緑間君と○○をする方法を赤司君と考えた』と同設定。

緑間君が○○するのは難しいと赤司君は思った



別段部員同士の恋愛事情に首を突っ込むつもりはなかったが、退屈を紛らわせるように赤司は目の前の緑間に問いかける。

「黒子とはどこまで進んだ?」
「赤司……貴様っ」

殺気のこもった眼差しに赤司は動じることはない。
二人が付き合うに至った経緯を聞き忘れていたのでこの際、緑間の口から聞いてもいい気がした。
緑間がそんなことを口にするタイプではないと分かっていながらこの対応は性格が悪いかもしれない。

「黒子に何を吹き込んだのだよ」
「どうしてそう思う。オレは関係なく黒子が好きでやっているとは思わないのか?」
「自主的に人の部屋の中で裸になるのか? おかしいのだよ」
「それは誘っているという解釈をしないのかい?」
「誘っている……? 何をだ? 南極ごっこか? オレは参加しないのだよ」
「南極ごっこ??」
「ペンギンは雄が卵をあたためるらしいのだよ」
「全裸の黒子を抱きしめてやったのか?」
「暑いと言って脱いでいる癖に冷房に寒がるのはバカなのだよ」
「お前はアホだ」

ズバリと緑間に対して指摘すれば当然「なんだと」と怒りだしたが赤司はさすがに落胆を隠しきれない。

「もう少し黒子の真意を汲んでやっても良かっただろう」
「ペンギンに……なりたかったのか?」

違うだろうと言いたかったが「今度は温めてやるのだよ」と言っていたのでいいのだろう。
黒子が同じ手に出るかは別として。

「緑間はよく黒子を家に連れ込んでいるのか?」
「連れ込んでいるわけじゃない。気付くと一緒に玄関をくぐっているのだよ」
「……一緒に帰っているのか?」
「いや、途中の道で別れたはずなのだよ」
「黒子がついてきてしまうのか?」
「……いえ。オレの方が手を離し忘れたらしい」

照れているのを誤魔化しように緑間は眼鏡に触れる。
別に眼鏡はズレていないので顔を隠したいのだろう。

「連れ込んでるじゃないか。むしろ引きずったんじゃないのか?」
「折角だから夕飯でも食べて行けという流れになるだろう」
「そうか。好きにすればいい」

連れ込んだことに対して緑間はスルーした。
きっと黒子も別に問題には思っていないのだろうから赤司もツッコミを入れるのは控えておいた。

「黒子は本を読み始めると動かなくなるのだよ」
「夕飯後は読書タイムとして居座ると?」
「仕方がないのでオレもオレでピアノを弾いて気分転換をしていたのだよ」
「二人でいるのに別々のなのか……お前達はそうだろうな」
「オレがピアノを弾いていると黒子はそのまま寝てしまうのだよ。仕方なくオレが黒子を風呂に入れてから家に送り届けているのだよ」
「そこは泊まりならないのか?」
「無断外泊はよくないのだよ」
「家に電話ぐらいしてやればいい」

赤司の言葉に緑間は溜め息を吐きながら「オレが黒子の家に泊まっているのだよ」と言った。

「ほお、そうか。意味が分からん」
「そのままなのだよ。夜も遅いからオレが黒子の家に泊まっているのだよ」
「同じベッドか?」
「そうなるな。多少窮屈だが人の家なので文句は言えない」
「家の人に何か言われないのかい?」
「黒子の家は半分以上の確率で誰も居ないから何も言われないな」
「……家に着いた黒子がおもむろに服を脱ぎだしたり」
「それは当然するだろう」
「緑間はそれに対して?」
「パジャマを着せてやっているが?」

赤司は真顔になって首を横に振る。

「一緒に風呂に入っている時点でもっと何かあるべきだがこれは重傷だ」
「何かとは何だ。ちゃんと髪の毛を洗ってドライヤーで乾かしてやっているぞ」

自信満々に「寝癖が付きやすいからな」と口にする緑間に赤司は「仲が良くて何よりだ」と返した。

「それで、結局どこまで進んでいる」
「……あえて言えばキスはしている」
「キス以外は……キス以上はしていないのか?」
「当然なのだよ。オレ達の年齢を考えるのだよ」
「緑間は黒子に触られたりして反応しないのか?」
「ふっ、触られる前に触ればいい」
「変に積極的だな」
「手を抜くなどあり得ないのだよ」

緑間の言葉と黒子の言葉を総合して赤司は頭の中である仮説を立てる。

「つまりキス以外していない?」
「そう言っているのだよ。キスをしている間に黒子は寝る」
「イージーモードも何もないな」
「何の話だ」
「黒子から不満を口にされたりしなかったか?」
「赤司に弱みを握られて大変だと言っていたのだよ」
「まるでオレが悪者のようだな。言っておくが悪いのは緑間だぞ」
「オレの何が悪いというのだよ」
「……たぶん人事を尽くし過ぎている」

二人が一線を越える前の段階に長々と留まっていることは少し聞いただけでも分かる。
黒子が積極性を見せても緑間はスルーして、緑間が乗り気になっている間に黒子の体力は消耗して終わるのだろう。

「何が悪いのだよ」
「本人達がそれでいいのならオレは何も言うつもりはないが、……緑間、オレが横から黒子を貰って行って構わないか?」
「何を言っているのだよ。良い訳がないだろう」
「両者ともにフラストレーションが溜まりそうだと思っただけだ」
「オレは問題ない」
「鋼の心臓だな」
「黒子も気持ちがいいと言っているので構わないのだよ」
「時には乱暴に早急に事を進めてもいいんじゃないか?」
「野蛮なのだよ」
「黒子がそれで構わないと言ってもか?」
「あぁ、原始人ごっこか?」
「お前達はそんなことをしているのか……」
「オレは参加しないのだよ。黒子が風呂上りに服を着ずにベッドに入って出て来なくなるのだよ」
「どの辺りが原始人なんだ」
「ボクと子作りしませんかと言ってくる」
「誘い方がストレートだな」
「情緒も何もあったものではない」

そう言われれば黒子のアピールの仕方は原始人かもしれない。

「オレは何度も言っているのだよ。男同士で子どもは出来ないのだよ、と。その性知識のなさは原始人なのだよ」
「緑間、馬鹿はお前だ」
「なんだと?」
「そういうことではないだろう」
「黒子も枕を投げつけながら言ってくるな。どういうことだと聞き返すと」
「なんだ?」
「理性を失くした獣のように行動してください、と」
「緑間には難しいな」
「舐めないでもらおうか。きっちりと人事を尽くしたのだよ」
「ほう……、いや、だがキスだけだろう?」
「いいや、キスはしないのだよ。原始人や獣はキスはしないだろう」
「そうか? まあ、いい。何をしたんだい?」
「布団にもぐりこんでいる黒子を引きずり出し」
「ふむふむ」
「縄で縛りあげて……縄はなかったのでネクタイと縄跳びだったが」
「だいぶ変態的だな」
「物干し竿も使って豚の丸焼きの格好にしてやったのだよ」

自慢げな緑間に意外な才能を見る。
だから黒子は惹かれるのだろうか。
惚れるポイントがよく分からない。

「肉欲のままにイノシシだかマンモスだかを狩っては丸焼きにして食べる。まさに理性のない獣である原始人なのだよ」
「肉欲の意味が違うな」
「黒子はこれはこれでと喜んでいたぞ」
「あの子もダメな子だね」
「本当に焼くわけにもいかないので色を付けた」
「……筆で?」
「あぁ、大丈夫だ。油絵の具ではない食べ物に入れる着色料を使ったのだよ」
「そうか」
「くすぐったいのが弱いのか、焼かれる演技なのか、結構暴れられたのだよ」
「相当の焦らしプレイだな」

黒子が一線を越えたがるのが分からなくもないと赤司は思った。
延々と焦らされ続けるよりはいっそ、と思ったのだろう。

「黒子のボディペイント姿は写真に収めて欲しいところだ」
「撮っているぞ」
「見せてくれ」
「黒子に変なことを言うのはやめると約束しろ」
「それは黒子に言うんだな。オレが何を言って黒子がどう実行するかは結局は黒子の意思だ」
「……む、そうかもしれないが、黒子は」
「いいから、見せて」

手を出す赤司に緑間は嫌そうにしながら自分の携帯電話を渡した。
すでに問題の写真が待ち受けになっていて赤司の目に飛び込んでくる。
涙目で汗をかいて上気した黒子。上半身裸で脇の下を筆でくすぐられているのが見える。
写真は生々しく喘ぎ声すら聞こえてきそうだ。

「緑間、何も思わないのか? 病気か?」
「何も思わないわけないのだよ。今日のラッキーアイテムは恋人のかわいいと思った瞬間の写真なのだよ」
「惚気てくれるのは良いがその写真は他の奴には見せるなよ」
「あぁ、黄瀬が階段から落ちたな。すごい威力なのだよ。かわいさは戦闘力なのだよ」
「手遅れか……」
「大丈夫なのだよ。ちゃんと受け身を取っていたから怪我はしてないのだよ」
「黄瀬の心配はしていない」
「誰も下敷きにしたりしてないぞ?」
「落下に対する心配でもない。緑間……もう少し危機感を持ったらどうだ」
「ケータイが壊れる可能性か? それなら問題ないのだよ。バックアップはちゃんとある」
「人事を尽くしているのはいいが横から取られる可能性を――」

自分自身が手を出すと口にしながら赤司は緑間を心配してやる。
その時タイミングがいいのか悪いのか窓に人影が写った。
飛び降りかと確認しようと窓から赤司が顔を出そうとして影が上に戻っていった。

「バンジージャンプだと?!」
「だずげでぇぇぇ、あがしぢぃぃ、みどりまっぢぃぃ」

濁った黄瀬の声に赤司と緑間は同時に叫ぶ。

「教師に見つかる前に早く命綱を切るのだよ!」
「こんな時期に楽しく上下運動してるんじゃない!」
「うぇぇぇ、オレのこと心配して欲しいっスよぉ」

びよーんと弾む黄瀬は泣きながら赤司が開けた窓から教室に入ってきた。

「黒子っちに突き落とされたっスよ」
「命綱……消防のホースか? 万が一に火事があった時は黄瀬が全力で消すんだぞ」
「誰かに見られたら停学になってもおかしくないのだよ」
「うぅぅぅ、説教するより心配して欲しいっスよぉ」

胴体に命綱のホースを巻きつかせたまま黄瀬は赤司と緑間の前で正座させられていた。

「遊ぶ時は人の迷惑にならないようにするのだよ」
「遊んでないっスよ」
「言い訳はいらないのだよ」
「黄瀬、事が露見して反省文で済むと思っているのか?」

赤司に見下ろされながら黄瀬は黒子の名前を呼ぶ。

「ドラえもんを呼ぶのびたか」
「ジャイアントスネ夫が苛めるっスよぉ」
「オレは出木杉君なのだよ」
「自分で言うことじゃないっスよ」

そんなことを言っている間に教室の扉が開く。
教師に突き止められて説教かと思えば黒子だった。

「黒子っち、オレを助けに!」
「この状態に陥れたのは黒子の方だろう」
「黒子、黄瀬を突き落すのは人目につかない時にするのだよ」
「黒子っちぃぃ、二人が苛めるっスよ」
「黄瀬君、ビックリしましたか?」
「したっス!」
「ボクもビックリしました。ちょっとやり過ぎました」
「全然いいっスよ」
「良くないのだよ場合によってはお前の顔面は砕けたのだよ」
「緑間っち怖いこと言わないでよ」

黄瀬が黒子の元に行こうとするので赤司はホースを踏んづけて止める。

「黒子がこんな過激なことをするということは答えは一つだと思うが」
「……! 黒子、制服のボタンが外れているのだよ」
「黄瀬君にやられました」
「脱がそうとしたっス!!」
「明るく言うな馬鹿者っ」

緑間が低い声で怒鳴るのを黄瀬が驚いた顔で見つめる。

「ちゃんと制服を着こんでいなかったせいで黒子が風邪を引いたらどうするのだよ」
「緑間は過保護だね」
「ソーイングセットならあるのだよ」
「ボタンつけてくれますか?」
「……苦手だが人事を尽くそう」
「オレ、オレやるっスよ。責任とって」
「黄瀬が責任を取るのは身体に巻きつけているホースに対してなのだよ」
「そうですね、黄瀬君……ちゃんと先生に説明しておいてください」
「えぇ? なんて言えばいいっスか? オレは黒子っちの身体のほくろの数を数えたかっただけっスよ」

黄瀬が座り込んだまま赤司を見上げてくるので少し考えて「これも勉強だ」と告げておく。

「黒子を驚かせたらそれ以上に驚くようなことをされる……と」
「黒子っち、マジすげーっスわ」
「そうだな、それ以上に緑間はすごいと思うよ」
「なんだ、赤司……イヤミか?」
「純粋にそう思っただけだよ」
「それがイヤミだというのだよ」
「イヤミというか皮肉じゃないっスか?」

何も知らないが感じ取ったように黄瀬は言った。
人事を尽くして天命を待っても運命に選ばれるとは限らない。

「黒子、やはり運命は自分で切り開くものだよ」
「赤司君もそう思いますか……」
「緑間があまりにもレベルの高い朴念仁でオレは戸惑っている」
「技術も高いですよ」
「なんスか? なんスか?? 惚気られてるっスか??」

黄瀬が赤司と黒子を見比べる。
緑間は黒子の手を引っ張って教室を出ていく。
落ち着ける場所で二人っきりになるのだろう。
二人っきりになったとしても緑間と黒子がどうにかなるのは難しいだろうと赤司は思った。
案の定、翌日に黒子は赤司に不満を口にする。

「針で軽く突かれるのは痛気持ちいいです」
「黒子、それはイージーモードじゃなくある意味スーパーハードモードだ」
「血が出ないであそこまでするのはなかなかに技術がいると思います」
「そうじゃない……」

不満と惚気が一心同体なところにもきっと問題があるのだろう。
苦手と好きが仲良く共存する二人。



2012/11/12
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