02
神楽に遊びでじゃなく依頼でいいから海に行きたい、と言われた。しかし神楽は夜兎なので真夏の海には入れないだろう。海という場所は日射しも照り返しも強い。銀時も日焼け止めを塗りたくってまで海で泳ぎたいとは思わない。遊泳目的でないのなら、夏を過ぎれば行ってもいいと思うが。なので神楽にはプールで我慢してもらい、屋内の仕事を増やしていた。

「ん?……はい、白銀です。ご依頼ですかー?」

万事屋外専用の携帯が震え、雪路にミルクをやっていたので肩に携帯を挟むようにして出る。

「すみません、団子屋の悟平さんに紹介されたんですけど。山崎といいます。……あの、拝み屋さんですか?」
「ええ、そうですねェ」

そちらの方か。
ミルクを飲み終えたので携帯とは反対側の肩に抱き、背中をトントンと叩いてゲップさせる。ミルクを戻すことなく上手に出来たので、褒めるように頭を撫でると、キャッキャと笑った。

「良かった……今急いでるんです。すぐに来てもらえますか?すでに何人もやられてるんです!」
「……わかりました。どこに行けばいいですか?」
「ありがとうございます!悟平さんのところで待ってますんで……」

いつもならもう少し詳しく話を聞くのだが急いでいると言うし、新八と神楽は別の依頼を任せていていないし、受けることにした。“やられてる”という時は物理的な被害が出ていることが多く、そういう時は霊でも何でもなく天人の仕業ということも多かった。天人となると業務外だが解決すれば金は出るだろうし、あまり危険はないと思うので雪路も連れて行けるだろう。
それっぽい雰囲気というのは大事なので、万事屋外用の仕事に借りている部屋に行き狩衣を着る。激しく動きそうな仕事だと水干や僧衣を着るのだが、多分狩衣で大丈夫だろう。雪路の顔を隠せるよう浅葱色の着物にパンダパーカーを被せる。あまりの可愛い仕上がりに写真を撮った。最近どこでもデジカメを持ち歩くようにしている。おんぶ紐で雪路を負うと銀時も顔を隠すよう笠を被った。準備を済ませ悟平の店へ向かう。

「あ、白銀さんですか!?依頼した山崎です!」

(あ、あれー……依頼って、まさか。嫌な予感が……)

銀時を見て駆け寄ってきた男は、見覚えはないが真選組の制服を着ていた。まさか依頼人は真選組なのか。ここは知らないフリをしよう。そうしよう。

「い、いえェェー違……」
「ああ良かった!屯所に案内しますね。ここからだと近いんで歩きになるんですけど」
「聞きやしねーよコイツ」

やっぱり依頼は真選組だった。否定しようとしたのに軽くスルーして山崎は先導し出した。こんないかにもそれっぽい格好をしていて、違うと言えるわけがないか。せめて最初に待ち合わせ場所を屯所にしてくれれば変装くらい出来たのに。
仕方なく山崎の後を気乗りしないまま着いて行く。笠を外さなければバレないだろう。
屯所への道のりは今の銀時には短かった。あっという間に屯所に着き、廊下を渡り局長の元へ案内される。

「局長!連れて来ました」
「オウ、山崎ご苦労!」
「街で捜してきました。拝み屋です」
「……どうも」

近藤を前に冷や汗が流れる。まだ土方がいない分ラッキーだ。やられたという連中に入っているのか……と思っていたら開いている障子から土方が顔を出した。残念なことにいたらしい。

「何だコイツは……」
「霊をはらってもらおうと思ってな」
「オイオイ冗談だろ。こんな胡散臭い奴……」

(胡散臭くて悪かったなァァ!!こういう格好じゃないと信じてくれない奴多いんだよッッ!!)

「とりあえず、お話を聞かせてもらえますか?」

内心イラッとしつつさっさと依頼を解決することにした。心持ち裏声気味に話を進める。

「あれ?万事屋の旦那じゃないですかィ。何してるんで?」

足元が疎かになっていたようだ。聞こえた声に下を見れば、ひょっこりと沖田が銀時を覗き込んでいる。
もう、絶対、詳しい話を聞かずに仕事を引き受けるのはやめよう。今回はただ間抜けな事態になっただけだからいいが、雪路を危険に晒す事態にならないとは限らない。

「やだナァー、万事屋って何かな?」
「いや、万事屋の旦那ですよね?」

狼狽えたのが表に出たのか。不審に思った土方が刀を抜いた。咄嗟に身を引いたが、笠に大きな切れ目が入る。銀時の視界が広くなった。

「万事屋ァ、てめー何してんだ?」
「アッハッハッ……何と言われてもねェ……」
「ふ、ぇっ……ふぎゃああああ!」
「わ、雪路!?怖かったか?大丈夫大丈夫、銀さんがついてるからなー」

頬をひきつらせる土方から顔を逸らしたことで雪路に土方が見えたのか、あまり泣かない雪路が盛大に泣き出した。銀時は慌てて笠を放り出し、おんぶ紐を解くと腕に抱えて雪路をあやす。

「ありゃあ絶対ェ土方さんが怖くて泣いたんですぜ」
「ああ、トシは子供受けが悪いからな……」
「副長、赤ちゃん泣かすなんて酷いですよ」
「俺ェェ!?つか、子連れって……お前子供いたのか!」

皆の視線が非難げに土方に向けられる。赤子を泣かせた上責められれば罪悪感もわき、視線を逸らせるように銀時に話を向けた。気になるのは皆同じなので、銀時と雪路に目が行く。
銀時は泣き止みつつある雪路を揺らしながら頷く。

「ああ、息子だ。バレたからには仕方ねー。ここは日射しもあっから、どっか部屋に入れてくんねーか」
「じゃあ、この部屋に……」

赤子にこの日射しはキツイだろうと、土方や沖田が出てきた部屋に通される。銀時だとバレた時点で変装の意味がないので、可愛かったが雪路のパンダパーカーを脱がしてやる。薄手の素材だが、ずっと着ているのは暑いだろう。
胡座の間に雪路を座らせる。まだ自力で座ることは出来ないが、首は座っているので凭れさせることは出来た。

「で、拝み屋が連れて来られたはずだが何故てめーがここにいる?」
「俺は拝み屋の白銀さんって紹介されたんですけど」
「……おめーら、拝み屋ってのはどんな仕事だと思う?」
「えっ?そりゃ霊を払うんじゃないのか」
「そうだ。しかし幽霊騒動の約半数が天人の仕業だと……お前ら知ってたか?」
「な、なんだとォォ!?」

銀時はフッと笑い狙いを近藤に定める。土方はまだ疑っていて、沖田は無関心、山崎は信じかけている。
正直銀時のところに来る依頼で正体が天人なのは三割だが、多少大きく話しても問題ないだろう。

「そこで、俺はそういった天人を退治する仕事もしてんだ。勿論本当に霊の仕業だとわかればツテを使い拝み屋に連絡して、あとは任せている」
「そうだったのか……なら今回も天人の仕業じゃないとわかれば、拝み屋に連絡してくれるんだな?」
「勿論だ」

完璧だ。完璧すぎる。近藤が信じたことで、土方も一応納得したようだ。山崎も完全に信じている。沖田はよくわからない。

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