いつもと違う朝  [ 3/17 ]


--柳side--

朝練に来てみると、コートは昨日の雨で荒れていた。

昨日の雨を思い出しながら溜め息をつく。
あんなひどい雷雨は久しぶりだった。

雷の翌日のあいつは使い物にならなくなる。
あいつは普段からヘタレてはいるが、雷と女が何より苦手なのだ。
昨日程のひどい雷なら、今日は学校に来なくても不思議ではない。


「おはよう、柳」


そんなことを考えていたら、聞き覚えのありすぎる声が聞こえて慌てて振り向いた。


「幸村…?」
「なに?」


そこにいたのは、いつも以上に柔らかく微笑む幸村の姿だった。
…どういうことだ。


「…何かあったのか?」


そう尋ねると、幸村はきょとんと首を傾げた。


「昨日の雷により、お前が朝練に来ない確率86%、遅刻する確率75%、学校自体を休む確率60%だった。少なくとも、笑顔でこの時間にそこに立っている確率は無いに等しいのだが」
「え、え?」


何を言われているかわからない、とでも言うように幸村が戸惑っていると、部室のドアが開き部員が次々と入ってきた。


「ちーっす、…って、幸村君!?なんで!?」
「ちょ、部長!!昨日雷っスよ!?」
「これは驚きましたね、大丈夫だったのですか?」


三者一様に幸村がいることに驚きの声をあげていた。


「ふふ、雷は怖かったよ」
「じゃあなんで」
「電車が動かなくなっちゃってどうしようもなくなってたら、隣に座ってた女の人が助けてくれたんだ」
「「「女!?」」」
「雷が鳴った瞬間気が付いたら彼女の手握ってて、すぐ謝ったんだけど笑って許してくれて。結局駅につくまで1時間くらいずっと話してくれて、手も握ってくれたんだ。気が紛れるようにって」


すごく優しい人だった、と顔を少し赤く染めながら話す幸村に、全員開いた口が塞がらなかった。

雷と女が何より苦手な幸村が。
全員思うことは同じだろう。


「幸村君その人は平気だったんだ!?」
「え、うん。そういえばそうだね、なんでだろ」
「良かったッスね!!部長好きな人とか一生作れないかと思ったッス!」
「す、好きな人!?」
「違うのか?顔赤くして話すから、好きになったんだと思ったが」


ジャッカルの問い掛けに、幸村はかああっ、と一気に赤くなった。


「幸村、その人はどこの誰だったんだ?」
「どこの…誰…?」
「…まさか部長、1時間も話してて名前も聞いてないんスか!?」
「助けてもらったんなら今度お礼をとかできただろぃ!?もったいねえ!!」


みんなの呆れた言葉に幸村は顔を青くし、それを見て全員が溜め息をついた。


「そういや仁王は?」
「来てないな。あいつも雷嫌いだからなー…」


なんでこう、問題児が多いのかと溜め息が止まらなかった。