黄黒幼馴染パラレル。
素直になれない黄瀬涼太を甘やかす黒子テツヤの話。
黒子テツヤは黄瀬涼太に甘いの続き。


黒子テツヤは黄瀬涼太にとても甘い





ボクは先日、黄瀬君とお付き合いすることになりました。
男同士で恋人なんておかしい気もしますが、隣の部屋に住んでいる幼馴染が泣きながらのたうち回り続けているのを放置できません。
赤司君に言わせるとそれは恋ではないということですが、愛は確かにあるので細かい話は置いておきます。
恋人だからと調子に乗った黄瀬君が糸電話を要求して来たりしますが却下です。
ボクの部屋と黄瀬君の部屋は窓際に面しています。
だから、お互いが窓を開けて昔ながらの紙コップと糸を使った糸電話で夜な夜な話したいというんです。
朝も使いたいらしいですが面倒です。
何が楽しくてこの文明社会の中で糸電話なのでしょう。
携帯電話もトランシーバーも黄瀬君は嫌だといいます。

『生の黒子っちの声がいいんスよ〜。わかんないかなぁ』

分かりませんでしたが、わがまま大王の言うことは一回だけ聞いてあげました。
糸が外の壁などに触れてしまうからかあまり声は聞こえません。
それでも糸電話をしているというシチュエーションが黄瀬君にはツボであるらしく満足気です。
糸電話よりも押し入れの中の方がよっぽど声が通るのだと言ってしまうか悩みます。

「黒子っち……あのさ、適当に女の恋人作っていいっスか」

どうぞ、ご自由にとは言えません。
同性愛者とは言えないとはいえボクは曲がりなりにも黄瀬君と付き合っているのです。
そして、それは周知の事実です。何せバスケ部のみんなの前での告白劇でした。
黄瀬君の寂しがり屋は少し病的なところがあるのか、頭がからっぽさんなのか周りを確認しないで発言します。
今は帰り支度をしている更衣室の中です。
人はまばらではありますが二人っきりではありません。
黄瀬君の目にはボクしか映ってないとかそういうことはどうでもいいです。

「おい、黄瀬……てめぇ」

青峰君がものすごい形相で黄瀬君の後頭部をつかみました。
紫原君も驚いて口から食べかけのまいう棒を落としています。
緑間君は鞄のファスナーを壊してしまったようです。指の力、強いですね。
赤司君は自然な動作でボクの隣に来て耳打ちしました。

「黒子、翻訳」

ボクは言葉を探します。
昨日の夜に叫んでいた内容から導き出された答えがこれであるならば黄瀬君は全国の自分のファンに土下座するべきだからです。
青峰君が黄瀬君の顔面を床に叩き付けようとするのでボクは慌てて止めに入ります。

「なんスか!! なんでオレ、青峰っちにキレられてんの!?」
「わかんねぇとかねえだろっ」

いえ、青峰君。黄瀬君は分かってません。
オブラートに包んだいい感じの言葉として今の発言だったのです。

「オレらの年齢なら呼べば来る性欲処理用の女の子は必要じゃないっスか」

いくつだったとしても女性に対してそういう扱いをしてはいけません。黄瀬君は間違ってます。
青峰君は呆気にとられたのか黄瀬君から手を放しました。一安心です。
そのせいで自分の意見が通ったと思った黄瀬君は口を滑らせました。おバカさんです。

「オレだって黒子っち以外ダメだと思うんスけど、お願いすれば黒子っちの顔に整形したりしてくれる子はいると思うんスよ」

キミが愛されキャラなのは知っています。
みんな全力で引いていますから、気付いてください。

「そうしたら好きにはならないっスけど、抱いてあげるぐらいは多分出来るし、整形するぐらいオレのこと好きならどんな扱いしても平気だろうからいいっスよね」
「黄瀬君、何がいいのか分かりません」
「え? だから、子供できたら困るから不妊治療して貰う感じ? 薬とかじゃなくって手術で。大体、体の付き合いになると偉そうに主張し始めるんスよ。子供ができたらこっちのもんとか思ってるのはマジ勘弁っスわ」

体の付き合いがそもそも出来ずに何十人と別れた人がどうして偉そうに男女関係について語るのかボクには分かりません。
確実に今の発言でみんなの中で黄瀬君はド外道だということになっています。
ラブホテルで何もせずに帰ることになる辛さをボクは生涯知ることはないでしょうが、虚しさは伝わってきます。
黄瀬君元気がなかったですからね。ショックはあったのでしょう。
そんな黄瀬君が本当は女の子とキスもしていないということはボクは知ってますから黙ってください。
「ファーストキスは黒子っちがいい」とキスを仕掛けてきた女性の顔面をビンタして別れたくだりは未だに衝撃です。
よく悪い噂というか真実の噂が流れないものです。女性も自分の不名誉な事実を口にすることがないからでしょうか。
それとも黄瀬君が好きだからそんな酷い態度も許してしまうんでしょうか。
ボクはビンタした女性の靴でも舐めて誠意を見せるべきだと思います。
女性蔑視はいけません。

「ゴムつけてもアイツら絶対裏ワザ使うっスよ。薬を飲めって言っても無理だし」

黄瀬君の偏った知識はどこから来たのでしょう。悪い友達でもいるんでしょうか。女性嫌いみたいです。どうしたんですか。
昔はそんなことなかったと思うのですが中学の一年間でそんなに嫌なことばかりだったのでしょうか。
この件に関してはボクが注意するべきだったのかもしれません。
それにしても黄瀬君が口を開けば開くほど周囲の空気が冷え切っていきます。
青峰君の濁った瞳など初めて見ました。
宿題にうんざりしても桃井さんのノートでなんとかなるからいいやとすぐに目を輝かせてバスケをする切り替えの早さがあった青峰君がげっそりとしたまま戻ってきません。気晴らしにバスケしようなんて言える雰囲気じゃありません。どうしましょう。

「ちょっと都合のいい子見つけるまで一緒にいる時間が短くなるっスけど我慢して欲しいっス! あ! でも、黒子っちが淋しかったらすぐ飛んでいくから連絡してね」

爽やかにゲス。
天使の微笑みにみんな騙されて吐き出されている言葉は頭を素通りするかと思えばそんなことはありませんでした。
赤司君は首を傾げて「お前を妬かせるための狂言か?」と聞いてくるのですが残念ながら黄瀬君は本気です。
本気で自分に好意を寄せる女性を使い捨てるつもりです。
それを悪いことだと思っていないからこそ黄瀬君はこんなにも堂々としています。
天使と悪魔の羽が同じ種類だというのをご存知でしょうか。
目の前で天使が堕天して悪魔になってしまいました。

「黄瀬君、それは浮気ですよ」
「違うっスよ。オナニーの変化系っス」
「そうですか……、でもボクは傷つきます」

黄瀬君に浮気をされるということよりも黄瀬君の道徳がこれほどに歪んでいることに悲しみを隠せません。
小学生の時にボクがすぐにでも黄瀬君を受け入れてあげれば良かったのです。きっとそうです。
そうすればこんなひどい考え方などすることはなかったはずです。
こんな黄瀬君に誰がした。それはきっとボクです。
ごめんなさい、黄瀬君のご両親やファンの方々。黄瀬君はいい子なんです。ちょっと考えなしなだけです。

「いつからそんなに悪い子になってしまったんですか?」

黄瀬君はたぶん模範的すぎたのです。
周りにいる人間にそれとなく合わせるタイプであるのは知っていました。
悪い友達が出来たら悪い方向に行ってしまうのです。
主体性がないわけではありません。
けれど、ボクから距離を置こうとして結果的に人として良くない道に流れて行ってしまったのでしょう。
ボクは中学になってからの黄瀬君の交友関係をあまり知りません。
押し入れの中で愚痴らない限りボクは黄瀬君のことを何も知らないままなのです。
改めて思い知りました。
ボクたちは近くにいながら遠かったんです。
それを理解してボクは別の意味でも覚悟を決めないといけないと思いました。

「黄瀬君、こういうことは本当は言いたくないんですけど……。恋人として言わせてもらいます。バスケ部とモデル関係以外のアドレスはキミのケータイから一旦全部消してもらえますか」
「黒子っち?」
「新しく登録することになる相手についてはボクに報告してください」

黄瀬君は過度な束縛を嫌います。
嫌うというよりもその中では生きられないのです。
誰かに指示されるよりも自分で決めて動きたい。誰しもそうかもしれませんね。
だから、こんなやり方をすれば反感を買うのは当然です。
なんの権利があってボクがこんなことを言うのか。

「恋人のわがままぐらい叶えてくれませんか?」

自分で言ってて恥ずかしいです。
でも、こうする以外のスマートなやり方は思いつきません。
どんな人たちと黄瀬君が付き合っていてこんな酷い発想になったのか探り当てたいところですがそれは色んな意味で難しいです。
だからと言って全面的に縁を切れなんて言えません。
しばらく黄瀬君の方から連絡する手段をなくして欲しい。そんな一時的な措置です。

「わかった。黒子っち以外の全部消すね」
「人の話聞いてますか? そんなことしたらモデルの仕事が困るじゃないですか」
「仕事用のケータイあるっスよ。あ、そっちも消そうか?」
「バカですか。なに言ってるんです」
「仕事のスケジュールの変更とかはあっちから電話あるからオレが知らなくても平気っスよ」
「何かあって連絡する時に困るんじゃないですか?」
「連絡なしに休んだら干されるかな」
「当たり前です。ダメですよ。そういう連絡を軽視しちゃ。先方に迷惑がかかります」
「黒子っちの言う通りっスね」

ニコニコ笑顔の黄瀬君にボクは息を吐き出します。
周りはみんな「はあ?」とか「ああ?」とか「なんなのだよ」とか首を傾げていました。

「黒子は黄瀬の教育係として優秀だな」
「もう教育係は終わりました」
「そうっスよ! 黒子っちはオレの恋人っスよ、恋人!!」

嬉しそうに満面の笑みを振りまく天使は先ほどの自分の悪魔的発想をまるで反省していません。
どういった形で意識の改善を求めるのが得策なのかは実を言うとボクは知っています。

「そうです、ボクたちは恋人同士です。黄瀬君はボクだけ見ていればいいですよ」
「うん、うん!! 黒子っちだけ見てるっスよ」

知ってます。キミがボクのことを好きでいてくれるのもそれを言わないでおこうと頑張ってたのも知っているんです。
だから、ボクが早く大丈夫だと折れて受け入れてあげるべきだったんです。

「ねぇ、黒子っちのこと殺していいっスか」

なんで、こんな子になってしまったんでしょうか。本当にもう理解できません。
青峰君が思わずボクと黄瀬君の間に割って入ります。
ありがとうございます。そうですよね。心配しますよね。
きっと皆の中で黄瀬君は危険人物です。
ボクも面と向かってそんなことを言われたらドン引きして半径十メートル以内には近寄って欲しくないです。
でも、ボクは昨日の段階で衝撃をなんとかやり過ごしました。

『黒子っちとエッチしたいっスけど、そんなのしたいって言ったら嫌われちゃうっスよ〜』

半泣きで黄瀬君は押し入れで暴れてました。
これは黄瀬君のキスに対してボクが嫌がるような素振りを見せたせいが多分にある気がします。
唇同士が触れ合うようなものは別に嫌ではないどころかちょっと恥ずかしいと思いながらも好きでした。
ふわふわとする気持ちにちょっと笑ってしまいます。
照れくさいながらも友達から恋人に移り変わるのはこういうことなのかと思ったりしました。
けれど、その日、黄瀬君は物足りないらしく唇に触れるだけではなく舌を入れて来ました。
それが大人のキスだというのは知っています。
絡み合う吐息とか唾液に気持ち悪さと怖さとを覚えました。
黄瀬君の手が腰を撫でていたりとかそういうの全部含めて鳥肌がたったりしました。
それから十五分ほど経ってボクの反応に気付いた黄瀬君はやっと唇を解放して距離をとってくれました。
もっと大胆に求めるぐらいのことでもすれば黄瀬君も思いつめたりしなかったのかもしれませんが、ボクは恋愛初心者です。
何も言えませんし何もできませんでした。
フォローをちゃんとするべきだったのです。
好きだと、大丈夫だと伝えるべきなのです。
そうしたらこんな事にはならなかったはずです。

『もう、これは黒子っちを殺して、その死体とヤるしかないっスよぉ』

その結論はおかしいです。
押し入れの中で出された黄瀬君の決意表明にボクは震えました。

『死体相手に勃つかな……。でも、黒子っちだしイケるはず!!』

頑張らないで下さいよ。

『でも、黒子っちと死んだら黒子っちと話せなくて困るっスよ。やっと思いが通じ合ったのにッ』

そうです。殺そうとするのをやめてください。
普通、恋人とセックスしたいからって殺人は犯しません。

『黒子っちの死体が平気なら人形も平気っスかね?』

と、黄瀬君は悩みだしてそのまま声が聞こえなくなったのできっと寝てしまったのでしょう。
人形と言っていたのでいわゆるダッチワイフ。
オーダーメイドだと、いいお値段するらしいですが黄瀬君なら買うだろうし、ボクも殺されるよりはいいと思いました。
まさか人間を人形扱いして性処理しようとするなんて考えられません。
これだけは本当にダメなものはダメだと説教しないといけないところです。

「青峰っち、どいて、黒子っち殺せない」

黄瀬君、切羽詰まりすぎです。
真正面から誘われたらボクも困りますがそれ以上に変化球での誘い文句による黄瀬君のイメージダウンの方が心配です。
たぶん黄瀬君は今、何も知らない人から見るととんでもない悪人です。極悪人です。

「青峰君、大丈夫です。黄瀬君、少し屈んでください」

青峰君は渋りましたがいつでも飛び出せる状態で一歩横にずれてくれました。
ギラギラとした目の黄瀬君はボクの言う通りに屈んでくれました。こういう人の話を素直に聞くところは本当に良い子だと思います。
ボクは黄瀬君の頭を自分の胸まで引き寄せます。
黄瀬君は頭を撫でられたり肩を叩かれたりするスキンシップがわりと好きです。
人間にはパーソナルスペースというものがあって話をする時に相手とどの程度、物理的に距離を置くのかというものです。
近すぎると不快で遠すぎるとよそよそしく感じる距離。
黄瀬君はボクに対して距離感がわからないようです。黄瀬君自身はゼロ距離ぐらいに引っ付きたいらしいのですが、それはボクが息苦しいです。
ボクが嫌がっていることはわかるからか黄瀬君はボクに対して引っ付いてくるということはありません。
充分すぎるほどにボクにはくっついている気がするのですが黄瀬君としては我慢しているらしいです。
それは助かります。
でも、我慢した結果、殺されるなんていう結末になるのは遠慮したいです。

「誘い文句はベッドまで待てませんか」

頭を撫でながら黄瀬君に囁けば黄瀬君は足に力が入らなくなったようです。
耳まで真っ赤にしている姿は昔と変わらないと思いたくなるような純粋な姿です。

「黄瀬ちん腰砕け」
「黒子は何をしたのだよ」
「テツゥ?」
「…………黒子、説明しろ」

ずっと沈黙を続けていた赤司君は大体察しがついているはずなのにわざわざ羞恥プレイをしろと言ってきます。
困りますね。

「黄瀬君はちょっと思春期が暴走しただけです」

ボクはそうお決まりになったセリフを口にして追及を逃れようとしますが今回ばかりは許してくれません。
赤司君はもう一度「黒子」とボクの名前を呼んできます。
仕方がないのでボクは咳払いをしながら「黄瀬君の面倒はボクがちゃんと見ます」と宣言しました。
まだ納得がいかないのか赤司君がボクの手をつかみました。
たぶん引き寄せようとしたんでしょう。黄瀬君がスゴイ勢いで赤司君の腕を叩いてボクを抱きしめて壁の端まで後退しました。
獣のごとき俊敏さ。それは肉体的な性能として評価するべきなのですが赤司君にはいけません。
言うことを聞かない犬が苦手な赤司君です。きっと怒っているはず。

「殴られた……だと。オレが」

いえ、どちらかと言えばショックを受けていました。
赤司君の肌が赤くなるぐらいに強く黄瀬君が力をふるったことも驚きはしましたが呆然としている赤司君に罪悪感で胸がきしみます。
ボクが悪いわけではないのにボクの責任な気がします。

「黄瀬君、謝りましょう。赤司君を叩いてごめんなさいしてください」
「だって」
「ボクは悪い子よりも良い子が好きです」
「赤司っち、ごめんね!! でも、黒子っちに触んないで欲しいっスよ」
「黄瀬、お前はさっきから何を言っているのだよ」

緑間君のツッコミはもっともです。
会話だけ聞いていると黄瀬君はただのおかしい人です。ですが、黄瀬君の前で黄瀬君はこう思っているんですよと解説してしまうのは彼のプライドを傷つけるのではないでしょうか。
ボクは事の成り行きを黄瀬君に抱きしめられながら観察します。

「黒子っちとラブラブになったんスよ。邪魔しないで!!」
「お前たちの愛の示し方は殺し合いか」
「違うっスよ。オレが一方的に黒子っちを殺して死体を手に入れるんスよ」

アウトです。その発言はアウトですから、黄瀬君、落ち着いてください。

「黒子、黄瀬は異常者だということでいいのか?」

赤司君の言葉にボクは思わず頷きました。黄瀬君は危険思想が過ぎます。
ゆっくりと普通に戻ってくれるのを期待したいところですがこれはボクが積極的に頑張らないとダメだと思います。

「テツ、別れろ」
「なんでっスか?! なんでそんな酷いこと言うんスか!!! 青峰っち、鬼っスか!!?」
「鬼はお前のほうだろ。鬼畜野郎が」
「そりゃ、あんなことやそんなことはしたいっスけど、最初っからとかじゃないっスよ。ちゃんと順番に進めるつもりだから……」
「何を言っているのだよ」
「ん〜、黄瀬ちん、下ネタ?」
「なるほど、分かった。部活に支障がないようならオレも関わるのはよそう」

赤司君に気を遣われてしまいました。
紫原君が意味が分かっていたのが意外です。

「そうっス。見逃して欲しいっスよ」
「テツを殺すことをかよ。ふざけんなッ」
「落ち着け、青峰。黄瀬は物騒な比喩を使っただけで実際に殺す気はないだろう」

赤司君、それは違います。黄瀬君の中でボクの命よりボクに嫌われないことの方が重要でした。
ボクに嫌われるかもしれない行動をとるよりもボクを殺す覚悟をする方が黄瀬君には楽なんです。
自分勝手な人です。
嫌われないためなら大好きだと言っているボクを本当に殺す気だなんて。
そういう気迫はバスケの時だけでいいと思います。殺す気でやればいいです、バスケを。

「黄瀬ちん、黒ちんのこと好きなんだよね?」
「もちろん好きっスよ!!」
「じゃあ、それで良くない? なんで黒ちんの言葉にビビッてんのか分かんない」
「紫原君……そのアドバイスはボクの身が危険になります」
「だってー、黄瀬ちんうぜぇ」
「酷いっスよ。なんで!?」
「分かりました。分かってました!! 延ばし延ばしにしないで今日から頑張りますよッ」
「黒ちんふぁいとぉ」

ゆるすぎる紫原君のの声援が痛いです。
緑間君と青峰君は何もわかってない様子です。
このまま何も知らないでいてください。

「黒子、明日の朝練はなしでいい」

赤司君が慈愛に満ちた顔で「見学席にドーナッツ型の座布団を用意しておくよ」と言ってくるのは嫌がらせです。
そういう冗談は嫌いです。
痛いのは多少我慢できるかもしれませんが怖いし出来るなら避けたいですが黄瀬君がどうしようもないと嘆くので応えてあげるしかないじゃないですか。

「ちゃんと黄瀬君を満足させてあげます」
「黒ちん格好いい〜」
「必要なのは失敗しても笑って済ませる余裕だよ」

やけっぱちですよ。

「黒子っち、本当にいいんスか?」
「血を見るよりもいいです」
「え? 絞殺希望っスか?」
「なんで、まだ殺す気でいるんですか。ダメですよ」
「殺さないっスよ。殺さないっスけど、むしろ、オレが殺されそうっスぅ」

悶える黄瀬君はわりと無害です。
ならば、やっぱり問題はボクの覚悟のほうにあるんでしょう。
もし万が一ボクが直前で嫌がったのなら黄瀬君はニコニコ笑っている今の顔を凍り付かせてしまのは確実です。
この黄瀬君相手に「やっぱダメ」みたいな逃げが通じるわけがありません。

「テツ、本当に平気か?」
「平気じゃないですが、これが運命ってやつですかね?」
「今日のふたご座は一位なのだよ」
「みずがめ座は最下位ですか?」

緑間君は何も言わずにロッカーからお風呂に浮かべるアヒルの玩具をくれました。
ボクのラッキーアイテムでしょうか。有難くもらっておくことにします。

それにしても黄瀬君はいったいどうしたら満足してくれるのでしょうか。
一緒に抱き合って寝るぐらいで許して欲しいです。
それなら毎日ぐらい別に構いません。
大人のキスも心構えが出来てたら受け入れることも多分できると思います。
お風呂に一緒に入るのも昔は何度もあったので照れずに出来るはずです。

「黒子っち、オレ、幸せっスよ」

まぶしいぐらいの笑顔にボクは悪態を吐くこともせず「ボクもです」と返しておきます。
これが全部の答えです。誰かに言われるよりも先に知ってますよ。

ボクは黄瀬君にとても甘い。

嫌だとか怖いとか出来たら十年後にして欲しいとか仕方がないから言わないでおきます。
黄瀬君を甘やかすことがボクは案外好きなのかもしれません。
キラキラとした笑顔が黄瀬君には一番似合いますから多少の痛みは覚悟しましょう。

2013/02/14
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