キスから始まる | ナノ

3







鼻歌を歌いながらいい買い物をしたと頬を緩ませる。そして後ろを振り返って余計に笑み…というか笑いが。

両腕を紙袋やらショップ袋やらに占領され、随分と疲れた様子の俺の幼なじみ。


「ご苦労様、ちょっとあがってく?」

「……はー……、とりあえず水出せ…」


俺の家の前まで荷物を持ってきてもらった。
つーか駅から旭の家までの通り道でもあるんだが。


玄関にドサッと荷物を投げ、座り込む旭を横目で見てププ、と笑うと睨まれる。

「俺はお前のお付きじゃねーんだぞ」

「わかってるよ。今度マック奢るから許せ」

「新が俺に払わせたファミレス代の半分にもならねー……」


疲れ果てた旭を部屋に連行して、麦茶とポッキーを出す。
いつもがぶ飲みするのを想定して、2Lペットボトルごと持ってきた。

案の定旭はかぶりつくように麦茶のコップを傾けていく。
俺はポッキーをポリポリとかじる。



「今度の25日シノが作品だす高校美術展見に行こ」

「……んッ、なんで。俺芸術系わかんねえからいやだ」

「そんなの俺も絵のことなんてわかんねえよっ!でも行きてーじゃん」

「俺は興味ない」


優しいシノが俺の誘いを断るくらい切羽詰まって描いてる絵だ。見に行きたい。
噂には、シノは美術部の中でも一、二を争う上手さらしい。俺には技術的は面は全く分からない、でもシノの絵には優しさが滲み出てる…と思う。



「はー……じゃあ一人で行くっつのバカ旭……ッいってェ!」

「馬鹿に馬鹿とは言われたくねえ」

油断していた頭にまたも拳。地味に腫れてんだぞ!

ふて腐れる俺に、麦茶を注ぎながら言う。

「シノ好きな奴いるぞ」

「……知ってるー」



旭にはどうにも俺の気持ちが駄々漏れらしい。
というか、旭に言われて初めてシノが好きって気づいたくらい。



「別にさ、俺はシノとエッチしたいとか思ったことはねーよ」

愚痴を漏らすように、ただツルんだり意味のない話で盛り上がりたいだけだと呟いた。

まあキスはちょこっとしたいかも。でも嫌がられてまでそんな風には思えない。

シノの思い人もなんだか満更じゃなさそうだから、そのうち付き合いだすだろうと踏んでる。

祝福したいけど、何とも複雑な心境だ。


溜息をつく俺に、旭がとんでもない発言をした。

「……お前、シノでヌいたりしねーの?」

「……は!?な、おま……馬鹿か!!するわけねーだろ!」


俺のオカズはいつもぶれずにグラドルのえみちゃんだっつの、たまに貸してやってるだろうが。


旭はといえば…意外だといった表情を浮かべ「ふーん……」と呟いた。




‐4‐


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