…」

「うん、大丈夫だよ。それより…」

「ん…?」

「君は…どうして僕に会いに来てくれたんだい…」

「え…?」

「何度僕が死んでも、千尋はきっと会いに来てくれる。僕の事を忘れないでいてくれる…。ねえ、どうして…?」

綺麗な顔を歪めて、私に尋ねたカヲルくん。ああ、どうして…。名前、教えてないじゃない…。

「だって、だって…やりきれないよ…いつも死んじゃうんだもの、それにね…大好きだから…」

「千尋…千尋…ごめんね、僕はまた君とさよならをしなくちゃいけないんだ、ごめんね、ごめんね」


私を抱き締めてそう言ったカヲルくん。分かってたよ、そんなこと。でもね、会いたかったの。

ごめんね、カヲルくん。大好きだよ。そう告げてからの記憶は、無い。








end



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