キャプテンの言うことはわりと絶対なのだよ 帝光のお昼休みのワンシーン。 教室で椅子に座って本を読んでいた黒子の前に猫の耳をつけた緑間がやってきた。 馬鹿じゃないのかと思ったが占いのラッキーアイテムならツッコミを入れるのも野暮なので「黒猫なんですね」とだけ聞く。 「黒子、お前は今日は一日これをつけて語尾には『にゃん』なのだよ。にゃん」 「……どうしてですか? ……にゃん」 「理由など決まっているのだよにゃん」 「赤司君ですか……にゃん」 「それ以外の何があるって言うんだにゃん」 「ボク達だけですか?」 仕方なく緑間から黒猫のカチューシャを受け取り頭に付ける。 周囲の視線は痛くない。 周りはみんな視線をそらして関わらないようにしてくれている。 「こら、にゃんをつけるのだよ、にゃん」 「すみませんにゃん」 「青峰はほろっほーだにゃん」 「ほろっほーってなんですかにゃん」 「鳥だろうにゃん」 「黄瀬君は?……にゃん」 「ぴよぴよだったにゃん」 ちょっと黄瀬のことが気になったので黒子は本を閉じて見に行くことにした。 その辺で女生徒に捕まって「ぴよぴよ」言っているのかと思えば笑える。 「どうして緑間君はついてくるんですにゃん?」 「お前の頭の猫耳がオレのラッキーアイテムだからだにゃん」 「じゃあ緑間君がつけていればいいじゃないですか……にゃん」 「これ自体は赤司がくれたのだよ……にゃん」 なんでこんなものを持っていたんだと思いながら黒子は頭の猫耳を触る。 ふさふさ、もこもこ。 手触りは良い。 「あ、黄瀬君にゃん」 「黒子っち!!! 猫だぴよ」 破顔する黄瀬に周りにいた女の子が一斉に「かわいい」と黄色い声を上げる。 「青峰君の所に行きましょうか……にゃん」 「あいつは多分屋上にいるにゃん」 「なんスか。置いてかないで下さいぴよ」 黄瀬がぴよぴよ言いながら着いてきた。 女子が微笑ましそうな顔で手を振っている。 色々な意味で腹が立つので猫耳を黄瀬に投げつける。 「黄瀬君、猫の口の中に加えられたひよこ設定でぴよぴよ言っててくださいにゃん」 「口にヒヨコがいるからぴよぴよなわけか……にゃん」 「二人とももっと自然ににゃんにゃん言った方がいいと思うぴよ」 大人しく猫耳をつける黄瀬。 緑間の立ち位置が心持ち黄瀬寄りになった。 「青峰君、いますかにゃーん!!」 精一杯の声を出してみたが屋上に青峰の姿は見当たらない。 「テツ……声小せぇ。ほろっほー」 「本当にほろっほー……にゃん」 扉の影にでも居たのか青峰は背後から現れた。 「その確認のために来たのか? 暇ほろっほー」 「新種のポケモンみたいぴよぴよ」 「てめーにだけは言われたくねえよ。ほろっほー」 青峰がしっかりと「ほろっほー」していることに黒子は変な感動を覚えた。 面倒だからやらなさそうと見せかけてしっかりしているのだろう。 「約束とかしましたかにゃん?」 「今日一日ちゃんと言う通りにしたら赤司が良い物くれるらしいほろっほー」 「意外に軽い男ですにゃん。青峰君……にゃん」 「んだよ。くれるならもらっとくもんだろ、ほろっほー」 「オレ聞き忘れたんスけど、これって授業中もぴよ?」 「何か言われたら赤司のせいにすればいいだろ。ほろっほー」 「事実、赤司君のせいですにゃん」 パタパタと響く足音にみんなで振り返れば桃井がいた。 ウサギの耳を頭に付けて揺らしている。 「みんな、こんなところに居たぴょん!! 体育館に集合だぴょん」 「ぴょんってお前。ぴょんってほろっほー」 「ほろっほーに馬鹿にされたくないぴょん!!!」 「そのピンク色のウサギの耳はやわらかそうだにゃん」 「ミドリン欲しいの? これ、赤司君からもらったんだけど……」 どうしようか悩んでいる桃井の頭から青峰はウサギの耳のカチューシャを取り黒子につける。 「ちょ、ちょっと青峰君!! ぴょんっ!」 「にゃんなのにウサギですか……にゃん」 「いや、これはこれで……ぴょん!」 顔を赤くして黒子を見つめる桃井。 「さつきより似合うんじゃねえの、ほろっほー」 「黒子っち、かわいいぴよ」 「猫耳つけてぴよぴよ言ってる人に言われたくないにゃん」 「心持ち俺に辛辣過ぎないスか? 酷いぴよ」 「黄瀬は早く鶏になるんだにゃん」 そんな会話をしながら五人は体育館へと向かった。 そこには変な語尾とカチューシャを与えたバスケ部キャプテンがいるのだが、予想外の姿だった。 「その赤い毛玉は赤司か? ほろっほー」 聞きにくいことを青峰はずばりと聞いた。 「ムッ君のとなりにムックが!!!」 「ぴょんをつけろ」 「ごめんなさいぴょん!!」 聞こえてきた声は間違いなく赤司だったがわざとらしく低くしている。 「あれ〜。さっちん、耳を黒ちんに渡しちゃったんだ?」 「ウサギ黒子っち!! かわいいぴよ! 最高スぴよ!!!」 「黄瀬君、うるさいですにゃん」 後ろから抱きついて来る黄瀬に黒子は肘鉄を放つ。 「なぜ紫原はそのままなのだね。納得が行かないにゃん」 「紫原は巨人だ。それより、何をやってるんだ、黄瀬」 赤い雪男がバスケットボールを紫原に渡す。 「黒ちん、ぱーす」 紫原は黒子にボールを回す。気を遣ったのか黄瀬は察して身体を引いた。 「イグナイトパス」 「ぐぁあぁぁぁ!!!!」 来ると思ってなかったのか黄瀬の身体にボールがモロにめり込んだ。 「ぴよはどうした! ぴよは!!」 「ムックなのに鬼コーチ口調ぴよ……」 「赤司、ですぞつけろよ、ほろっほー」 「猫耳を緑間か黒子に渡すんですぞ」 「……うぅ、ここはミドリンにガチャピンをやって欲しんだけどぴょん」 「お断りなのだよ、にゃんが精一杯にゃん」 「どうして赤司君、こんなことしたんですにゃん?」 少し沈黙した後、赤い毛玉から赤司が出てきた。 「ごめん、赤ちん……チャック壊しちゃった」 「演劇部に謝っておけ」 「ウチの演劇部のだったの?!ぴょんっ」 「赤司君、それってやっぱり暑いんですか?」 新手の鍛錬だったのだろうか。 「どうしてお前たちは俺の言った通りにしてないんだ!」 不満そうな赤司を紫原が肩車をする。 巨人アピールなのだろうか。 「ウサギの耳の猫がいるかっ。ぴよぴよ言う猫もいない!!」 「怒んなよ、ほろっほー」 「こう見るとまるで青峰っちだけが正しいような気がしてくるぴよ」 「オレは悪くないにゃん」 「緑間がちゃんと猫耳黒子を連れてくると思ったから猫にしたというのに……」 「黒ちん……羽があるからつけてみる〜? 語尾はカァだよ」 「猫にカラスってボクは不吉な動物扱いですか?」 「闇にまぎれたら見つけられないお前にピッタリだにゃん」 緑間の言葉に頷く赤司。 「もう授業も始まりますから帰っていいにゃん?」 「猫耳つけて授業しろ」 「それは嫌ですにゃん」 「部活中に着けてると邪魔だろ」 「分かりましたにゃん」 尻餅をついたままの黄瀬の頭から猫耳をとり黒子は自分につける。 紫原が赤司を肩車したまま近づいて来た。 「猫はちっちゃい」 「ケンカを売っているのかね? にゃん」 「どうして緑間っちと黒子っちは猫かぶりしてたぴよ?」 「ツンツンしている緑間は猫だ。黒子は黒猫だろ?」 「名前っスか? ミスディレクションのせいスか? 猫はかわいいぴよけど」 「黄瀬うるせー、ほろっほー」 黒子は紫原と赤司に頭を撫でられていた。 猫も大変だ。 2012/06/27 |