キャプテンの言うことはわりと絶対なのだよネタあり。

お誕生日おめでとうございますにゃん


朝から緑間は不機嫌だった。
目覚めた瞬間に届いたメールが黄瀬からのモノだったからだ。

「なんだ、これは……」

おめでとうという祝いの言葉はともかく添付されていた画像は何なのか。
思わず画像を保存してから黄瀬に「死ね」と一言返信すれば電話がかかってきた。

『大喜びする展開じゃないっスか?』
「誰が喜ぶというのだよ」
『オレの選ぶ黒子っちベストショットっスよ?』
「迷惑なのだよ」
『もっと素直になって良いと思うんスけどねー』

不満気な黄瀬に緑間は電話を切る。
朝から嫌な気分だ。
だが、送られてきた画像をもう一度だけ確認する。
やはり変わらない。
中学時代のある日のことだ。
今更どうして黄瀬が送ってきたのか分からない。



そして、何事もなく一日は過ぎるかに見えた。

高尾からの祝いの言葉におざなりでもチームメイトから『おめでとう』と言われた。
壁は依然としてあり、緑間自身チームに馴染む努力などしていない。
だが、祝いの言葉が嬉しくないわけがない。
どこかくすぐったかった。
照れていると高尾に茶化されながらもその日はそんな幸福感を味わったまま終わると思っていた。

「黒子?」
「差し入れですにゃん」
「何をふざけたことを」

おしるこの缶を緑間に差し出す黒子の頭には猫耳。
黄瀬が送ってきた画像そのまま。
帝光時代に緑間もつけたことがある耳。
同じように見えて物としては違うのかもしれない。
問題はそこではない。
どうしてここにいるのか。
どうして猫耳なのか。
馬鹿にしているとしか思えない。

「緑間君、猫嫌いですよね」
「…………つまりそれは嫌がらせだったのか?」
「そういう訳じゃないんですけど」
「どういうわけなのだよ」
「サプライズ?」
「最悪なのだよ」

黒子とは昔から合わない。
ぶつかろうとしているわけではなく、ぶつかってしまう。
紫原と黒子のように分かりやすく対立するわけでもなく、
青峰と黒子のように決定的な出来事があったわけでもない。
性格的な相性としか言えない。

「緑間君、ボクのこと嫌いですよね」
「…………なにを」
「別にボクも緑間君のこと好きじゃないのでいいんですけど」

分かってはいたことだが胃がずしりと重くなる。
なんで誕生日にこんな扱いを受けないといけないのか。

「嫌いな奴をわざわざ祝いになど来なければいいだろ。黄瀬に言われたからか?」
「違いますよ。緑間君って昔から勉強できるのにたまにアホですよね」
「なんだと」
「嫌いなわけじゃないですよ。合わないですけど。
 今日来たのも僕の意思です」
「自分の意思でオレに嫌がらせをしてきた、と」
「どうせ緑間君がボクを嫌いなら嫌いな猫であってもいいじゃないですか」

どんな理論なのか分からない。
黒子は人を平気で馬鹿にするようなところがある。
いや、人ではなく緑間だ。

「緑間君はそんなに怒らないから」
「舐めているのか?」
「どうしてそんな風に言うのか取りあえず考えてくれるじゃないですか?」
「お前が猫で来た理由か……」
「にゃーん」

棒読みでしかない鳴き声。
馬鹿にされているような気持ちはぬぐえない。

「飼い猫は引っ掻きませんよ」

黒子の手が緑間に触れる。
何を言われているのか理解は遠かった。
黒子の唇が指先に触れる。

「ボクはダンクの方が格好いいと思いますけど、
 緑間君が3Pを好きなら好きでいいと思います」
「人のことを馬鹿扱いしただろう」
「根に持ってますね。……点数だけの話をするからアホって言うんです。
 目に見えるものしか信用しない」
「目に見えるお前は猫なのだよ」
「猫ですよ。一日だけ緑間君の猫ですよ」

もやもやとした気分になるのは期間が一日と言われていることか、
自分の猫だと黒子が断言したことか。
淋しいのか嬉しいのか緑間には判断できない。
自分のことなのに。

「おうちにお邪魔していいですか?」
「オレの猫なのだろう。勝手にするのだよ」

手を繋いで歩く姿を誰かに見られたらどう思われるのか。
払い除けたい気持ちはあったが緑間は隣から見上げてくる黒子にそんなことも出来ずにいた。
今までこんな距離で居たことはない。
隣り合うことではなく、もっと違った意味。
どんな意味なのか。
分かっているようで、分からない。
手を振り払うどころか抱き締めたいような衝動。
紫原が黒子の頭を撫でたのを羨ましく思ったことはなかったか。
青峰や黄瀬が黒子に気軽に抱きつき肩を抱いている姿を見て舌打ちをしたのはどうしてか。
上手くいかない苛立ちはすべて黒子が原因だ。
理由は相性が最悪だから。
星座的にも血液型的にも。

「ボクは緑間君のこと好きですけどね」

ぴしり、と。
どこかが壊れる音がした。
それは培っていた理性だったり、常識だったり、印象だったり。

「今日は猫ですからにゃーん。ちょっと甘えましたにゃ」
「分かったのだよ。オレは猫の扱い方など知らないのだから黒子がどうにかするのだよ」
「……はい」

黒子が耳やうなじまで赤くなっていて触れ合っている指先の温度も増した気がして緑間はくすぐったい。
高尾が見ていたのなら茶化されたのかもしれないゆっくりとした歩みの二人。
家まで一緒に来るというのに二人の時間が終わるのだと思うと惜しい気持が湧く。




■■■




特に追い返されることもなく緑間のホームパーティーのような誕生会に黒子は出席した。
主役である緑間自身がピアノを演奏し出すのはどうなのだろうかと思いながら、
特技と言うだけあって見事な腕前に黒子は拍手を送りつつケーキを食べた。
気ままな猫を気取るように勝手に風呂に入り緑間の寝室に入り込む。
緑間が寝る前の儀式のようなストレッチをしているのを横目に見ながら黒子は失敗したと若干落ち込む。
分かっていたことではあるが緑間は意外に抜けている。
生真面目で自分の独自のルールに縛られて生きているからこそ見落とすものが多い。
黒子としてはもったいない生き方をしているようにしか見えない。
不器用なのだろう。
ならば黒子の方が気を利かせて器用に振る舞ってみればいいのかもしれないが、
それが出来れば苦労はない。

「いつもしてるんですか? ストレッチ」
「あぁ、これが人事を尽くすと言うことなのだよ」

理解できないが緑間がそれで納得しているのならいいのだろう。
黒子は「にゃーん」と猫の耳もないのに緑間に縋りつく。
猫耳は風呂に入る時に取ってそのままだ。
大きく硬い身体は羨ましい。
心臓付近に耳を当てれば引き剥がされるように腕の枕に頭を乗せられた。

「耳をつけてないのだから、もう猫のふりもいらないのだよ」
「緑間君はやっぱりアホですよね」
「なんだと!」

どうしてそんなことを言われないといけないのだと緑間の顔に書いてある。

「猫のふりじゃなくて猫だって言ってるのに」
「オレは猫は嫌いなのだよ」
「知ってますよ」

苛立ったように緑間が眼鏡を外して枕元に置く。
「もう寝るのだよ」と言ってリモコンで電気を消す。
噛み合わない会話を続ける気はないのだろう。
それが建設的ということだ。

「ネコの反対って何か知ってます?」
「こね、か? 意味としての反対は……犬?」
「全部不正解です」

黒子は悔しさから「にゃーにゃー」と言いながら緑間にしがみつく。
驚いている様子など無視だ。
このまま眠れなくなって明日に支障を来してしまえばいい。

「緑間君の朴念仁」
「な、なんなのだよ!!」

小さく「これだから猫は苦手だ」と聞こえた。
勝手気ままで自分本位でけれど好意を隠しもしない。
餌をもらう時だけ素直なかわいい猫。

「緑間君、今日誕生日じゃないですか」
「もうすぐ今日は終わるのだよ」
「そういうことじゃないです。ボクは何も渡せてないじゃないですか」
「プレゼントならお汁粉を貰ったのだよ」

そんなものでいいと思っている緑間に腹が立つ。
慎ましやかでいいことなのだが黒子の望みと違うのだ。

「緑間君は安い男ですね」
「今日はその、楽しかったのだよ」
「ピアノ、すごかったです」
「寝ていたじゃないか」
「リラックスして」
「まあ、いいのだよ。ちゃんと夜も寝るのだよ」

頭を撫でられながらこれは猫扱いなのか黒子は悩んだ。
初めから緑間に期待する方が間違っていた。

ネコの反対はタチだ。

そんなことは知識としては緑間も知っていそうだったが、
この状況で何もしてこないのだから分かっていないのだろう。

(プレゼントは自分。……そんなことを言い出せるわけがないじゃないですか)

色々と覚悟をして無理やり家に上り込んだというのに何の進展もしないまま今日は終わる。
覚悟をしてもあと一歩を踏み出せない黒子と何も分かってない緑間はどちらが悪かったのだろう。
ただ一つ確かなことは黒子による誘い受けは今回も失敗という事実だけ。

(来年はどうしようかな)

いつもリベンジは不発。







※あとがき

ネコ=受け、タチ=攻め。
ベッドに寝て直接的に誘ってみたのに不発だにゃん。
告白もしたって言うのにスルーですにゃん。
酷いですにゃん。

お誕生日おめでとうございますにゃん。





蛇足



目の前を歩く見知った姿に高尾は声をかける。
肩でも叩こうかとして、いつもと違う横顔に気付く。

「真ちゃん、その顔どうしたん?」
「……高尾か。引っ掻かれたのだよ」
「猫に?」
「だから……アイツは苦手なのだよ」

緑間の頬に大きいガーゼ。その下にあるのだろう鋭い引っ掻き傷。

「朝には野生に戻ったのだよ」
「夜は野生じゃなかったわけ?」
「抱きついて来たりとかわいげはあったのだよ」
「じゃあ、なんか拗ねるようなことしたの? 真ちゃん、鈍いから」
「失礼なことを言うな。急に怒り出した黒子が悪いのだよ」
「え……猫って。へぇ? なになに、どんな喧嘩したわけ?」

野次馬根性丸出しで聞く高尾に溜め息を吐きながら緑間は口を開く。

「朝に黄瀬からメールが来たので昨日のお返しに黒子の写メを送ったのだよ」
「真ちゃん、そんなの持ってるの?」
「横で眠っていたからすぐに送れるのだよ」
「どんな状況だ!!」
「猫だから腕枕をしてやったのだよ」
「説明になってねぇー。なに、それで怒られたの? 人の寝顔を晒しちゃダメっしょ」
「送る前に黒子は起きたのだよ。
 待ち受けにでもするつもりなのかって聞かれたので黄瀬がそうするかもしれないと答えたら」
「引っ掻くかもなぁ」
「いや、オレの待ち受けとして使うなら良いと言って来たのだよ」
「おぉ、かわいいじゃん」
「かわいくないのだよ。オレに猫の耳をつけてきたのだよ」
「いいじゃん。真ちゃんはもう少し心を広くして素直になりなよ」

結局は惚気だったのかと高尾は肩をすくめる。
聞くだけ野暮だ。

「嫌なのだよ。だから黄瀬を呼び出して黄瀬に猫の耳をつけて二人で撮ったのだよ」
「黄瀬ぇぇぇぇ!!!! 何でそうなった!!」
「オレも黒子も黄瀬を待ち受けにはしたくなかったので画像はすぐに消したのだよ。
 朝から無駄な時間を過ごしたのだよ」
「そのガッカリ展開は分かったけど……傷は?」
「黒子に黄瀬と悪巧みをしないように注意したらやられたのだよ」
「悪巧み?」
「猫の耳だ。黄瀬は関係ないって言っていたが、あれは黒子を庇っているのだろう」

溜め息を吐く緑間。
頬のガーゼに手を当てる。

「人のことを馬鹿扱いする方が馬鹿なのだよ」

子どものようなことを言う緑間に「真ちゃんが馬鹿やっちゃった気がするけどねー」と高尾は笑う。
事の真相はともかく不器用な人間は不器用さに気付かないからこそ要領が悪いのだ。

「全然、人事を尽くしてないんじゃない?」
「なんのことなのだよ」

まどろっこしい二人の関係は相性の悪さゆえに全く変わらない。



2012/07/07
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