※ありえない感じ
※吸血鬼パロ
※マギ
古来より、太陽に嫌われた、一族。それが吸血鬼。ヴァンパイア。その生まれは何であったのかなど、知りたいとも思わない。知った所で彼らが存在することは基本的には変わらない。太陽に嫌われ、獣のような存在。人とは一線を隔てる化け物。人の仮面を被った獣がその身に宿っているのだ。長い年月をかけて年を取るそいつらを周囲に生きる人間が気づかないなどあり得ないのだ。だから、彼らは一定の場所に住処を構えず点々と場所を移り住む。人の記憶には長く留まらない、それが暗黙の規則の様なものだった。
「白龍、お前も14になった。もう成人として外の世界で生きて行きなさい。」
吸血鬼の一族でありながらひっそりと暮らしていた白龍は、そう言われてある日突然に外の世界へ放り出されたのだ。放り出されたからといって彼は別段困ってはいなかった。と言うもの、彼の面倒を見ていた姉の白瑛が彼を一人前に全てこなせる様にと育てていたのもあった。衣食住の全てに於いては姉と暮らしていたあの頃とそうそう困らなかった。東の地方でひっそりと暮らしていたので、南の方、暖かい所に行って見聞を広めるのも悪くないだろう、そう白龍は思い南へ向かった。心配性である姉に定期的にも連絡を入れつつ、旅人して各地を回ることになったのである。
「旅人さん、どこかへ向かうのかい?」
宛もなく宿を探していた時に、市場でそう声を掛けられて顔をあげると色鮮やかな果物の置かれている其処には青い髪の少年がひょこりと顔を覗かせていた。恐らく店の守りをしている子なのだろうか、と軽く会釈をする。
「ええ、見聞を広めようと各地を渡り歩いています。南の方を目指している所です」
「だったらシンドリアへ行ってみなよ。彼処は面白いから。僕も其処でお世話になったんだ〜」
にこりと笑った少年はそれに、美味しい果物や食べ物も、綺麗なおねいさんもあるんだ!と言う。小さい少年なのに男性欲求については人並み以上のようなそれにくすりと笑みを零して、ありがとうと彼の荷台に置かれた果物を一つ、買って彼の進めるシンドリアへ向かった。船に乗りながらも、そう言えば彼に名前を尋ねるのを忘れていたなと風に吹かれながら思う。市場にいるのだから商人だろう。もしかしたらまた何処かで再会出来るかもしれないと、空を眺めた。
船はゆらりと揺れて身体に振動を齎していた。静かな夜。もう人も寝静まったその時間、外にいるのは白龍だけとなった。闇夜の中、彼は懐から小さな小便を取り出して其れに口をつけて喉を潤す。それは、白龍の生を得る糧となるもの。人間の体内を巡る、血。すっと手を翳すと何処からか漆黒の蝶がその瓶の口元に止まる。笑みを浮かべて少し申し訳なさそうに笑う。蝶はひらひらと白龍の周囲を飛び、そっと人差し指に留り、ちぅと血を啜り、そして再び空へ舞い戻って行った。
「やれやれ、姉上の心配も少し治らないものか」
けれど、それも仕方ないのかもしれないと白龍はマントに隠れた顔に触れる。其処には白い肌。陶器のように白く滑らかな肌、そして顔の半分は赤い痕が其処にはある。幼少の頃に起きた一族同士の派閥争いにおいて、兄二人と父を失った際に辛うじて兄の手によって白龍は生きていた。その際に焼けてしまった其処はヴァンパイアの再生能力を持ってしても元の肌には戻る事はない。男だし顔など気にしないが、見る者は痛そうにその面を見るのであればと白龍はその顔を覆うフードを身につけるようになったのだ。
翌朝、船はシンドリアへ到着した。南の気候は温暖、よりも熱帯という言葉が合いそうな程の熱さであった。寒さには割と強い白龍だったが熱さには耐性がないようで半日もしない内に体内の力は殆ど残らないような消耗をしてしまい、宿屋をさがしているうちに目の前が真っ暗になった。あ、しまった、と思ったその最後の瞬間、男の声を聞いたような気がした。けれど、指一本も動かせないような倦怠感に白龍は意識を手放したのだった。
ぺたりと感じる水分を含んだ何かの感触に白龍は意識を覚醒した。幾分か体力が回復していた。ほっとすると周囲を見渡すと其処には、見知らぬ男性が其処に座っていた。長い黒髪を肩から後ろに流したその男は、指や首に豪華な飾りを身に纏っていた。もしかすると貴族か王族か。申し訳なさそうに助けて頂いてありがとうございますと頭を下げれば彼は気にしないでいいと柔らかな物腰でそう答える。そして、ふっと笑ったのが空気に伝わって来た。何か粗相をしたのかと心配になって顔をあげると彼は手をあげて心配しないでくれと言う。
「なに、偶然か否か、俺と同じ種族にこんなところで再会するなんて思わなかったんだよ。白龍くん」
そう言った彼はにやりと笑みを浮かべて、そして牙をちらつかせた。吸血鬼が牙を出す時は、大凡の状況によりまちまちではあるが大きく二つに分けられる。他の種族との戦闘に陥った時と、吸血行為の前後である。はっとして首筋に手をあてるとそこにはぷつりとした感触がある。
「俺はシンドバッド。申し訳ないが、君の血を頂いたよ。」
俺も、それなりに吸血衝動があるんだ。君の周囲には酷く甘い血の匂いが漂っていたのでね。人とは一線を画する獣の血、同族の匂いがしたんでね。けれど安心するといい。少量ながら俺の血も体内にある。少しだけ回復しただろう。
「噂通りの、甘い血のヴァンパイアなのだな練白龍。驚いたよ」
ーいいか、白龍。その血は誰にも飲まれてはいけない。お前の血は、甘い。甘い血は人を狂わせる魔力がある。だからー
「東の地方で生き残ったその血はお前だけのようだな。甘い血を持つものは格段の力があるというのはあながち嘘ではないようだ。だが安心するといい。俺はお前を殺したりしない」
だからゆっくり眠ると良いと頭を優しく撫でられたのを最後に再び意識はフェードアウトしていったのである。
最後のくちづけはひどくあまい血の味がした
END
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