07
記憶を取り戻した銀時だが、三日経ってもまだ工場で働いていた。ここの給料は週払いなので、折角だから週末までいることにしたのだ。明日がその給料日である。
記憶が戻ると真っ先に雪路に会いに行った。太一が泣いて喜んだのは銀時のことを思ってではないだろう。事態が悪化して高杉に八つ当たりされることがなかったから、無事な我が身を思ってだ。気持ちはわかるので銀時としても責められない。高杉は太一のことをイマイチ覚えていないようだったので、何か起きても太一が当たられることはなかったと思うが。
次に育てている植物達のため走った。季節が冬にさしかかっていたのが良かったらしく、数日世話をしていなくても枯れたり病気にはなっておらず、ホッとした。
本当なら万事屋に戻り報告すべきだろうが、一人で頑張ると勇んで出てきたのに、すぐ戻るのは恥ずかしくてまだ行っていない。

「おーいみんな、新入りだぞ」

工場長の声に振り向くと、見たことのあるような気がする顔がいた。多分、真選組で見掛けたのだと思う。

「い"い"い"い"い"い"い"!!万事屋の旦那!?アンタなんでこんな所に!?」

やはり会ったことがあるらしいが、名前を思い出せない。そもそも名前を知ってただろうか。
首を傾げていると自ら名乗ってくれた。

「俺ですよ俺。真選組の山崎です。実は訳あって潜入捜査でここにもぐり込んだんですがね……」

小声で耳打ちされた内容には聞き覚えがある。高杉がこの工場は攘夷志士と繋がりがあると言っていた。捜査の手が入ってもおかしくないだろう。

「オイ、言っとくけどそいつ記憶喪失で昔のことなんも覚えてねーぞ」
「記憶喪失!?」

工場長に余計な合いの手を入れられた。
ここでもう記憶戻りましたと言うのも面倒くさい。第一やっと山崎の名前を覚えられたくらいなので、適当に相手してもいいだろう。

「そういうことなんで、スイマセン。旧知のようですが僕は覚えてないんで。えーと真選組の何?真ちゃんとか呼べばいいかな」
「ちょっとォォ!!潜入捜査って言ってるでしょ……あ"っ!!言っちゃった」

それでいいのか監察方。おちょくった銀時に言えた義理ではないだろうが、心の中で突っ込んだ。

「そーいやキャラもいつもと違う。目も眠そうじゃないし」

キャラが違うのは今迷子になってるからだ。前のに戻すにもまだ記憶は戻ってないことになってるし、記憶喪失の間のキャラは恥ずかしくて出来ない。
目に力を入れて真顔でいると、普段とは違う顔が出来上がる。

「え?でも万事屋は?他の連中はどうしたんですか」
「……万事屋は、休業中なんだ。記憶がないことには荒事も対処出来ないからね」

適当に誤魔化して山崎を追い払い、仕事に戻る。
銀時がジャスタウェイを量産していると、早速工場長に怒られている。今日来たばかりの新人を怒鳴る工場長もどうかと思うが、潜入捜査に来たはずの山崎はあんなに目立っていて捜査出来るのか。他人事だが気にしつつ、工場長に山崎への手本にされながら昼休憩の前にノルマを終わらせた。
休憩に入ると当たり前のように山崎は銀時の隣に座って弁当を食い、真選組への定期連絡をしている。

「旦那ァ。俺もうココひきあげます。局長がなんか行方不明になってるらしくて」
「ジミー、アレくらいでへこたれるのかよ。誰だって最初はうまくいかない。人間なんでも慣れさ」
「ジミーって誰!?それはもしかして地味から来てるのか!?それから俺は密偵で来てるだけだから!」

お探しのゴリラはここで働いてますが……なんて、言うに言えない。近藤も記憶喪失になってるなんて、どう言おう。
まず銀時は記憶喪失になっている設定なので、簡単にぶっちゃけれない。

「旦那も早いとこ引き払った方がいいと思いますよ。ここの工場長、何かと黒い噂の絶えない野郎でね」

噂というより、大体は本当のことだろう。攘夷志士については攘夷志士が一番詳しい。高杉から聞いたことに間違いがあるとは思えない。

「巷じゃ職にあぶれた浪人を雇ってくれる人情派で通ってるらしいが、その実は攘夷浪士を囲い幕府を転覆せんと企てる過激テロリストと噂されてるんです」
――奴ァ過激派のテロリストだぜ。従業員の半数はそれを知ってるはずだ。ククッ、てめーも長く居りゃスカウトされんじゃねーか?
「他にもこの工場で、裏じゃ攘夷浪士の武器を製造してるとか。近く大量殺戮兵器を用いて大きなテロを起こそうとしているとか。ロクな噂がない」
――結構武器も色々揃えてるらしーな。てめーが作ってんのもソレかもなァ。奴はやり方が下手だから最近じゃ、表でも噂が出回ってるぜ。そろそろ大詰めらしいから、てめーがブチ壊してやりゃ面白いんじゃねェの。

見事、山崎の言うことは一致している。さっきは監察としての腕を疑ったが、情報収集能力は中々のものだ。

「まァ、結果こんなモンしか出てきませんでしたが。火のない所に煙は立たないというし……」

(……え?コイツ気付いてねーの?)

山崎が手にしたジャスタウェイに、褒めてすぐだが撤回したくなった。
記憶が戻ってから調べたが、ジャスタウェイは爆弾だ。一見中は空だが、少し上げ底になった下に火薬が詰められている。その作業は古株にしか任されていない。
このやる気を削ぐような顔と言い、桂への土産にすれば気に入るだろうと思っている。

「坂田さーん。仕事始まりますよ」
「おっといけねェ。じゃ、これで俺は……」

昼休憩の終了を告げる声に山崎は退散しようとして、声の主を見てしまった。
ジーザス。銀時は心の中で天を仰ぐ。

「坂田さん、ちょっと僕のジャスタウェイ見てくれませんか?どうですかコレ」
「そうだね、もうちょっとここ気持ち上の方がいいかな。ゴリさん」

山崎の驚愕の視線を気にしつつ、渡されたジャスタウェイの手を指してアドバイスする。

「お前何してんのォォォォ!!」

山崎の拳を頬に受け、近藤は吹っ飛んだ。

「もしもーし……バカ発見しました。……ええ、スグ連れて帰りますんで」

山崎は真選組に連絡している。
銀時は近藤に駆け寄り抱え起こした。

「ゴリさんしっかりしろ!ジミー何て真似するんだ!ゴリさんはなァ、僕と同じように記憶を失っていて、頭はデリケートに扱ってやらないとスグ飛ぶんだ!!初期ファミコン並みなんだぞ!」

少し棒読みになってしまったが、無事言いたかった事を伝えることが出来た。
気を緩ませる銀時とは対象に、山崎は力を入れすぎ携帯を握りつぶした。

「記憶喪失ぅ!?マジですか局長ォ!!アンタ馬鹿のくせに何ややこしい症状に見舞われてんのォォ!馬鹿のくせに」

ストーカーして勝手に劇物盗み食いして記憶飛ばしました、何て馬鹿過ぎて言えない。
血管がプッツンしそうな山崎と、ジャスタウェイを抱え帰らないと駄々をこねる近藤。横やりを入れず放置していると、近藤の腕の中からジャスタウェイがポロッとこぼれた。

「あ」

ドォン!と轟音を立ててジャスタウェイが爆発した。予想以上の威力だが、そういえばここはジャスタウェイの保管されている倉庫の横だった。ドォン!ドォン!と次々ジャスタウェイが誘爆していく。

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