お約束を踏まえた上で自分色。
そんな感じのネタです。
女体化注意。ブラックジョーク注意。
赤司征十郎企画:が平気ならこのノリもOK?
続いたらシリアスにするかギャグのままか悩みどころ。



まさかのビッチ




目が覚めたら世界が一変していた。

そんな展開を思い描いたことはありますか?
ボクはあります。
立って走り出すうさぎがいたなら追いかけてみたくなるぐらいの子供心はいつでも持ち合わせているんです。
バスケも好きですが本も好きです。
だから、ちょっと不思議な物語の中に自分を紛れ込ませたいなんていう空想はよくしています。

「黒子、大丈夫か?」

目を覚ますと懐かしい顔が五つ。
いま知っている彼らよりも幼いその姿に思わず目を見開いて驚いてしまいます。
不思議の国を想像しても自分が本当にその場所に立つとまでは考えません。
普通はそうですよね?

「どこか痛むか?」

赤司君に言われて首を横に振ろうとして頭に痛みが走りました。
手で触れてみれば血が滲んでいます。
みんなが息を飲むのが分かりましたが未だに状況を把握できません。

「ここ、どこですか? 帝光中学? なんで?」

自分の声がおかしくて思わず口を押えて「あれ?」と首を傾げて目の前が暗くなりました。
めまいに体の力が抜けましたが依然として抱きかかえられているので体が倒れることはありませんでした。
死に掛けのセミのような声で「ぐろごっぢぃぃ」と聞こえてくるものの飛びかかられたり大声はありません。
黄瀬君は昔の方が大人しかったでしょうか?
そんなこともなかったと思うのですが、不思議ですね。
不思議なことばかりがあって本当に驚くべきことが隠されている気がします。

「記憶が混濁しているのか?」
「頭を打ったのだからありえるのだよ」
「どうするの? オレが黒ちん運ぶ?」
「……テツ、わりぃ」

ざわざわと聞こえる声が遠くて貧血だと思いました。
ご飯を食べずに走ってこうなったことが何度かあります。
昔から赤司君や緑間君に注意されていましたね。なんだか怒られることすら懐かしいです。
誠凛に入学して数か月。ボクにはもう、帝光での思い出は遠いものです。

「今日のところは病院で診察を受けてゆっくりした方がいいね」

耳元で赤司君に囁かれて何とか頭を動かして了解の合図をします。
緑間君に「無理するな」と言われたので目を閉じることにしました。
体から力を抜けば「いくよ〜」と紫原君に声をかけられました。
持ち上げられていることは分かりましたが足元がやけに涼しいです。

「……ッ!」
「黒ちん? 痛い??」
「ボク、なんでこんな格好してるんです?」

薄目を開けてみれば自分の足が見えました。
生足です。
元々肉付きがないとはいえ男にしては筋肉がなさ過ぎて情けない足。
さすがにボクでもこんな訳ないです。
ハーフパンツを履いているのなら練習中ですね、で済みますがこれは異常事態です。
見覚えのある帝光中学の制服とはいえボクが着ているのは女子生徒の制服です。
スカート!! バカな。
思わずめくりあげてみれば見えるのは横じまのパンツ。
味も素っ気もないとはいえ女性もの下着。
ボクは変態だったんですか? 理解が追いつきません。

「黒子っち、女の子がそんなことしたらダメっスよ!!」

黄瀬君がボクの手をスカートから放して自分の上着を膝にかけてくれました。
スカートのめくれとかが気になりませんね。すごい。

「黄瀬君、紳士的ですね」

驚いていれば赤司君から「今のはテストかい?」と聞かれる。
何のことかさっぱりですけど、これがテストなら黄瀬君は合格なのでしょうね。
まともに受け答えをするつもりがなかったのか赤司君は紫原君にボクを保健室に運ぶように口にしました。

「明日、もう一度みんなでゆっくり話そうか」

そう言われても何を話すのかボクには分かりません。
自分だけが知らない場所に来てしまったようです。
手を動かして気になる部位を触ってみればある筈のものがなく、ないはずの膨らみがあります。
これはいよいよ認めないといけないんでしょうか。
頭が痛いので考えないという選択肢はありますか?

「黒ちん、欲求不満?」
「なんでです」
「だってー、オレに抱き上げられてんのに一人で遊んでるんでしょ?」
「はい?」
「自分で胸もんでたじゃん。誘ってんの?」
「確認していただけです」
「……確認? あ〜、別に黒ちんが寝てる間に勝手に始めたりしてないよ。平気、平気〜」

何の話ですか。

「ミドチンはそういうの嫌いじゃん。赤ちんもまずは話し合いからって言ってたし」
「はぁ、そうですか」
「演技じゃねえーんだ? 黒ちん、本当にわかんないの?」
「残念ながらキミが言っていることは全部理解できません」
「そっか、じゃあ全部振り出しかもね」

息を吐き出すような紫原君にボクはなんて言うべきでしょうか。
分からないままいつの間にか保健室についていました。






保健室で簡単に治療を受けて数分。
ボクは鏡に向かって現状の理解を進めます。
紫原君はボクを保健室に連れてきた後そのまま自分の教室に戻りました。
保健の先生も治療の後に誰かに呼び出されて席を外してしまいました。
つまりは知らない場所で一人残されてしまったのです。
心細いですが現状の認識するために一人で落ち着く時間は必要かもしれません。

鏡を見つめて首を傾げてみます。鏡の中の人物も首を傾げます。
つまりは目の前にいるのはボクのはずですがその姿に心当たりがありません。
ボクが知っているボクよりも髪の毛は多少長く全体的に骨格は小柄で顔の比率に比べて瞳も大きいかもしれません。
生憎と遺伝子情報はさほど変わらないのか鏡の中のボクはかわいいというよりも不愛想な少女という感じです。
女の子になっているのにかわいくないのは夢が足りませんね。
地に足がついた妄想と言うべきかもしれません。
けれど、実際に触ってみた胸の感触は紛れもなく本物で妄想とか非現実なんて言い表せるものではありません。
じゃあ、これが現実ですか?
ボクは女性だったんですか?
いつから?
なんで?
どうしてですか?
誰かこの事態を説明できますか?

「どうして女なんですか?」

冗談きついです。
十五年も男をやっていて今更、女。
頭がクラクラしてきます。頭に巻かれた包帯に触れながらボクは考えます。
ボクはいったい誰なのか。
ボクには十五年間の男の記憶があります。
というよりもボクの中で帝光中学に居たことは過去の話です。
高校一年というのが現在のボクの時間です。

「頭を打ったことによって記憶障害でこんなことになりますか?」

いいえ、ならないと思います。
記憶障害とはただ単に記憶することができなかったり、記憶を取り出すことができない病気のはずです。
こんな現実感のある妄想を構築するような病気ではなかったと思います。
どちらかと言えば「高校一年男」の「ボク」という人格が急に生まれたとなれば現実逃避による人格交換です。
多重人格障害。

「あるいはSF的にパラレルワールドでしょうか?」

たとえば広い宇宙の可能性の中でボクが女性として生まれた世界があった。
その世界の中に男として生まれたボクの精神がやってきてしまった。
それならボクの男の肉体に女性のボクがいるのでしょうか?
体返して!

「テツ君?」

保健室の扉が控えめに開かれました。
桃井さんが立っていました。
ボクを恐れるような桃井さんに微笑んで手招きます。

「テツく〜ん!!!」

抱き付かれてボクは受け止めきれずに床に倒れました。
頭はぶつけないようにしましたが痛みはあります。

「あ、ぁ、テツ君ッ!! ケガしてるのにごめんねッ。わたしっ」

オロオロする桃井さんに「大丈夫です」と口にすればギュッと抱きしめられました。
胸に顔が埋まります。
桃井さんは昔からこういった行為を平然としますが男にはよくないです。
今のボクは女性かもしれませんがよくないです。

「テツ君にケガさせるなんてあのガングロ!!」
「ボクの怪我は青峰君のせいなんですか?」
「分からないけど、大ちゃんが私に謝ってきたから……」
「大ちゃん?」
「うん、多分、私たちのことバレてたんだと思う」

青峰君と桃井さんは幼馴染なので別に愛称で呼んでいても気にしませんが何だか違和感があります。
なんででしょうか。

「今日さ、テツ君は私のためにみんなと別れる気だったんだよね?」

真剣な顔で言われても何のことか分かりません。
桃井さんは誤魔化さなくていいのと無理したように笑います。

「私がテツ君を独り占めしたいなんて言ったから……ごめんね」

よく分かりません。
女性のボクはどんな交友関係で生きているんでしょうか。
誰も疑問に答えてくれません。
この世界の黒子テツヤさんはどんな生き方をしていたのか気になります。

「桃井さん、授業の方は?」
「……あ、うん」

名残惜し気でしたけれど時計を見て桃井さんは保健室を後にしました。
ボクの前には山積みの疑問。
気が付いたら女の子でした!それだけでも大問題だというのにこの有様。

「黒子っち、ジャージ持ってきたよ。タクシーも来たから着替えて行こっか?」

黄瀬君が鞄を見せてくれます。
どうしてジャージに着替えないといけないのかたずねる前に黄瀬君はボクのスカートを指さしました。
赤い染みが出来ています。制服は白いので結構目立ちます。

「さっき、頭触って血の付いた手でスカート触ったでしょ」
「気付きませんでした」
「黒子っちってそうだよね。白い制服だから気を付けなって言ってるのに」

呆れたような黄瀬君に長年の付き合いみたいなものを感じます。

「今って中三ですか?」
「分かんないんスか?」

質問を質問で返されてしまいました。

「黒子っち、本当に全部、分かんない?」
「そう言ったらどうします?」
「オレだけを見て」
「黄瀬君? どうしたんですか?」
「ほかの誰かじゃなくて、ほかの誰かと一緒でもなくて、オレだけの黒子っちになってよ」

抱きしめられて息苦しさにボクが呻けば黄瀬君はバッと距離を置きました。

「ごめん。これは反則っスね。今日は抜け駆け禁止って赤司っちにきつく言われてた」
「はあ、そうですか」
「ねえ、黒子っち……本当に忘れちゃった? オレたち全員と付き合ってたこと」

さすがにボクもこの展開についていけず頭は真っ白です。
手の中から落ちていくジャージに慌てる気にもなれません。
黄瀬君が嘘を言っているとは考えにくいです。
真剣な表情で切実に訴えてきます。
冗談とは思えません。

「桃っちとも……今の感じだと」

本当ですか?
本気ですか?

「黒子っちがどうしても別れたいって言うから六人で話をしようって」

さっきは実はド修羅場真っ只中ですか。
気が遠くなりそうです。

「黒子っちは五人で自分を犯して孕んだ子供のDNA鑑定で相手を決めるって言ったけどそんなのおかしいっス」

ボクもそう思います。
過激すぎて口から魂が出ていきますよ。

「最初から輪姦より一人ずつ個室がいいっスよ」

そこですか!?
そこなんですか!!
他はよかったんですか?
そんな方法で相手に選ばれてキミは問題ないんですか?
みんな居たということは五人は同意していたんですか?
あの緑間君がですか?
冗談ですよね。冗談にしてくださいよ。

「黒子っちは面倒くさいから一気に済ませましょうって!! 酷いっスよ」

本当に酷いですね。
年齢的にいけないでしょう。
避妊してください。

「オレには手と足でしかしてくれたことないのに青峰っちには口でもしたって!! そんな差別を目の前で見せつけられたら、オレっ」

手とか足とか口で何をするんでしょうか。
これは本当にわかりません。

「処女膜破るのが争いになると困るから適当に玩具で破っておきますとか……黒子っちのバカッ! せめてジャンケンさせてぇぇ」
「黄瀬君、落ち着いてください」
「落ち着いていられないっスよ。青峰っちが、それは許さねえって飛びかかったら黒子っちが倒れて、頭を」

そんなアホらしい流れで後頭部に傷ができたんですか。
信じていたチームメイトから暴力されることになって擬似的に作り上げられた人格がボクというのはなさそうですね。
多重人格説、却下。
やはりボクは別の世界からやってきたボクという推測でいきたいです。
ここはボクの世界じゃありません。
知りません、こんな場所。

「黒子っちの処女くださいッ!!」

全力でお断りします。

「黄瀬、抜け駆けをするなと言っただろ」
「赤司っち!! けどッ」
「それに黒子は一人じゃ満足できない身体だ」

肩に赤司君の手が置かれるそれだけで全身に甘い痺れのようなものが走りました。
なんですか、なんですか、これ?
腰が抜けて足が立てなくなりそうです。

「タクシーを待たせるものじゃない。一緒に病院へ行こう」
「まっ」

ボクを連れて行こうとする赤司君に黄瀬君が追い縋ろうとしますが床に落ちてしまったジャージと黄瀬君の上着を拾い上げて「家で私服に着替えさせる、ありがとう」と黄瀬君に投げ渡しました。
なんだか悪いことをしてしまった気が物凄くしますね。
まさか、まさか、女のボクがとんだ悪女だなんて。
ビッチですか?
二股どころか六股とか何者ですか?

「テツヤ……どこまで分かる?」
「何もかも分かりません」

泣きそうです。
混乱のままボクはこのまま女の子として生きていかないといけないのでしょうか。
元チームメイト、いいえ、現チームメイトの子供を産むかどうかの選択。
中学生には重すぎます。帰りたい。

「バスケどこいった……」

思わず呟けば赤司君の足が止まります。
ジッとボクの顔を見つめて唇が触れ合う少し前で顔が離れました。

「テツヤは自分が男だと思ってるのかい?」
「……はい」

赤司君に嘘は吐けません。
すぐにバレてしまいそうな気がします。

「十五歳かい?」
「は、はいッ」
「そうか。……僕もだと言ったらどうする?」

まさかの展開です。
多世界解釈、憑依型の裏付けです。
ほかの誰か、自分以外の誰かがいないとボクはボクの世界を証明できません。
どれだけ自分が男だと主張しても実際の体は女性です。
けれど、別の世界の住人。
ボクと同じ立場の人間がいたのなら。ボクのことを男だと肯定してくれる誰かがいるのならボクは男でいられるはずです。
力強すぎる味方の出現にボクは嬉しくなって何度も頷きます。
傷口が開いたのか赤司君が血がどうたら言っているのを遠ざかる意識の中で聞きました。

「テツヤ、僕の子供を孕みなよ」

あれ? 味方、あれれ?

2013/02/28
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