否定する  [ 6/17 ]


--柳side--

真崎透の衝撃的な発言の翌日。
立海生である俺にもなかなかショックな言葉であったが、幸村のショックは図り知れない。
今までに見たことないくらい落ち込んで、今も部室の隅でうずくまっている。


「しっかし、なんだよぃその女。別に幸村君悪いことしてないだろぃ?」
「立海生に恨みでもあるんでしょうか」
「そんな女忘れた方がいいっスよ、部長!!」
「……………で」


口々に幸村を庇う部員の声の後に、幸村が何か言ったのが聞こえた。


「幸村どうした?」
「…っ、真崎さんを、悪く言わないで…っ!」


膝に顔を押し付けたまま震える声で叫んだ幸村に、全員驚いて顔を見合わせた。


「でもよぃ、幸村君…」
「お?なんじゃ、空気重いのう」


空気を読まない声に振り向くと、そこには飄々とドアを開けた仁王がいた。


「む、遅刻とはたるんどる!!」
「うるさいぞ弦一郎」
「前に話した幸村君を電車で助けてくれた女性のことで少々…」
「ああ、なんか言うとったのう」


そう言った仁王に丸井や赤也が今までのことを説明し始めた。


「…ほう。それはそれは」
「だからさ、幸村君にそんなひどい女忘れろっつってんだけどよぃ」
「真崎さんは、ひどくない…っ」


もう一度叫んだ幸村に丸井達が溜め息をつくの同時に、仁王が小さく肩を揺らしたのを俺は見逃さなかった。


「…幸村、その女の名前何て言うた?」
「…真崎、透さん…」


ほう、と呟いた後、仁王は誰にも気付かれないくらいににやりと笑った。


「おまん、そいつが好きなんか?」
「…そんなんじゃない、と思う。わかんない、けど、仲良くなりたい」


幸村の髪の毛から覗く耳が真っ赤で、本気なのだとわかる。


「…残念じゃの、幸村。あいつはお前を好きにはならん」


仁王に注意を向けていた俺だけにようやく聞こえるくらいの小さな声で呟いた後、仁王は部室をでた。