1 『あら、た…………』 だれかが近づいてくる。 体が動かねえ。なんだこれ…… 俺は固まったまま、誰かの顔が降りてくる。 「うっ、……わあぁああぁ!!!!!」 大声を上げて飛び起きると、俺は掛け布団をギュッと握りしめていた。 背中は汗びっしょり。 「なんだ………ゆ、めかよ」 そう思ってため息をついたが、頭に浮かぶは昨日の事故。 どうやらこっちは夢じゃないようで。 「あ゙ー………くそくそくそッ、忘れろ!!」 頭を掻きむしる。あわてふためく俺を尻目に旭は平然としていた。なんなんだよアイツ…意味わかんねえ……。 唇にまだあのかさついた感覚が残ってる気がする。袖でひたすらゴシゴシと唇を拭った。 時計を見るとまだ7時。いつもは半くらいに起きてダッシュするんだが、早く目が覚めたみたいだ。 とりあえず汗ばんだ体をどうにかしようとシャワーを浴びることにする。 急ぎ足で朝食を胃に掻き込み、鞄を持って家を出た。 「いってきまー」 「す、までちゃんと言いなさい!!いってらっしゃい」 バタン、とドアを閉める。うちのお袋はガミガミおばさんだ。しかも俺にはうるせえくせに、旭には甘い。 「あんな子が欲しかったわ……」が口癖。すいませんねーあいつみたいにならなくて。 「新?」 「っえ…!」 後ろから声がして思わずビクッと飛び跳ねる。 噂をすればなんとやら、まさかと思って振り向くとそこには俺を悩ませた張本人がいた。 「はよ……今日は早ぇんだな」 「……」 「……新?」 本当になんにもなかったかのように話しかけてくる旭に、俺は返事が出来ない。 昨日のアレはなんだよ、その一言が出てこない。 「……〜!!」 「おいっ、あらた!?」 言いたいことも言えず、なんだかいたたまれなくなり思いっきりダッシュしてしまった。 後ろで驚いた声もしたが、そんなの聞いてられない。 学校まで片道25分の距離を全力疾走し、10分ちょいで門の前についた頃には息切れでしゃがみ込む始末。 周りから変な目で見られるけど、しんどすぎて立てねー……… 「俺はッ、生娘、かっつーの………」 はーはー言いながら一人ごちる。初キスでもあるまいし、野郎にキスされたくらいなんだってんだ。 そうは思っても、体が言うことを聞かない。 <<||back||>> |