02
場所は河原に移動して。今回の決闘は、重要な問題がある。それは男が幕臣らしいことだ。幕臣と揉めて禍根を残すと面倒くさい。妙を諦めさせるには勝たなければいけないが、帯刀してるだけあってあの男はそれなりに強そうだ。真剣にやり合えばこちらの実力を気取られる。そうなれば「あの強さ、一般人じゃないんじゃないか?」となるのも面倒くさい。更に、本気で妙を好いていない自分が真剣勝負に勝ち、男のプライドを傷付けるのも気が引ける。諸々の事情を考え――少し、小細工することにした。
銀時一人、用を足しに行ったことにして少し遅れて河原に現れる。

「遅いぞ、大の方か!」
「いや、厠並んでたんだよ」
「そ、そうか……」

厠話を長引かせる気はないので適当に流し、男と向かい合う。

「……あの、腕どーしたの?大丈夫?」
「あ、あァ。心配しなくても決闘には何の支障もねーぜ」

決闘相手に心配されてしまった。右腕は白い肌の一部が、蛇が巻き付いたように赤くなっている。両者の精神衛生を保つため、腕を袖に通して隠すことにした。はっきり言って、支障ないどころかまだ痛い。

「得物はどーする?真剣が使いたければ貸すぞ。お前の好きにしろ」
「俺ァ木刀で充分だ。このまま闘ろうや」
「なめてるのか貴様」
「ワリーが人の人生賭けて勝負できる程大層な人間じゃないんでね。代わりと言っちゃ何だが、俺の命を賭けよう。
お妙の代わりに俺の命を賭ける。てめーが勝ってもお妙はお前のモンにならねーが、邪魔な俺は消える。後は口説くなりなんなり、好きにすりゃいい」

一応、嘘は言っていない。もし負けて妙がこの男のものになるのも可哀想だし、保険は必要だ。

「ちょっ、止めなさい!銀さん!」
「クク……い〜男だな、お前」

妙は静止の声を上げ、対して男はニヤリと笑い刀を地に落とす。

「お妙さんが惚れるはずだ。いや……女子より男にもてる男と見た。
小僧、お前の木刀を貸せ」

(かかったァァァ!!)

銀時は内心ほくそ笑み、己の木刀を男へ投げる。

「てめーもいい男じゃねーか。使えよ、俺の自慢の愛刀だ」

男は木刀を拾い正眼に構えた。銀時は新八の木刀を貸り、左足を引き右上から刃先を下に構える。

「勝っても負けても、お互い遺恨はなさそーだな」
「ああ、純粋に男として勝負しよう。いざ!!」
「尋常に」
「「勝負!!」」

お互いが木刀を振りかぶり――男は、木刀の持ち手を残し先が折れているのに気付く。

「あれ?あれェェェェェェ!?ちょっと待って、先っちょが……ねェェェェェェェェェェ!!」

銀時は遠慮容赦なく、木刀を男の左頬へ振り抜く。男は吹っ飛ばされ、水際で止まった。

「甘ェ……ふわふわ綿菓子より甘ェ。敵から得物借りるなんざよォ〜」

こういう展開に持っていったのは銀時だが、敵から借りた得物を調べもしないなんて人が好すぎる。木刀に小細工など出来ないと思ったのか。

「厠で削っといたんだよ。ブン回しただけで折れるぐらいにな」
「貴様ァ、そこまでやるか!」
「こんなことのために誰かが何かを失うのはバカげてるぜ。全て丸くおさめるにゃコイツが一番だろ」
「コレ……丸いか……?」

男は痛みでか精神的なものでか、意識を失った。木刀で闘り合うことを合意した以上、男も結果についてとやかく言って来ないだろう。橋の上に何人も見学人がいたし、妙に言い寄るのをとめたわけではないのだから。少しは懲りてくれたら、それでいいのだ。

「よォ〜、どうだい?この鮮やかな手……ぐふわぁ!!」

橋の上から新八と神楽が降ってきて蹴り倒された。

「あんなことまでして勝って嬉しいんですか、この卑怯者!!」
「見損なったヨ!侍の風上にも置けないネ!」
「姉ちゃん護ってやったのにそりゃあないんじゃないの!」

小細工されたから仕方ないんだ、と自分に言い訳する余地も残してあげた。とっても優しい勝利法だと思うのに。何故銀時はバカスカ蹴られているのか。

「もう帰る。二度と私の前に現れないで」
「しばらく休暇もらいます」

存分に蹴って満足したらしく、新八と神楽は帰って行った。

「なんでこんなに惨めな気分?」

溜め息を吐き立ち上がる。まだ夢見るお年頃である二人には許せなかったらしい。綺麗に格好よく銀時が勝つのを期待していたとも言える。
銀時に言わせれば、美しい勝負というのは存在しない。勝ち負けがかかった時点でそれぞれの思いが集い、それがどんなものであり重たくなるのだ。また、美しい敗北というのもない。負けたらすべてが終わり、何も残らない。負ければ何も主張出来ず、勝者に好きに扱われ誇りも命も生き様も消される。
二人の綺麗さと自らの汚さを見せつけられた河原を眩しく思いながら見つめ、銀時も帰路へついた。



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