※これのつづきてき
※シンドバッドと白龍
※微裏
それを知ったのはいつだったのだろうか、各地を冒険しながら渡り歩いている時だったのだろうか、それとも旅の宿屋の娼婦からだろうか。とにもかくにも誰かからその話を聞いたのは確かだ。人と似て異なる存在。それが吸血鬼。その存在は人間の中に紛れ込んでいる。それは己もだ。娼婦を腕に抱きながら少しだけ生気を頂いているなんて、この媚薬でどろどろに溶けている女には知りもしない事実だろう。一族中で最も快楽を呼び起こす薬を使用した。御礼のつもりだがただの人間の女には刺激が強かったらしい。
「この世界に数多に広がる吸血鬼の中でも特殊な吸血鬼がいるのを知ってる?」
「へぇ、それはどんな?」
「東の地方にだけ生息する吸血鬼だよ。どの吸血鬼よりも色白な肌と青い瞳が特徴的で、その血は魔力的なものがあるんだってさ。」
「それは凄いな」
「だけど、兄さん残念ながらその地方は数年前に内乱で殆ど生き残りはいないらしいよ」
その娼婦が何処から情報を得たのかは知らないが、御礼とばかりに彼女を抱き潰した。久しぶりの柔らかい女のそれは雄を興奮させるのには十分で。それから数年、国を治めて王と呼ばれるに近い存在になった頃、町の中で見かけたのは同族の存在だ。同族を感じるなどというには稀のことだ。吸血鬼は存在が希有なものだ。だからこそ大半は存在をないものにしようと感じられないようにとする。こちらが本気を出せば誤摩化しても分かるが、そうしていなくても分かるとは。まだ半人前の吸血鬼がシンドリアに入っているのか。それに興味を引かれて、こっそり部下の目を盗んで町に下りた。それは目の前にいた。ふと、あの女の言葉が蘇った。東に住む吸血鬼の血は魔力的な力が宿っているー。声を掛けようとした時、彼はふらりと倒れた。恐らくこの日差しで体力を消耗したのだろう、彼を王宮に連れて帰り、手当をする。
そこから漂う血の香りに自制が出来ず、気づいたら彼の首筋に牙を突き立てていた。甘い。女のように、果実の様に、甘い。それは驚く程さらさらと身体の中に入り込んで来る。そっと血を流し込んでやると彼の苦しげな表情は和らいだようだった。血を飲んだだけでこの身体の奥底から沸き上がる力。成る程、彼らがひっそりと暮らしていたのももしかしたら何か理由があるのかもしれない。そしてこの青年はその内争に巻き込まれているのだろう。顔にある火傷の痕は生々しくそれを雄弁に語る。目を覚ました青年は血を飲まれた事に酷くショックを受けたのか再び眠ってしまった。まだ齢の少ない吸血鬼なのだろう。きっと、血もまだ吸血していない、赤子同然のー。
それから再び目を覚ました青年は、シンドバッドという存在と自分のあり方を理解して深々と助けて頂きありがとうございましたと頭を下げた。彼が動く度にざわざわと漂う甘い血の香りがいちいち自分の中の雄を刺激する。挑発されて何もしない程、我慢の出来る男でもないし枯れてもいない。どさりと彼の身体を再び柔らかなベッドに押し倒した。華奢な身体の青年と完成している身体の自分。力ではどう見てもこちらが有利なのは明らかだ。
「な、にをなさるんですか、シンドバッド王!」
「白龍、その血を私にくれないか。甘く女のようなその血を」
ぎらりと血が奔流する。興奮する。喰らいたい。目がぎらぎらとなるのを自覚する。彼の青い目に自分の赤い目が映り込む。酷く欲情した目。きっと戸惑っているのだろう。それもそうだ。元来吸血鬼の求愛は人間と同じく異性に行うものだ。相手の血を吸うことが求愛行動になる。人間のような性行為も方法の一つだ。だがそれを行う相手は間違っても同じ器官のある男性ではないだろう。きっとこの青年も、そう教えられた筈だ。瞳は驚愕に開かれている。拒絶の言葉を紡ぐその唇に己のそれを重ねる。
「やめ、んン!…っ、んぅ、ふぁ、は、ぁあ」
「ん…」
唇を塞ぎ、舌を絡ませて呼吸を奪い、滑らかな肌に手を滑らすとびくりと身体を驚かせる。何処もかしこもまだ真っ白なのだ。何も触れられていない真っ白なのだ。それを踏み荒らす事に酷く興奮した。胸の頂を唇で遊び、指の腹だ捏ねる。次第に彼からは甘い吐息が漏れる。その白い肌が甘く薄く色づく。感じてるのか、感じやすいのか。何にせよありがたかかった。そのままに下肢に触れて驚いている彼に構う事なく彼の中へ己の楔を嵌め込んだ。当然ながら其処はきつくそれは入れる場所ではない。それでもきつく締め付けるそれがまるで奥へ奥へと誘い込まれているかのようで、己の半身は熱く猛る。そのままに悲鳴を上げる、彼の声を聞きながら中へ入り込む。
「や、ヤァ、あ、んっ、ふぁ、ア!?」
「ふ、ここかい?」
「やだ、そこ…やめっ」
相変わらず其処はキツく締め付けるが声が甘みを帯びている。それが次第に迎え入れる様に蠢く。やはり、薬を使うべきだったかと思いながらそれでもと腰を強くグラインドさせる。華奢な身体は少しでも揺するだけで強く弛緩するかのように動く。それもまだまだ、甘く誘い止まらない。
「私はもうお前の血の、お前の虜なのかもしれん、な」
「ふぁ、あ」
それはもう、出会ってしまったからかもしれない。それでも、きっと。
もう手遅れなこと
END
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