微妙に『緑間君と○○をする方法を赤司君と考えた』の設定。
繋がりは考えなくてもいいです。
すれ違い系な緑黒のデート風景。
ガッツリラブラブなくせに奥手みたいな矛盾。

妄想アーカイブサンプル




 付き合いだしてから性的なことをするまでどのぐらいの期間が必要なのか、結論としては人それぞれかもしれない。
 黒子としてはなるべく早くが望みだった。どうして早い方がいいのかといえば現在がとても生殺しだからだ。付き合っていたとしても思いが伝わるわけではない。人生はそう上手いこといかない。だからこそ、必要なものもある。

「緑間君、遅刻です」

 お汁粉の缶を緑間に向けて黒子は投げる。
 顔面で受けることなく右手でキャッチして「貰っていいのか?」と聞いてくる緑間に黒子は腹が立った。
「謝罪の一言もなしですか」
「待ち合わせ時間を勝手に変更したのはオマエなのだよ」
「メールしました。見なかった緑間君が悪いです」
「あの時間はおは朝を見ていたのだよ」
「言い訳はいりません。必要なのは反省の気持ちです」
 おは朝を見た後に支度したらどんなに急いでも待ち合わせには遅刻する、そんな時間をあえて指定したのはこれを言うためです。
「罰としてエッチしましょう」
 本当なら罰どころかご褒美ぐらいなもののはずだが緑間は堅物すぎる。朝や昼に言えば「こんな時間から何を考えている」と怒られ、夜に誘えば「もう寝る時間だ」と諭される。黒子にだって欲望がある。好きな相手とエッチなことをしたいという気持ちはちゃんとあった。キスをし続けるような生活も楽しいのだがそれ以上もしてみたい。これは普通の考えだ。いつまでも何もないままで進まないのは嫌だった。好きなら勢いで行動したくもなると大義名分をつけて黒子は緑間にアピールを続けたがいずれも不発。だからこそ、力技に出ないといけない。
「遅刻した緑間君が悪いです」
 律儀な緑間がバツの悪そうな顔で視線をそらせる姿に黒子は内心で握り拳を固めた。こうなればこっちのものだ。
「この公園、人気がないです」
「バカめ。場所を考えるのだよ」
「場所を考えればいいんですか?」
 ホテルに行こうなんて言うことを緑間が言うはずない。学生が用もないのに立ち寄るべき場所ではないという風にラブホテルのことを緑間は思っているはずだ。用はあっても緑間は認めないだろう。そういう男だ。
「個室なら安心ですか?」
 緑間の手を引いて黒子はトイレに入った。
 綺麗に整備された公園の印象を裏切らない清掃の行き届いたトイレは花の香りがした。洗面台に一輪挿しが置いてある。この場所を今から淫らに汚すのかと思うと罪悪感で胸が痛くなるが背徳感は黒子の積極性を後押しした。
 全体が煉瓦を積んで作られたようなかわいらしい外観のトイレは天井がガラスになっていて今の時間はちょうど太陽が蛍光灯の代わりになっていた。必要ならば電気も点けられるのかスイッチは分かりやすく矢印を書かれていたが太陽光だけでも十分すぎるぐらいに明るい。
 日陰にいた先程よりも暑く感じるぐらいだ。
 黒子が床のタイルに膝をつけば緑間が慌てて止めた。
「汚いのだよ」
「冷たくて気持ちいいです」
「洗うのだよ」
 緑間に手を引っ張られて黒子は洗面台に座らせられた。
 大きな鏡に自分の恰好が映っていて恥ずかしい。
 今日の黒子はいつものジーンズではなくハーフパンツだった。シャツも何も考えていないポロシャツではなくノースリーブだ。全体的に露出が高くいつになく自分らしくない格好だったが見立ててくれた黄瀬曰く「あり」だと言う。今はそれを信じるしかない。
 むき出しの膝がトイレのタイルについたとなれば潔癖に見える緑間が嫌がるのも当然かもしれないが黒子にとっては不衛生であることは止める理由にならなかった。
「ジッとしているのだよ」
 そう言って蛇口の前に手をかざしてセンサーを動かして緑間は水を出した。左手にしたテーピングを外して両手で水をすくって緑間は黒子の膝を洗おうとするが黒子は横に移動した。
「洗いたいと言うのならボクの膝でも舐めればいいです」
 自分でも何を言っているのか分からない状態に陥っていたがとにかく黒子としては緑間に言うことを聞かせたかった。常に主導権を緑間にとられてしまうからこそ二人の関係は進まないのだ。惚れた方が負けなのかもしれないがどうにかして黒子は緑間に勝ちたかった。どうすれば勝てるのか考えた結果がこういったワガママだが空回りに終わる。
「バカなことを言ってるんじゃない」
 一蹴されて悔しくて黒子は洗面台の中で緑間の手を避ける。結果としていつものようにろくでもない事態になった。
 トイレの手洗い場は二つあった。
 長方形の洗面台に円形の洗い場が二つ付いている形で水道と石鹸とがそれぞれセンサーが反応すると出てくる仕組みだ。黒子は緑間に二つの洗い場の中間に座らせられた。緑間の手から逃げるために動いたので中間からズレて緑間が使用したものとは逆側の洗面台に見事に尻から滑り込んだ。慌てて立ち上がろうとしたせいかセンサーが反応して水が黒子の尻を濡らす。水が止まったかと思えば石鹸が出てくる。焦ったせいか浮かせた腰に思いっきり水が入ってきた。いくら暑いとはいえ、まだ夏本番には程遠い。水は冷たすぎる。悪寒に震える黒子を緑間が自分にもたれかけさせるようにして抱き上げた。
「オマエはまったく、何をしているのだよ」
 呆れた溜め息が黒子の耳元近くで吐き出される。
「誰のせいでこうなったと思っているんですか!」
「自業自得なのだよ。暴れるんじゃない」
 緑間が黒子の尻を叩く。そのままビチャビチャに濡れた黒子のズボンと下着をずりおろした。
「ちょっ、緑間君!」
「こんな状態では外を出歩けないだろ」
「だからって」
 声を荒げる黒子のほうがおかしいと言いたげな緑間の顔に思わず唇を噛みしめる。いつもそうだ。緑間は自分の正しさを疑わない。人事を尽くしている自分が非難されるのは不服だと言いたげだ。悪気などなく行動するからこそ緑間の指先に黒子は逆らうことができない。
 そうは言っても変だとは思わないのだろうか。思わないからこそこんなことが出来るのかもしれない。緑間を変人だと断言できるのはおは朝へのこだわりよりもそれを当たり前だと堂々としてみせていることにある。自分が特殊であるということを謙虚に受け止めるどころか緑間の態度は不遜だ。だからこそ、黒子は緑間に対してちょっとした悪戯心が刺激される。からかいたいと思っていなくても結果としてからかってしまう形になる。緑間が勝手に変なことをするのだ。そして、そのことを黒子に怒ってきたりもする。緑間の行動は緑間自身が決めていることなのだから黒子の関知するところではない。それなのにこうして膝を洗われ、膝どころか別の部分までさらけ出す羽目になる。不衛生な場所に膝をついた黒子が悪かったで済む話じゃない。
 緑間がこんなことをしてこなければ黒子のズボンが濡れることはなかった。そう言えば百パーセント緑間の視線が突き刺さり小言で一時間は潰れてしまうかもしれない。それは勘弁して欲しい。だが、そんなに黒子が悪いだろうか。
 あのタイミング、あの空気なら跪いてフェラチオの一つぐらいしても不自然じゃない。
 日中の公園という健全な場所で行うふしだらな行為。
 そういったミスマッチな意外性こそもっとも興奮を促すスパイスになりえるのではないのかと黒子は思う。いつもの場所から脱線しないぐらいの日常感にプラスされるエロス。一皮剥けばそこにある獣。男はみんなオオカミならば黒子だって昼夜を問わずに体を火照らせて悶々としたりする。緑間がその気にならないのならならせてみせると誓うぐらいにいつだって本気だ。
 人の性器を見ること自体、恥ずかしさがあるがポーカーフェイスは慣れている。内心を悟らせないように無表情を決め込んで緑間のモノを口に入れるぐらい簡単だ。
 そんな黒子の決意など知るわけもなく緑間は濡れた黒子の膝をとりだした自分のハンカチでふく。その上、濡れて泡のついた下着とズボンをそろって足から抜けていく。靴を脱がされた段階で察するべきだった。
 あっという間に下半身が何も身に着けていないじょうたいになってしまった。
 直接、洗面台に肌が触れると鳥肌が立った。誰のせいだ、緑間のせいだ。膝や太ももなどをハンカチでふく優しさがあるのなら冷たい台の上に載せないで欲しい。
「我慢するのだよ」
 恨みがましい黒子の視線に対して緑間は比較的優しく言ったがそれは子供に対するもののようで黒子は苛立った。
 泡だらけになった黒子のズボンを緑間がすすいでいく。
 お漏らしをした子供のパンツを洗濯している父親だと緑間の私服のせいで思ってしまった。同い年なのに年齢差があるという考えは黒子にとって屈辱的だ。いやでも面倒をみられていると意識してしまう。礼を言わないといけないのだろうか。黒子の心のどこかで自分は悪くないと拗ねているところがある。二人が上手くいかないのは黒子だけのせいではなく緑間にも原因がある。だから、黒子は自分だけが折れるのは嫌だった。
 水ですすぎ終わった下着とズボンをそれぞれ絞って緑間は広げた。本当に洗濯のようだ。見渡して入り口付近の手すりに干すように置かれて黒子は文句を言いたくなったが生憎と緑間はこれだけでは終わらない男だった。
「こちらにも泡がついてしまったか?」
 善意十割、だからこそ救えない。







 あっさりと自分の直接的なアピールを切って捨てる緑間に黒子は不貞腐れたくなる。
「ウォシュレットがないのだよ。オマエがトイレの中に入るように言ったのはそういうことだろ?」
「違います」
 トイレは清潔で個室の数は三つと少ないものの広々としていた。黒子を抱えた状態で緑間が入ってもそこまで圧迫感はない。便器を見渡して緑間はウォシュレットがないので洗面所へと戻ろうとする。
「狭いところで狭苦しく密着しようという誘いです」
「すでに今がそうなっているのだよ」
「もっとです」
「これ以上はないのだよ」
「諦めないでください。粘膜をこすり合わせましょう」
 黒子と緑間は抱き合っている状態なので確かに密着しているがそれで終わってはいけない。ここまで来たら場所も時間も関係ない。男にはやらなければならない時がある。
「緑間君は下着とズボンを脱いで便座に座ってください」
「何も出すものはないのだよ」
「出さなくていいです」
 むしろ、緑間はこれから入れる側だ。
「なら、どうして脱ぐのだよ」
 もっともな疑問だが黒子の考えが最初から変わらないと言うのなら口に出すまでもなく分かるはずだ。
「ボクが脱いだ状態だからです。キミも脱ぐべきでしょう」
 キリリとした顔で言い放てば緑間は納得したようだ。
「そうだな、分かったのだよ」
 案外、緑間が単細胞であるのは黒子も知っている。頭はいいがアホである。素直だといえば聞こえはいいかもしれない。育ちがいいからこそ人の言葉を疑わないのかもしれないが下半身をさらすことは簡単に了承するものでもないはずだ。黒子を片手で支えながらトイレの個室で自分のズボンのベルトを外していく姿は多少間抜けだ。
「緑間君、結構筋力ありますね」
 黒子が自分でバランスをとりながら緑間にしがみついてることもあるが片手で抱えられるている事実に驚く。縦に長いばかりの印象があった緑間だったがバスケットボール部のエースがひ弱なわけがなかった。
「バカにしているのか」
「褒めてるじゃないですか」
 不機嫌そうな緑間はズボンと下着を下した状態で黒子を膝に乗せるようにして便器に腰かけた。緑間の太ももの筋肉は座るには硬いと思いながら黒子は手を伸ばして開けたままになっているトイレの扉を閉める。
 時間的な問題か人の気配は全くない。
 誰かが来たら手すりに干してある下着や置き去りになっている靴に驚くぐらいでは済まないだろう。これから漏れ出すことになる音や熱気で何がどうなっているのかの察しもつくかもしれない。
「緑間君、キミは恋人が下半身丸出しだというのに……」
 ジッと黒子は緑間の下腹部を見つめる。
「なんなのだよ!」
「なんなのだよじゃないのだよ」
 緑間のおでこに自分のおでこをコツンとぶつけてみるが理解は全く得られないので黒子は拗ねたくなった。
「ここは勃起しつつ強がっていたという流れじゃないんですか? だからこそ、雪崩れ込めるというものです」
「なんの話だ」
「スケベしようや、です」
「何を言っているのだよ!」
「最初から言ってるじゃないですか、エッチしましょう」
 黒子だってこんな誘い方が上手いとは思わないがこれ以外のやり方を知らない。直球で切り込むしかないのは緑間のせいだ。それ以外のやり方では緑間の理解が乏しいからこんなことになる。察しが悪いわけではないのに事が性的なものになるとどうしても話題が逸れてしまう。そこまで緑間が黒子との関係を避けているのかと思えば気づいていないということが常だ。
 まるでどこかの恋愛物語の主人公のように突発性難聴や強制睡眠または若年性の健忘症に見えるような不可思議なバリアーを持っているかのようだ。世界から邪魔されているかのように上手くいかない。緑間的に言えば人事を尽くしていないから運命の女神にそっぽをむかれているのかもしれない。どうすればいいのか考え続けた黒子の出した結論がとにかく前のめりだ。一瞬のチャンスも逃さない。遠慮していたらその場で足踏みをしているだけで二人は進めない。今まで黒子が口にしたことを緑間に無視されたことはないが婉曲的な表現は曲解されてしまう。緑間には通じないのなら通じるようにするだけだ。それが黒子の出した結論だ。
 あまりにも色気がないと相談した相手には呆れられたがそれは緑間が悪い。これがすでに黒子の認識になっていた。しらばっくれられてしまわないように黒子は精一杯だ。時折、わざと伝えるつもりのないことは汲み取るというのに一番理解しておいて貰いたいところは流されてしまう。その苛立ちは自分のカバンが見当たらないと探し回って困っていたら何故か黄瀬が持ち歩いていたのを発見した時と一緒だ。ありがとうと礼を言うべきなのかもしれないが不快さというか疑問が先に立つ。もっと他にするべきことがあるんじゃないとかと、そんな苛立ちだ。荷物があったことを喜ぶべきか黄瀬が管理していたことを安心するべきか黒子は無言になって考えてしまう。勝手に自分の持ち物に触れられたことについては然程気にしないがなくなったのかと思って探し回った時間を返して欲しいとは思う。結局、その時は団体行動を乱したということで黄瀬と黒子は揃って怒られてしまった。緑間も実を言えば似たようなところがある親切心が空回っている。体力がなく倒れることの多い黒子に黄瀬とは逆に自分の荷物を持たせてきたりする。自分はラッキーアイテムを持っているからと理由をつけて荷物を渡してきて最初の頃は緑間の荷物をそのまま隣にいる黄瀬や紫原に渡していたが怒られた。
 緑間の行動が黒子の筋力アップを助けたい気持ちからなのだと赤司から言われて知ることになったが口で言われないと分かるわけがない。ただの嫌がらせだと思っていた。
 緑間は分かりにくい。
 手を繋いだりキスをしている時の方が何を考えているのか分かりやすかった。抱き合えば緑間の心臓の音が聞こえる。いま、どう思っているのか緑間が口にしなくても黒子は理解できる。もっと深く抱き合えば今よりもずっと近づくだろうと考えるのはおかしくはない。
「ヤりましょう」
「ここでか?」
「人は来ません。チャンスです」
「トイレなのだよ」
「トイレなら下半身が露出していてもおかしくないですね」
「それはそうだな」
 これで納得してしまうあたりがちょろい緑間だ。
「本来は一人しか入れない場所に二人。そうなれば――」
 やるべきことは決まっていると言いたかったがその前に緑間に唇を封じられた。いつも以上に念入りに唇をついばまれて舌先を吸われて黒子は目を細める。
「……っ、……キミもヤる気なんじゃないんですか?」
「ヤる気? オマエがキスをしたいと言ったのだろう」
「言ってません」
「粘膜をこすり合わせたいと言ったのはオマエだろ。……その、深いキスをしたいと言うのでも、もう少し言い方があるだろう」
 緑間との会話がいつもどこかそれてしまうのは慣れている。最初はムカッとイラッとしていたが感情を波立たせないように黒子は自分を制御する。目の前にいる緑間を公園の中心あたりに立っている巨木だと思い込む。言葉がうまく伝わっていないのは木だから仕方がない。そう思えば心には余裕が生まれる。ただ、この場合の問題は自分が樹木に対して発情していることになるあたりだが黒子はそれも割り切った。森林、それは素晴らしいものだ。みんなで守ろう自然環境。そんなスローガンは目を閉じても刷り込まれる現代社会だ。帝光中学でも誠凛高校でも地域の緑化対策で緑と触れ合うことはあった。植物を育てるのは嫌いじゃない。ゴミ拾いも苦ではない。つまり緑間の訳のわからなさだって許してしまえるのだ。思考が飛躍しすぎていると緑間との関係を相談するたびに赤司に言われもするのだが、こんな風に思わなければやってられないのが事実だ。緑間との付き合いで黒子の思い通りにいった試しがない。
 嫌われているのかと不安になるほどの噛み合わなさだ。
 悪循環なのかもしれないと高校になって少し黒子は冷静になった。赤司に急いては事をし損じると言われたが黒子は耐えられることとそうじゃないことのバランスが偏っているのだろう。目的のために努力は惜しみない。くじけなければ必ず実を結ぶかもしれないという願いが黒子を突き動かす。この場合はつまり、性的な意味でガンガン行こうぜというあたりだ。それが緑間を引かせていたり警戒心を抱かせているというのならもう少し気にするべきだが実際はやはり違う。それ以前の問題だ。
「口は消化器官でもあるが快楽を得られる場所でもあるのだよ」
 だからどうしたというのか。黒子は半眼になった。
「そうですね。口の中も粘膜ですが、そうじゃないです。ボクの直腸にキミの精子をかけてくださいという誘い文句です。出来ますか? ここまで言ったんですからやってもらわないと困ります。男なら突き進むべきです」
 あくまでも苛立ちを見せないように淡々と黒子は言った。
「つまりオマエの腹を切り裂けということか?」
「へその方から攻めてこられたらボクは取り返しのつかないことになります。緑間君が試したいというのなら……」
 トイレが血塗れになると思ったが黒子は萎えることはなかった。そんな不自然な繋がり方でも何もないよりはマシだと感じたのだ。愛に飢えてしまっているのかもしれない。
「オレは痛い思いをさせたいわけではないのだよ」
「大丈夫です、痛みもそのうちには快感になると偉い人の言葉です。張り切っていきましょう」
 今の生殺しのような状態の緑間との関係も黒子にとっては痛みの内になる。痛い思いをさせたくないというのなら今すぐにでも黒子の望みを受け入れるべきだ。そのあたりに気づくことがないからこそ緑間は樹木だった。理解を得ようと足掻いている黒子の方がおかしいような雰囲気は腹立たしい。
 趣味も価値観や考えも合わないのに二人は一緒にいる。その理由のもっとも足るところは噛み合わなさという苦痛がスパイスになっているのかもしれない。
「どうなんでしょう。焦らされているから好きな気がしていて実際に一線を越えたらどうでもよくなっちゃうんでしょうか。……どうなるんでしょう、ボクとキミ」
「何の話なのだよ。腹を切ったら処置の仕方によっては失血死するのだよ」
 緑間こそが何の話をしているのやらだ。
「キミを好きだと言ってるんです、朴念仁。こんなところでスプラッタなことをしたいなんて言いません」
 言い放てば緑間はグッと黙った後に目をそらして「急にどうしたのだよ」と小さく呻く。黒子に比べれば大きな身体を不自然に縮こまらせるような緑間に首を傾げる。何かを隠すような、誤魔化しを感じて顔を近づけようとすれば後ろに身体をそらされた。便座に腰を掛けている状態なのでそれほどの自由度があるわけでもない。それなのに緑間のこの態度。ふと視線を下に向けると答えがあった。
「どうして勃ってるんです?」
 硬くなって存在を主張する緑間の性器を黒子は撫でる。
 今の会話のどこに反応したのか単純に疑問だった。直接的でも変化球でもまったく緑間は動かないというのに今は違う。身体が反応しているならあとはこちらのものだ。
「そんなことはどうでもいいのだよ。今の問題はオマエが腹を切りたいと言い出したことだ」
「腹を切りたいなんて言ってません。腹を割って話すことは必要かもしれませんが腹は切りません」
「オレの勘違いか」
「そうです。ボクはキミのこれをさっき解された穴に入れて欲しいという話をしたんです。つまりはエッチの話です」
「だいぶグロテスクな話をしていた気がしたが、違うのか」
「違います。艶っぽい話です」
 セックスを人によってはエグい話と表現するかもしれないが恋人に対してそれはない。失礼だが緑間の失礼さなど今更だった。
「オレの生死をかけろという話だっただろ。殺伐としている。おおよそ、普通は聞くことにはならない単語だ」
「緑間君の精子を搾り取るという話です」
「……もう二十年後ではダメなのか?」
「ダメです」
「今すぐは……さすがに」
「意気地なし! 見損ないました。こんな臨戦態勢を見せつけながら臆したんですか!? まだ不能であるなら納得しましたよ。使えるのに使わないとは男の風上にも置けませんね。キミはこのなまくらをどうする気でいるんです」
 ぐりぐりと黒子は緑間の性器を掴んで弄った。
「ここまで来たら男を見せるべきじゃないですか?」
「男らしく散るのも人生か」
 遠い目をする緑間に黒子は頷く。
「細かいことは脇に置いて、必要なのはボクとキミの気持ちです。ヤるか、ヤらないのか、二つに一つです」
「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ、ハムレットだな」
「あまり格好いい台詞じゃないですけどね、それ」
 響きは格好いいが原文のほうに哲学的な意味はない。
 恋人同士が二人して下半身を晒しているというのにこの雰囲気はどうなのだろう。もっと艶やかで湿っぽいものを望んでいた黒子としては溜め息を吐きたくなる。
「キミがしたくないって言ってもボクはしたいんです。射精しあって欲望にぐちゃぐちゃにまみれてみたいです。そういった衝動をキミは一切持ちえないんですか?」
「写生? オマエがそんなことを考えていたのは知らなかったのだよ。済まない」
「今まで随分と言っていた気がしますが分かりませんでしたか、そうですか。……いいです。もういいです。眼鏡をかけてても節穴な目は閉じててください」








「ふう」

 黒子は便座から立ち上がり、トイレの個室から出た。
 洗面台に備えられた鏡に映った自分の顔はどこか楽しげに見える。これからデートなので当然だ。
 手を洗って髪の毛を触る。さすがに寝癖をつけたままでは怒られるので朝にブラッシングはしてきたが髪の一部はまだ跳ねている。そのうちに収まるだろうが緑間に小言を言われるかもしれない。
 水をつけて手櫛で整えようとするが上手くできない。
 黒子はそのまま時間を忘れて鏡と向き合った。
 家では気にならなかったというのにこれから緑間と会うとなると落ち着かなくなったのだ。
 しばらく経って携帯電話を見ると緑間から着信があった。
 時間を確認して黒子は髪の毛を弄るのをやめてトイレから出ることにする。待ち合わせの場所まで行けば携帯電話を見ながら貧乏ゆすりでもしそうな落ち着かない状態の緑間がいた。苛立ったような緑間の背後に回り、緑間の膝の裏に自分の膝を当てる。
「なにをする」
 体勢を崩した緑間が物凄い形相になったが黒子は冷静に「膝カックンです」と返した。すぐに立ち上がって、そのつもりがなかったとしても威圧するように睨み付けてくる緑間に対して黒子は淡々と告げる。
「緑間君、遅刻です」
「なんだと……」
 眉間に皺の寄った緑間の顔面めがけて冷たいお汁粉を黒子は投げつけた。想像通りに危なげなく受け取り不思議な顔をする。
「貰っていいのか?」
「キミ以外の誰が飲むんです、それ」
「オマエが自分で飲みたくて買ったんじゃないのか」
「違います。緑間君が来るのが遅かったので自販機で購入していました」
「オレよりも早く来ていて、どうしてこうなる。今は何時だと思っているのだよ」
「待ち合わせ時間の三十分後です」
「心配したのだよ」
 遅刻したらおいていくと言っていた気がするのだが黒子は緑間においていかれたことは今までない。
「自販機から戻る途中で」
「迷ったのか? 多少、この公園は広くはあるが――」
「トイレを見つけて入りました」
 そして、そこの広さにちょっぴり感動して妄想をはかどらせていたといところまで伝えるべきか黒子は悩んだ。
「調子が悪いのならまた今度にしてもいいのだよ」
 二人がする予定だったのは図書館巡りだ。
 公立の図書館は大体、分かりにくい場所にあることが多い。地味なビルの一室に紛れ込んでいて知らないで歩いていれば見落としてしまう場合もある。建物の作りに統一感もないので図書館の看板を見かけてもどれが図書館であるのか分からなかったりもする。
 大きさも蔵書もそれぞれ違いがある。取り寄せることも出来るがそれなりの日数がかかるし、取り寄せた本を受け取りにいかないとキャンセルになってしまうので少し気を遣う。そんなことをたまたまマジバーガーで会った緑間に話したら休みが重なった今日に一緒に出かけることになった。緑間と黒子は図書館で会うことはない。つまり、二人の使っている図書館は違うということだ。そこで今回はお互いが使っている図書館をそれぞれ見てみようという話だ。
 わざわざ二人共の家からも図書館からも遠い公園で待ち合わせをしたのは他ならない「デート気分」を味わいたかったからだ。お互いの家は知っている。そして、活動圏内だって想像できるので緑間がどこの図書館を使っているのかは想像がつく。その上で図書館から離れた場所を待ち合わせに使ったのは少しでも長く一緒に居たい気持ちのなせる業かもしれない。黒子にとっては無意識だったがこうして向き合うと自分の中の欲望もよく分かる。
 トイレの中でいくら想像しても現実はその通りにはならない。もっと言ってしまえば妄想は妄想でしかない。黒子の服装はそれほど軽装ではない。茶色のズボンに焦げ茶のシャツ、その上にローズピンクのパーカーを着こんでいる。はっきり言って露出度は低い。手や足が出ていればアピールになるかといえば性別的にならないだろう。短いシャツなど着ていれば緑間が自分の上着を貸して来たりするかもしれない。図書館や本屋は弱冷房のところもあるが基本的にゆったりとくつろげるように冷房の効きは強い場合がある。人が集まるので多少冷房が強かったとしても気にならないのだ。
「具合が悪いのか、黒子」
「平気です」
「変なところで強がるのはよせ」
「強がってません。お汁粉あげるので許してください」
「――遅刻はよくないが、今回は大目に見るのだよ。だが、オマエは来るのが早すぎる」
 溜め息を吐きながら緑間は眼鏡のブリッジを押し上げる。
「あぁ『オレは三十分前に来たのにオマエは居なかったのだよ』ですか?」
「何で知っているのだよっ」
「キミが待ち合わせ場所にいるのを見てからトイレに行きました」
 トイレの場所を指さす黒子に緑間の肩は震えた。
「オマエは一言、声をかけることも出来ないのか!」
「気付くかと思って少し見ていましたがキミはずっとケータイの画面見ていたじゃないですか」
「おは朝を見ていたのだよ」
「今日のラッキーアイテムは?」
「自転車らしい。ちょうど家にあったのだよ」
 ポケットから緑間が取り出した手のひらに乗るぐらいの大きさの細工に黒子は目を細める。
「それ、持ち歩いていいものなんですか?」
「あぁ……何か箱に入れるべきかもしれないな」
「お尻のポケットから出しましたよね。座ったら壊れるますよ」
「それは困るな。母が大切にしている置物だ」
 前輪が大きく後輪が小さいタイプの町中で乗っている人は見ないがデザイン的に見知った自転車。ハンドルやサドル、ペダルといったボディは金でタイヤはクリスタル。パッと見ただけでもよく作られているのが分かる緻密な細工物を無造作に持ち歩く無神経さが黒子は信じられなかった。
 以前に狸の置物を持ち歩く人とは一緒に出歩きたくないと言ったが小さければいいというものでもない。
「そんな持ち方したら絶対に壊れます。アホです」
 ハンカチを取り出して黒子は緑間の手から自転車をとる。
「みずがめ座のラッキーアイテムはなんでした?」
「背の高い友人だ」
「火神君と夕飯でも食べに行きます」
「なっ」
 緑間の自転車を自分の鞄のポケットに入れながら黒子は「嘘です。メールで今日のことを自慢します」とサラリと流す。
「背が高くてもキミは恋人なのでボクのラッキーアイテムにはなりません」
「それはそうだが……違う、自転車を返すのだよ」
「今日はずっと一緒に居るんだからキミが持っていてもボクが持っていても同じじゃないですか」
「今日のかに座は」
「最下位ですか?」
「十位だ」
「じゃあ、いいじゃないですか」
「みずがめ座は十二位なのだよ」
 最下位は黒子だったらしい。
「ボクは気にしません」
「オレがいるから問題ないと思っていたのだよ」
「ボクの分のラッキーアイテムですか?」
「あぁ、だが困った。……そうだな、黒子、今日は一旦」
「火神君を呼びますか?」
「いや、ヤツはしし座だ。十一位なのだよ。何の役にも立たん」
 どうやら最下位の三人らしい。
「おは朝は翌日分も教えてくれる便利な番組なのだよ。昨日のウチに済ませておくべきだったが、まあ、平気だろう」
 何がだと黒子が口を開く前に緑間が「別れよう」と言った。耳を疑う黒子を前に緑間は変わらぬ調子で「別れるのだよ」と言い出した。
「そうすればオレ達は友人になるからオレはオマエのラッキーアイテムになるのだよ」
 自信満々な緑間に黒子は先程、渡したお汁粉を緑間から奪い返して緑間に向かって投げつける。呆れて馬鹿なことを言っていると思えれば良かったのだが残念ながら黒子は傷ついてしまった。悲しかった。自分が最下位だから緑間がこうした提案をしているにしても悔しかった。
「キミの気持ちってそんなものですか」
「別れてもまた付き合えばいいのだよ」
「おは朝が理由で別れられる身にもなってください」
「一番手っ取り早いのだよ」
 心がないんだろうか。真正面から傷ついたと言えば緑間は反省するのかもしれないがそれはどうしてか言えなかった。恨み言は一度こぼれると留まりそうにないからかもしれない。これから二人で楽しく出かけるというのに散々だ。おは朝の呪いは確かに黒子を最下位にしてくれる。
 現実が黒子の妄想と違うのはおは朝を見ないでさっさと待ち合わせ場所に来るようにと言えないことだ。頭の中でなら簡単に何回だって言えたが実際に緑間には言えない。ギリギリの時間を待ち合わせに選ぶのが精々だ。おは朝を見終わって待ち合わせ時間のちょうどに緑間は来ると思ったがわざわざ公園でおは朝を見始めた。これは黒子への気遣いというよりは挑戦だった。おは朝を見ているのを遮るように声をかけたら緑間は絶対に怒るだろう。理不尽だ。待ち合わせをしている相手に声をかけられてキレる沸点の低さ。苦手だ。黒子の想像通りに緑間が怒るかは分からないが折角会ったのに「もう少し待っていろ」と言われたら面白くないに決まっている。
 そんなことを言われたら家に帰りたくなるか緑間にお汁粉の缶をぶつけ続けることだろう。自分が惨めな気がしたからだ。気にしなければ気にならないことも柄にもなく浮かれて楽しみにしていた分だけ空回って悔しく恥ずかしい。想像の中ですら緑間は黒子の思い通りには動いてくれなかったのだから現実はそれ以上に酷いのは当然だ。諦めて割り切ることが出来たのなら人の心に傷などつかない。大人は諦めて割り切って鈍くなっていくのかもしれないが黒子にはその道筋がまだまだ遠いようだ。心はかき乱されて落ち着かない。黒子は溜め息を吐くのを我慢して口を開いた。
「一番早いのは黄瀬君をここに呼んだりすることじゃないですか? 彼も忙しいかもしれませんが」
「アイツはオマエにとって友人なのか?」
「緑間君も失礼なこと言いますね。……はぁ、ラッキーアイテムですよね。別に本人が居なくてもいいと思いませんか? 思いましたね? ちょっと待っててください」
 深い溜め息を吐きながら黒子は黄瀬にメールを打とうと携帯電話を開いた。ちょうどメールを受信した。差出人は赤司だ。見れば画像が添付してある。件名、仲良くしているかい?、本文にはより取り見取り、好きな写真を待ち受けに使うといいとあった。
「思考を読まれすぎていて怖いですね」
「どうかしたのか?」
 緑間が聞いてくるのでメールの画面を見せた。
「黄瀬君本人に写真くださいというよりも穏便に事が済みました。さすが天帝の眼です」
「このメールは赤司からだったのか? いて座は今日の一位なのだよ。ラッキーアイテムは友人からのメールだ」
「一位のおすそ分け件ラッキーアイテムゲットですか。メール来れば返信しますからね」
 一石二鳥とはいえ、赤司がわざわざ占いの結果を気にするとは思わないのでこれは緑間と黒子に気を利かせているのだろう。
「赤司君もボクよりは背が高いですから……」
 黒子は赤司の写真を待ち受けに設定した。携帯電話は常に持ち歩いているものなので待ち受けに背の高い友人を設定していればラッキーアイテムを持ち歩いていることになるだろうと思ったのだ。黄瀬なら自分の画像をいくらでも持っていそうだしなかったとしてもすぐに撮って送ってくれるだろう。黒子の知り合いの中で黄瀬が一番メールの返信が早い。緑間を納得させるには早さもまた重要だ。本当に別れを切り出しかねない。
(別れるってどういうことか分かってるんですかね)
 黒子としては微妙なトラウマと腹立たしさが同居する話題だ。惚れた方が分かる事例だ。緑間が平然と別れを切り出せても黒子は違う。嘘でもなんでも一時的だとしても嫌だった。そんな気持ちを懇切丁寧伝えられるほど自尊心は欠如していない。たいしたことがなかったら一言口にすることも出来たかもしれないが黒子にとっては軽口で済ませられない問題だ。緑間との物事の捉え方の違いに絶望的な気分になる。五寸釘と藁人形で誰かを呪えるのなら間違いなく黒子は緑間を呪殺する。おは朝の占いで対抗してみて欲しいものだ。
「知らない写真ばかりです」
 どろっと気持ちが粘ついたものになったのが写真を見て吹き出しそうになって消えていく。
 いつに撮影したものなのか中学時代のものだろう。
 キセキの世代それぞれ個人の写真、どこか履歴書に貼る証明写真のような胸元までの直立したものと何人かがまとまって映っている写真。まとまって映っている写真は撮影時期に謎が多い。普通に考えると合宿の時のはずだが黒子には覚えのないものばかりだ。ダルそうな顔の紫原と眼鏡がないせいで窓に向かって話しかけている緑間は傑作。
 窓ガラスに映った自分の姿を紫原だと思っているのだろうか。一枚の写真からそんな情景が簡単に想像できる。
 腹を出して眠っている青峰とその横で紫原に頭を掴まれている黄瀬というシュールな写真もあった。
 撮影者が赤司だと言うのなら、この薄っすらと見える茶目っけはギャップがありすぎる。答えを言い切ることはしないがヒントは出してくれる優しさを持っている人なのでこの写真にも何か意味があるのかもしれない。初心を忘れるべからず、そんなところだろうか。
「これでラッキーアイテム問題は解決ですね」
 赤司に対して礼をメールして黒子は携帯電話を鞄にしまう。緑間は微妙な顔でお汁粉の缶を見ていた。手持無沙汰だったのだろうか。少し構われなかったぐらいで拗ねるなど大人げないと黒子は自分を棚に上げて思った。
「どうかしましたか?」
「どうしてオレはお汁粉の缶を投げつけられたのだよ」
「分からないならもう一度投げつけてやりたいです」
「遠慮するのだよ」
 そう言ってお汁粉の缶を鞄に入れた。飲まないらしい。
 家まで持って帰って冷やしなおすのだろうか。神経質な男だと黒子は舌打ちする。
「黒子? オマエは何が不満なのだよ」
「全体的にキミの態度とか考え方です」
 いつもの事を不満だとぶちまけるなら一緒にいない方がきっと二人にとって一番だ。そうは思いながら関係は変わらずに続いている。
「もう少し具体的に言うのだよ」
「手を繋ぎたいです」
 考えていたこととは全く違うものが口から出たが言ってしまうとそれが不満だった気もしてくる。不思議なものだ。
 緑間が右手を近づけてくるので黒子は振り払うことなく握りしめた。そのまま公園を抜けて駅に向かわないといけない。この公園自体も辺鄙ではないがアクセスがいい場所にあるわけではない。帝光バスケットボール部で練習試合などの移動時に緑間と二人で電車の外から見た公園だ。桜の並木道が出来ているらしく上から見ていると大きなピンクの絨毯に見えた。アスレチックやサイクリングコース、子供たちの遊具はもちろん大人用の飲食店などもくっついた場所。行けたら行ってみたいと黒子が口にしたことを緑間は覚えていたらしい。
 二人で手を繋ぎながら木漏れ日の中を歩く。
 風は涼しかったが日差しは暑くギラついていた。
 知らない花が多かったがいちいち看板で説明がある。
 そのせいか二人の歩みは緩やかだ。
 日差しの眩しさに本当ならフードを被ってしまいたいと思ったかもしれないがそんな気も起らない。
 緑間の立ち位置のおかげで黒子は陰に入って楽だった。
 これはわざとなのかもしれないと隣にいる緑間を見ていると「なんだ?」と聞かれた。普通なのかもしれないが喧嘩を売られているような気がして「何でもないです」と言いながら緑間の肩へ頭を押し付ける。困ったような緑間になんだかいい気味だと思った。


続きは本編で
発行:2013/06/16
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -