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唇を離すと、雅は弧を描くように舌で自分の唇を舐めた。


(その癖、嫌い)


睨むように雅を見ると、雅はにやりと笑って口を開いた。


「透は俺のもんじゃ、手ぇ出したら許さんぜよ。…幸村、話があるけんこっちきんしゃい。透、部室におって。そこの参謀が聞きたいことで溢れとるみたいじゃき、話し相手になっときんしゃい」


それだけ言うと雅は背を向けていなくなり、幸村君は慌てて雅を追いかけて行った。


「…参謀って誰ですか?」
「俺のことです」
「ああ、柳君か…。部室にお邪魔していいの?」
「ああ、構わないが…」
「じゃあ案内お願いします」


軽く頭を下げると戸惑いが隠せない表情で全員が歩きだした。っていうか、全員行くんだ?


「どうぞ」


部室の扉が開くと、なんとも言えない空気が鼻を擽った。運動部の部室って、苦手なんだよなあ…

案内されるがまま椅子に座ると、赤い髪の子が大きく息を吐いた。


「…何あれ、修羅場かよぃ?」
「俺、まじであの空気死ぬかと思いました」
「お二人ともっ、彼女がいらっしゃる前で…。言葉を謹んでください」


眼鏡をかけた子の言葉で、赤髪君と天パ君は慌てて口を押さえた。


(いや…、うん)


「別にいいよ、私だってあの雰囲気無理だから」


そう言うと、全員驚いた表情でこちらを見た。


「…何?」
「あ、いや…。戸惑いなくキスしたみたいに見えたから、そういうの気にしない人かと」
「私平気で人前でキスするのとか、そんな常識ない人間じゃないから」


ため息をつきながら軽く笑うと、柳君が眉を潜めながら口を開いた。


「尋ねたいことはたくさんあるが、…いいか?」
「別にいいんじゃない?雅が話し相手になれって言ってるんだから」


にっこりと笑いかけると、柳君は言葉を考えているのだろう。ゆっくりと口を開いた。