02
怪我は大したことがないとのことで、次の日には退院を許された。銀時が住んでいる場所まで連れて行かれる。
『坂田 銀時』という名前を聞かされても、思い出すものはなかった。名前には執着がなかったのだろうか。

「万事屋銀ちゃん……これが家?」

スナックお登勢と書かれた看板の上の階に、万事屋銀ちゃんと書かれた看板がある。

「そーです。銀さんはここでなんでも屋を営んでいたんですよ」
「まぁ、なんでも屋っつーかほとんどなんにもやってないプー太郎だったアル。おまけに年中死んだ魚のような目をしてぐーたら生きる屍のような男だったアル」
「家賃も払わないしね」
「アト、オ登勢サンノオ金強奪トカシテマシタヨネ」
「それはお前だろーが!!てゆーかみんな記憶喪失の人使って遊ぶなよ!嘘の記憶植え付けようとすんな!」

どうも我の強い人達のようだ。どの言い分が正しいのかわからない。新八の言葉によると嘘らしいが、何故嘘をつくのだろう。
言い争うのをぼんやりと見ていても、何も思い出せそうになかった。

「どーです?何か思い出しました?」
「ううん」
「しっかりしろォォ!もっとダメになれ!良心なんか捨てちまえ。それが銀時だ!」

本当に自分はダメ人間だったのか。きっとそうだ。これだけ言われるのだから本当のはず……と思うが洗脳されかかってるのに気付き、首を振って厄介な考えを飛ばす。
以前も自我が薄いことで危機感を覚えたような気がした。危機感というと、左腰に何もないのが妙に気にかかる。

「お登勢さん、どうしよう?」
「……江戸の街ぶらりと回ってきな。こいつァ江戸中に枝張ってる男だ。記憶を呼び覚ますきっかけなんてそこら中転がってるだろ」

次は新八と神楽に街中を歩いて案内される。この街は飲み屋やいかがわしい店が多い。三軒に一つがそういった店だ。
女の子との触れ合いを売りにした店の前で、長髪の男と出会った。桂といい、銀時と親しいらしい。

「なに?記憶喪失?」

新八に事情を説明された桂は銀時の顔をじっと見つめ、眉を寄せて首を振った。

「てか桂さん何やってるんですか」
「国を救うにも何をするにも、まず金がいるということさ」

壮大そうなことを言って、「そこのお兄さーん。ちょっとよってって。カワイイ娘いっぱいいるよー」と通行人に呼び掛けた。それが仕事らしい。

「そうだ銀時、お前もよっていけ。キレイなネーちゃん一杯だぞ。嫌なことなんか忘れられるぞ」
「これ以上何を忘れさせるつもりですかァ!!アンタらホント友達!?」
「あの、俺はいいです……」

興味がないこともない。しかし嫌な気分になるだけだという想いがあった。トラウマというわけではないが、不快な事に繋がるから入りたくない。

「ふむ。ここで拒否するということは、存外全てを忘れたわけではなさそうだ」
「えっ、そうなんですか!?」
「ああ。銀時と一緒に遊廓に行ったことは何度かあるんだが、いい思いをしただろうに帰る頃には何故かいつも不機嫌でな。その内女を買っても酒を注がせたり芸をさせたりといっただけになった。理由は知らんがその感覚が残ってるなら大丈夫だろう」

桂の言う記憶はないが、確かに嫌だという感覚は残っている。

「下手すぎて遊女に呆れられたとかだと思うけどな。ははは、グフォ!」

遠慮なく桂の腹に膝蹴りを叩き込んだ。

「ゲホゲホ……で、銀時。お前自分が誰かわかってるか?」
「だから記憶喪失っつってんでしょーが!」

新八が突っ込んだが、桂の表情は真剣だった。真面目に訊いてるのか。
銀時もちゃんと答えることにした。

「俺は『坂田 銀時』って名前だよ」
「……そうか」

桂は懐かしいものを見るような目で笑った。

「銀時は自分のものは捨てない貧乏性の男だ。記憶を落としたままとは思えん。その内思い出すだろうよ」

桂にはそれ以上話を聞けなかった。真選組という警察の人間が桂を狙っていて、そのまま追い掛けられ逃げたから。真選組はパトカーで突っ込んで来たが、全員無事に避けることが出来た。銀時が避けれたのは反射によるもので、体が覚えていたのかもしれない。
次は銀時の知り合いの家に行くことになった。かぶき町を出て、八木家具店と書かれた店につく。

「太一さんいますか?」
「いらっしゃーい。みんな揃ってどー……え"?何、銀時どーかした?怪我はどーでもいいとして、顔が違ェぞ」
「怪我はどーでもいいの!?銀さん、記憶喪失になっちゃって……」

新八が説明している男が、銀時の知り合いで松田太一というそうだ。茶髪だけが特徴的で顔立ちは普通だ。人好きそうな表情を浮かべている。
話を聞いた太一は真っ先に神楽に抱かれた雪路に目を向けた。

「もしかして、雪路を見てもダメだった?」
「はい、思い出しませんでした。いきなり子供と言われて、戸惑ってるみたいで」
「だろーなー……よし、雪路を俺に預けてくれないか?」

確かにいきなり銀時の息子と言われてもよくわからない。けどそれが本当なら他人に預けず自分で育てるべきだろう。いくら記憶がなくても、それくらいはわかる。
銀時がぼんやりと太一を見つめると、真剣な表情だった。心なしか青ざめて見える。もう暑い季節も過ぎたというのに、汗までかいている。

「俺は雪路のもう一人の親を知ってんだよ。銀時が車に跳ねられただけでもきっとアレなんだ、雪路にまで何かあったら……ここは少しでも、機嫌を損ねないように……とばっちり怖い……」

途中からぶつぶつと声が小さくなり、聞こえない。

「あのー……太一さん?」
「ハッ!ととにかく!俺が雪路を預かるから……アレだ、銀時は記憶を取り戻すことに専念しろ!なッ?一日一回は顔出せよ」

強引に押し切られた。今の銀時が子供を育てれるとは思えないし、新八と神楽も信用してるようなので言葉に甘えることにする。

「雪路のママに連絡取れないアルカ?きっと来てもらえば銀ちゃんも記憶取り戻すヨ」
「ママ?いやどっちかってーとママは銀時……いやなんでもない。あの人の連絡先は俺知らねーんだよ。知らせたくもないわ……ええとだから来てもらうことは出来ねーな。大丈夫、銀時は貧乏性だからすぐ思い出すって!」

桂と同じことをここでも言われた。
太一には新八が万事屋の鍵を渡し雪路の荷物を持って行ってもらえるよう頼み、銀時達は次の場所、新八の家へ向かった。

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