五月蝿いのは嫌い。
ガヤガヤガヤ。
「それでさぁー!!!」
「ねー!マジかっこいい!!赤司様がぁ〜!!」
うるさい。
黙れ。
「ねぇー!でも、赤司様って、好きな人いるらしいよー?」
「え、まじで?赤司様に釣り合う女子とかいないっしょ、付き合ったら呪いたいんだけどぉ!」
「まじそれだよねえぇ!」
うっるさい。本当に。害悪だ。黙ることも知らないのか、ここは図書室の前だっつーの。
「すいません、少し通してもらっていいですか?」
「あ!千尋ちゃん!ごめんねぇー!どーぞ!」
「ありがとう、木村さん」
「いえいえ!!」
害悪なあいつらの前を通って、図書室へと入る。勿論、扉は閉めたが声が五月蝿くて中にまで聞こえる。黙れよ。気持ち悪い。
まあ、あいつらの前でお面被ってぺこぺこしてる私もどうかと思うけど…。まず、五月蝿いのが悪いんだ。話に出てる赤司くんも中々可哀想だな、なんて思いながら無視して勉強を進めた。
気付けば、誰も居なくなる時間まで勉強をしていて、そとは綺麗な夕焼けに染まっていた。ああ、帰らなきゃなぁ。荷物を纏めて、外に出る。すると、噂の赤司くんがいた。
「偉いな、勉強か」
「うん」
「俺は五月蝿い女子から逃げてきたところだよ」
ふっ、と笑う赤司くんは、私と似ていると思う。何と言うか、類は友を呼ぶって本当だと思う。だって、赤司くんは数少ない私の友人の一人だから。
「赤司くんは人気者だからね、今日もクラスの女の子の話題になってたよ、赤司くん好きな人いるんだってー、と」
「はは…情報が漏れるのが早いな。まあ、隠す気もないがな」
「ふぅん、本当なんだ」
図書室の鍵を閉めて、くるくるとそれを回す。鍵を職員室に返さねばいけないため、職員室まで赤司くんと話しながら歩いた。
「気になるかい、俺の好きな人」
「いや、色恋沙汰に興味はないから」
「っふ…相変わらずだね、白澤は」
「赤司くんこそ」
そう、赤司くんだけは知っている。私の本心を。本当は周りなんてどうでもいいし、常に人を見下しているのが本当の私。だから、赤司くんと2人きりの時だけは、笑顔も作らないし真顔のままタメ口で話す。
「で」
「ん?」
「結局好きな人って誰なの?」
「っふふ…白澤ってそういう所あるよね、今は言えないな」
「ふぅん、じゃあいいや」
職員室に鍵を返し、帰路に着く。意外にも私と赤司くんの家は近い為、帰る方向も同じである。二人並んでとぼとぼ帰路に着く。
「所で」
「何?」
「白澤は高校とか決めた?」
「ああ……私は、学大附属行きたいんだよね」
「へぇ…全国2位の…」
「赤司くんは?」
「俺は京都の高校に行こうと思っているよ」
「ああ…洛山、とか?あそこバスケも強いし偏差値は73とかだよね」
「そうだよ…すごいな、白澤は」
「京都って、それくらいしか思い浮かばないから」
流石だね、と笑った赤司くん。そう?と聞き返せば、ああ、と返された。そういえば、赤司くんって普段女子と話してるところ見ないな。その割には結構話しかけてくるし、もしかして私は女子と認識されていないのだろうか。まあ、いいか。赤司くんの前では本当の私でいれるのだから。そう、赤司くんの前だけでは。
*
「……白澤!!!」
「あ、赤司くんおはよう」
「ふふ、おはよう」
「そんなに急いでどうしたの?まだ登校時間まで1時間くらいあるよ?」
「今日は図書室で勉強しようと思ってね」
「え、そうなの」
「ああ、白澤もだろう」
にっこりと嬉しそうに笑う赤司くんは、正直言ってとても絵になると思う。勉強も出来て、運動も出来る、顔も整っていて、おまけに優しい。彼がモテないわけがない。でも、赤司くんの好きな人はきっと、私みたいな人間ではなく、もっと表情豊かな可愛い人間だと思う。まぁ、色恋沙汰になど興味はないのだが。
「んー………」
「これ?」
「うん…」
「ああ…これは…」
「この質問が聞いてるのはこれだろう、だから、その質問にあった3番が正解だと思うよ」
「………本当だ…」
「うん、わかってよかったよ」
「ありがとう、赤司くん」
「!いえいえ…」
きっと、赤司くんと2人きりの時、初めて笑ったと思う。何だか、すごく嬉しかったんだ。京都、遠いな。
そんなことを考えつつも、次の問題へと移ろうとした時、赤司くんの手が私の手に重ねられた。
「赤司くん…?」
「…千尋…」
「な………なに…?」
下を向いていた赤司くんは私に視線を合わせて、それから言った。
「好きだよ…千尋」
「…………えっ!?」
そして、ふふ、と笑ったあとに私の肩に顔を埋めて、女性はこういうのが好きだと聞いたんだが、と言った。何も言えないまま固まっていると、返事は……?と聞かれた。
「え、いや、その…」
「恋に興味がないのは知っているよ」
「ち、が」
「何が?」
「赤司くん………なら………」
これ以上は無理!と思って、下を向いた。そうすれば、赤司くんは顔を上げて、そして私の事を抱きしめた。
「俺なら…何?」
「…………す…きになれるかも…」
「へぇ、まだ好きではないんだ…?」
「それも違う…」
真っ赤になって、涙が溢れそうになったとき、すまない、少しいじめすぎたね。と笑われた。
そして何とタイミングのいいことか、チャイムがなった。それと同時に、図書室が開く音がした。私達は奥の机で勉強をしていたから、きっと見えることはないけど、でも、また、あの五月蝿い声が聞こえた。
「朝早くから図書室で勉強してれば赤司様に会えるかもしれないんだってぇ」
「ええ、本当に?」
だって鍵も開いてたしね!と、声が聞こえた。五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い。ダメだ、ここにいても五月蝿い、逃げなきゃ、バレたら…………………。
ぐいっと腕を引かれた、そして図書室のもっと奥の方へと連れられた。
「ん…!!」
「しー…………」
話しちゃダメ、バレてしまうよ。と小さな声で言われ、黙った。しかし、女子の声はどんどん近付いてくる。
「ねえ、誰かいるんじゃない?勉強してたみたいだよ?」
「しかも、2人?」
「赤司様かもよ〜!!!」
きゃー、と騒ぐ女子達。五月蝿くて耳を塞ぎたくなった。声はどんどん近付いてきて、もう諦めようと思ったが、赤司くんに立たされて、本棚と赤司くんに挟まれた。両腕で囲まれてしまい、逃げ場はない。何してるの、これじゃバレてしまう。
「えっ?」
「あ、赤司様……!?」
っ…もう終わりだ。そう思った時、赤司くんは向こうの女子のほうをむいて言った。
「お楽しみ中の所悪いんだが、少し自重して頂けないかな?仮にもここは図書室だ、騒ぎ立てるところではないよ」
「すいません、じゃあ…赤司様、そちらの女性は?」
「ああ…俺の彼女だよ。ただ、彼女に手を出そうものならたとえ、それが誰でも許さない」
最後に笑った赤司くんに、女子達は何かを悟った顔で、そそくさと立ち去った。よかった、と思い、ぺたんと力無く地面に座り込んだ。
「本当に害悪…」
「そうだね」
「何あれ気持ち悪い」
「ああ」
「赤司くんのせいで、もっと五月蝿くなりそう」
「そうだね、でも、その時は二人で逃げようよ」
訳わからない。と顔を上げてみれば綺麗に微笑む赤司くんがいて、反論出来なくなった。余裕のない千尋もまた素敵だ、と微笑む赤司くんに少し苛立ちを感じたが、これから始まる事を考えればそれもどうでもいい。ああ、五月蝿くなりそう…。と溜息をついて、そのまま赤司くんに抱き締められた。
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