short | ナノ


  星が流れる屋上で



かつて、彼女は言った。この世界は、魔法で動いているのよ、と。


*

まだ僕が中学生の頃、忘れ物をして学校に戻れば、不思議な少女と出会った。しかし、着ているのはこの学校の制服だったため、彼女はこの学校の生徒だと知った。しかし、こんな夜遅くに何をしているんだい?と問えば、星を見ていたんだよ。と言われ、ああ、天文学部があったかもな、と思った。
その日は大して気にすることもなく、家に帰った。そして、次の日にはすっかり忘れていた。

しかし、それから数日後、部活のせいで帰りが遅くなり、学校から急いで戻る頃、屋上に人影が見えて、屋上へと登った。ドアを開けてみれば、地面には沢山の星が流れるように描かれていて、その中心にはこの前と同じ少女が立っていた。気づく様子もなかったため、ゆっくりと近付いていくと、少女はやっと振り向いた。綺麗な水色の髪に、綺麗な瞳。小さなその背からは、僕よりも年下だと予想された。

「あ、また会ったね」

「これは、君が描いたの…?」

「うん、綺麗でしょう、そうそう、もうすぐ流星群が見れるから、少し見ていきなよ」

「ああ…」

嬉しそうに微笑む少女に言われるがまま、隣に座り込む。そうすれば少女は、空を指差し、言った。

「ほら、光った」

「………本当だ…」

「綺麗だよね」

「ああ…」

途端に、空から降り注ぐように見え始めた流星群。あまりの美しさに、心を奪われた。

「流れ星は、ゴミなんかじゃないよ…綺麗な星の欠片なんだよ。それが地球の不思議な磁力に引き寄せられて、落ちてくるの。だから、きっと地球には宇宙と同じくらいの不思議が沢山あると思うんだ」

突然何を言い出すかと思えば、流れる星の中に立った少女。かなりメルヘンなことを考えるんだな、と思ったけれどもそもそも彼女は何者だろうか。

「ねえ、ところで君は誰?僕は赤司征十郎」

「私は白澤千尋」

「そうか、千尋、よろしくね」

「うん、よろしくね、征十郎」

にっこり微笑んで手をさしだした少女に、今日はもう遅いから帰りなよ。と言われ、学校を後にした。次の日、屋上に来てみれば全ての星は消されていて、彼女が一人で消したのか、と納得した。まるで、夢みたいで、今日も会えるといいな。とその日も遅くまで残った。
それから屋上に登れば、今日も昨日と同じように地面には沢山の星が流れるように描かれていた。千尋、と声を掛ければ水色の髪を揺らし、少女は振り向いた。そして可愛らしい笑顔を向けて、こんばんわ。と言ったのだった。

そういえば、千尋は何年生なのだろうか。それが気になって、尋ねてみることにした。

「ねぇ、千尋は何年生?」

「私は3年生だよ、征十郎は?」

「千尋と同じ」

「そうなの?大人っぽいから同い年には見えないね?」

ふふ、と微笑む千尋の横に歩み寄って、今日は何が見えるの?と聞いた。今日はいつもと同じ、沢山の星が見えるよ。特別変わったことはないけれどね。と笑われた。けど、それでも彼女の傍に居たくて隣に腰掛けた。すると彼女は空を見上げて、星の話を始めた。

「あれは、乙女座だよ」

「ああ、スピカが輝いていてわかりやすいね」

「ふふ、征十郎は星に詳しいのね」

「綺麗だからね」

「じゃあ、乙女座のお話は知ってる?」

「神話?」

「うん」

知らないな、と言えば、彼女は静かに目を閉じて、話を始めた。

「ギリシア神話で言うところの金の時代には、人々は働かなくても自由に果物を取ったりして 暮らすことができました。
けれど、時代が流れて銀の時代になると、四季の変化が生じ、人間達は 汗を流して自ら食物を作らなければならなくなりました。
そうなると人間界は戦争が絶えず起こり、 醜い争いの場とかしてしまいました。神々は一人、また一人と天上界に去り、人間を見捨てていきました。

しかし、女神アストラエアは、人間の可能性を信じて地上に残ることにしました。人間達に根気強く正義を教えることで、 世界を平和に戻そうと努力したのです。
しかし、人間達の争いはとどまるところを知らず、ますますひどくなりました。 さすがの女神アストラエアもその様に呆れ、人間界を見限って天上界に返ってしまいました。
その時の姿が、このおとめ座と言われています」

「へぇ…そうなんだ、それは知らなかったな」

「でも、それは神話のうちの一つに過ぎないんだよね」

確かにそうだね、と笑えば、そうでしょ、と微笑み返された。今日ももう遅いし、帰ったら?と言われたから、千尋は?と聞き返した。そうすれば、私もそろそろ帰らなきゃ、と苦笑いをした。学年も分かったことだし、明日はクラスにでも行こうかな、と思い、僕は家へと帰った。


*


「先生、天文学部ってどこの教室で活動してますか?」

「天文学部……ああ、ちょうど3年前に廃部になったのよね…」

「え?」

「もともとここは、体育会系の学校だから部員が少なかったんだけど、その年はちょうど3年生1人しかいなくて…けど、その子は体が弱くてね、卒業する前に病気で亡くなっちゃったのよ…可哀想な話だったわ、星が大好きな子で、誰にでも優しいいい子だったわ」

「………そんな…………その、その人の名前ってわかりますか………?」

「確か………白澤千尋ちゃんだったかしら…水色の髪が印象的で、とても可愛い女の子だったわ…けど、どうしてそんなことを?」

「い、いえ………………有り難うございます」

先生に礼を述べ、その場から走り去った。向かう先は、屋上。先程は部活に行く途中だった為、ジャージのままだが気にしないでおこう。まだ明るさが残る屋上には、いつものように少女が一人立っていた。僕の存在に気付いて、今日も来たんだね。と微笑み振り向く彼女に近付いて、抱き締めた。
僕よりも小さくて、細かった。けど、確かに触れることができて、驚いた。

「ちょっと暑いかなぁ」

「すまない…」

「いいよ、それよりね、今日も流星群が見えるの。今年一番の流星群なんだよ」

嬉しそうに微笑む千尋の手を握って、その場に座り込んだ。地面にはいつものように星が描かれていて、それもまた、綺麗だった。
そしてそれから少し後に、一つの光が通り過ぎ、やがてたくさんの星が降り注ぐように落ちていった。その光景に圧倒され、涙を流しそうになっていると彼女は立ち上がり、僕の前にたった。


「この世界は、魔法で動いているのよ。沢山の星が引き寄せられるのも、その不思議な磁力のせい。その不思議な磁力とは、魔法のことで、これは人間が生み出したものだと私は思う。人間が、未来のために研究をして、出来たもの。電気も、乗り物も、大きな建物も、全部そう。全部キラキラの魔法なの。そして、その中には生きる私達はきっと、魔法使いだと思うんだ。だから、征十郎にも会えたし、これから離れるのだって怖くないよね」

微笑んだ彼女の頬には、涙が伝っていた。気付けば僕も涙を流していて、彼女に手を伸ばした。しかし、触れることは叶わなかった。

「私と友達になってくれてありがとう、征十郎。またね」

流れる星に囲まれて、彼女はキラキラと消えた。これは夢なのか、夏の日が見せた幻想なのか。

僕は流れる涙を拭おうともせず、ただ、ありがとう。と呟いたのだった。その少し後に、屋上の扉が開く音がした。


「あー!赤司っちこんな所にいたんすか!?ってなんすかこれ!地面に描いたら怒られるっすよ〜!!」

「赤司はいたか、黄瀬、ってなんなのだよこれは! 」

「綺麗ですね…」

「うおっと、急に止まんなよ」

「あ、テツくんまって!!うわぁ、綺麗…………」

「わぁー、星が落ちてるーなんか赤ちん魔法使いみたーい」


駆けつけたメンバーの方に向き直して、僕は言った。


「そうだよ、僕は魔法使いだ」


全員が、驚いたような顔をして僕の方へと駆け寄った。それから、熱でもあるの?だとか、頭打ったか?と心配されたが、そんなことはない、と言った。


沢山の仲間に囲まれる僕に、千尋も微笑んでいた気がする。

短い夏におきたキセキ。きっと僕は、一生忘れることはないだろう。






prev / next

[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -