プロローグ
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溜め息が出る。
急いでいる時に限ってこの電車は先程から全く動かなくなってしまった。
(椅子に座れているだけましか)
走行中のいきなりの大雨に呆気なく負けた電車は、乗客のいらつきのおかげで空気が最悪だ。
私は座れているし、隣に座るのは女の子みたいな綺麗な男の子。
立っておじさんに潰されるより何倍も環境はいい。
雨の状況が見たい、とふと顔をあげて隣の男の子越しに右の窓の外を見た。
(………あれ?)
なんかこの男の子震えてない?
しかもさっきから片手で口押さえて声を殺しているように見える。
大丈夫かな、風邪ひいて寒いとかだったら大変だ。
そんなことを考えていた瞬間、外が勢いよく光り、車内にも地響きがするくらいの音が鳴った。
「〜〜〜〜っ、」
雷の音が大きすぎて聞こえなかったけど、何か小さく叫ぶような声が聞こえた。
その瞬間、椅子に行き場なく置いていた右手が何かに捕まれた。
「…え?」
温もりの先を辿ると、先程よりひどく震える彼の姿が。
え、なにこれ。
「…あのー?」
「っ、は、い」
声をかけると振り返った男の子。
うわ、正面向くと本当に綺麗。
「いや、手。なんですか?」
「…え?…〜〜っ、うわっ、ご、ごめんなさいっ!!」
真っ赤なのか真っ青なのか表情が一瞬にして変わりながら、手を離してくれた。
というか無意識だったのかな?
未だに震える彼を見ると、小さく外が光る度に肩を揺らしている。
(これはもしかして…)
「あのー…」
「は、はい…っ」
「雷がダメなんですか?」
直球で尋ねると、男の子はわかりやすく肩を揺らしてこちらを向いた。
あ、涙目だ。
「何かお話でもしてます?気が紛れる何かがあった方がいいでしょ?」
「え、う、あ…。でも、」
「私も電車止まってて暇だし。暇潰しに付き合ってくれません?」
そう言って微笑むと、彼は戸惑いながら頷いてくれた。
「あと、手、必要ならどうぞ?」
笑いながら右手を差し出すと、目を見開いたまま暫く固まっていたが、また雷鳴が響いた瞬間に咄嗟に握られた。
慌てて離そうとした瞬間にこちらから笑顔で握り返すと、顔を真っ赤にさせながら俯いた。
…見かけによらず、可愛いなあ。
結局それから私たちは電車が動くまで他愛もない話をした。
先に彼が降りた後、名前も聞いてないことに気付いた。
まあ会うこともないだろうけど。
そんなことより、考えなければならないことは他にあるのだから。
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