二章

続・プロローグ



 ニコライは銃を突きだしながら勢いよくドアを開けたと同時に、右足を何かに強打された。

 「あっ……」

 よろめきながらそちらに銃を向ける。しかし、

 「いらっしゃい、天使さん?」

 そこには超絶的な美貌の男が立っていた。そして、シリンダーに入っていた銃弾が消えていた。

 「な……んで……」

 「神通力によって生み出す銃弾だね?だったらこの家の中では無駄だよ」

 笑顔でそう言った美貌の男。ニコライと同じ、20代前半くらいの青年。金の短髪に鮮やかな若菜色の虹彩。背はニコライより少し低い。

 ニコライの銃の銃身を掴む男。

 「この家は俺の魔力がかかった家。神通力の全てを封じる」

 ガッ、とニコライが男の腕を片手で掴み、もう片方の手で腰のポーチに入ったナイフを抜く。戦闘用のナイフだ。

 「この、悪魔が……!」

 そのまま男を引き寄せ、その鳩尾にナイフを刺そうと刺そうとした。しかしそれはできなかった。

 「駄目だよ」

 バチィッ、と音がしたかと思うと、ニコライの体に衝撃と痛みが駆け抜けた。

 「――――っ!」

 雷の魔力で体に電流を流された、と理解したニコライ。床に倒れ、続けて自分の拳銃が横に落ちてきた。電流を流された体は動かない。

 倒れたニコライを見下ろす美貌の男。

 「動けないでしょ? 1時間以上は立ち上がれないよ。ようこそ、綺麗な天使さん。名前は?」

 「…………」

 ニコライは唇を噛み締める。完全に負けた。もうこの悪魔に殺されるしかない。

 悪魔は開けっぱなしだったドア閉める。

 「ねえ、名前は?」

 「……そんなこと聞いてどうするんです? 殺すなら早く殺しなさい」

 そう言うニコライに、男は溜め息を吐いて彼の横にしゃがんだ。

 「それ、命令? 殺すかどうかなんて、俺の自由でしょ」

 男はニコライの外套の前を開け、首にかかった認識表を軍服の中から引っ張り出した。

 「えっと……ニコライ・フォン・ヴィノクール? 身分は高いようで」

 名前に‘フォン’が付く天使は身分が高い天使だ。

 続いて男はニコライの胸ポケットから手帳を出した。

 「あ、知ってると思うけれど俺はミハイルね。ミーシャって呼んでくれて構わないよ……君ならね」

 彼はそう名乗って、ニコライの手帳をパラパラとめくった。

 「君、特務曹長なの? 1人で来たってことは、やっぱり特別な立場なんだね。かなり強いんでしょ? 分かるよ。まあ、俺に勝てるわけはないけれど」

 「勝手にそれを見ないでください、悪魔」

 「ミハイルだってば……。ね、コーリャ?」

 「…………っ!」

 美しい顔を怒りに染めるニコライ。酷い屈辱だ。悪魔に負けた上に、勝手に持ち物を漁られ、愛称で呼ばれるなんて。

 クスクスと嗤ったミハイルは、ニコライの頬に手をあてた。

 「怒ってるの? 俺を抹殺する、なんてこんな任務、よく引き受けたね。……本当に、綺麗な顔してる。もっとよく見せて」

 ミハイルに耳当て付きの帽子を外されたニコライ。整った彼の顔が目と鼻の先まで来る。

 「目は……不思議な色してるね。青紫?美女桜の色、かな」

 「……私に、何をするおつもりですか」

 顔を僅かに傾けて、ニコライはそう言った。

 ミハイルは笑顔のまま、何も答えない。代わりにニコライの背中に手を回し、横抱きにして立ち上がる。

 「よっ……と」

 ニコライの外套が床に落ちたのを尻目に、ミハイルは家の奥へと向かう。

 決して軽くはない男を平気な顔で持っているミハイル。魔力で僅かに重力を操っているのだ。

 ニコライは床に落ちたままの自分の拳銃を横目で見ていた。

 居間の暖炉を横切り、廊下を歩くミハイル。広くはない家の一番奥の部屋を開ける。

 その部屋に、ニコライは少なからず驚きを感じた。

 「…………?!」

 そこは寝室だった。この悪魔は自分を殺しに来た天使をベッドに寝かせるつもりだろうか。

 「驚いてるの?コーリャ」

 ミハイルはそう言いながら、ベッドにニコライを下ろした。

 「その呼び方はお止めなさい」

 「やだよ。コーリャこそ、悪魔って呼ぶの止めてよね」

 そう返したミハイルは、ニコライの軍用ブーツを脱がせ始めた。

 「君は知ってると思うけれど、俺は強い魔力を持ってる。俺はね、君が山に入った時から君を見てたよ。この力を使って、ずっとね」

 「えっ……?」

 「最初はいつも通り殺そうと思った。でも、気が変わったんだ」

 ブーツを脱がせ終わったミハイルは、驚愕しているニコライの頬に指を滑らせる。

 「君の顔を……表情を見た瞬間、俺は君が欲しくて堪らなくなった」

 無邪気な狂気を感じさせる翡翠の瞳に、ニコライは寒気がした。

 「何を、言っているんです?」

 「怯えてるね……可愛い」

 ミハイルの綺麗な指先は、ニコライの白い首筋をなぞり、軍服の上着の襟元を捉えた。

 「俺は同性愛者じゃないけれどね……、君を犯してあげたくなったよ。じっくりとね」

 目の前の悪魔のその一言に、ニコライは目を見開く。上着の釦が、1つずつ外されていく。

 「いい顔するね。そそるよ、コーリャ」

 ポーチとホルスターが付いたウエストのベルトに手をかけられる。

 動かそうにも動かない体では、何もできないニコライ。

 「あなたはどうかしています……。天使に、男にこんなこと……」

 「ああ、そうだろうね」

 ベルトが外され、上着が脱がされた。ベッドからベルトが滑り落ちる。

 「外、寒かったでしょ?厚着されると、逆に脱がせるのが楽しいよ」

 下に着ていた薄い緑色のシャツの釦に手を這わせるミハイル。1つ釦を外すと、襟の隙間から鎖骨が覗く。

 「1枚1枚脱がして……裸にしてしまったら、俺は君を蹂躙する。君はただ、俺に犯されることしかできないんだ」

 シャツの釦が外される度に、ニコライの白い肌が露(あらわ)になっていく。

 「このシャツだけは、着せておいても良いかもね」

 スル、と胸元を撫でるミハイルの手。

 「顔は女っぽいけれど、やっぱり体は鍛えてるんだね。いい体してる」

 鳩尾辺りまで釦を外したミハイルの手は、ズボンのベルトへ向かった。

 「お止めなさいっ……」

 「恥ずかしいの? これから、コーリャは陵辱されるのに……」

 「やめっ――」

 ニコライの言葉は最後まで続かず、ミハイルにその唇を唇で塞がれた。

 彼に抵抗する術など、ニコライには無かった。

 ミハイルはニコライに深く口付けながら彼のズボンのベルトを外す。その手は彼の性器を下着の上から撫で、そのままシャツの中に入り下腹部に直に触れる。鍛えられた身体の凹凸が感じられた。

 ニコライの口の中に滑り込む舌。思いの他簡単にその侵入を許した彼に、ミハイルは表情を確認しようと唇を離した。

 ニコライの顔は怯えているように見えた。泣きそうな目をしていた。諦めて抵抗していないのではない。どう抵抗していいのか全く分かっていないのだ。

 「コーリャ、もしかして相手が男じゃなくても初めて?」

 「…………」

 無言は即ち肯定の回答。更に愉しげな顔になるミハイル。

 「そうなんだ」

 「……は、離れてください。今すぐ」

 「俺が教えてあげるよ。触れ合う快感をさ」

 そう言って彼は自分のシャツを脱いだ。ニコライに比べて細身だが、ある程度筋肉の付いた綺麗な身体。

 「君の童貞も処女も、俺が奪ってあげるよ」

 「…………?!」

 「まずは童貞の方から奪ってあげるね?」

 そう言って彼はニコライの両目を片手で塞ぐ。

 「相手が女だと思ってもいいよ。感じて」

 赤く柔らかい唇で、再びニコライの唇を塞ぐミハイル。もう片方の手では彼の性器を下着の中から取り出していた。

 まだ全く反応していないが、明らかに平均より大きなニコライの性器。それを弄りながら唇は彼の首筋へと下げていく。

 「……やめて、ください……」

 身体が動かないので口でしか抵抗する術のないニコライの声。ミハイルはそれを無視して彼の身体を丁寧に愛撫する。

 ニコライが唾を飲む音がした。彼は命をかけた戦闘は何度もしたことがあったが、性交の経験は全くない。しかも相手は最強の悪魔であり男。凄まじい恐怖だった。

 首筋から、鎖骨。薄緑色のシャツの釦は全て外され、筋肉質な身体にミハイルの手と口唇、舌が滑る。

 強姦とは思えないような優しい愛撫。多大なる屈辱と恐怖の中のはずなのに、ニコライは悪魔の行為から徐々に性的な興奮を見いだしてしまう。それを否定したくともできない。

 なかなか反応を見せなかったニコライの陰茎が少しだけ硬くなり始める。

 「やっと感じてきたね。君が不感症じゃなくてよかった」

 そう言ってニコライの両目を塞いでいた手を離すミハイル。

 「好きな女の子のことでも考えてた?」

 「黙ってください」

 「君みたいな天使でも、誰も好きになったことがないはずがない」

 「こんなことをして、何が望みなんですか」

 「……望み?コーリャを支配すること、かな。それ以外は無いよ」

 そしてミハイルは、ニコライの性器を口に咥えた。

 「…………っ?!」

 温かく湿った彼の口内の感覚に、ニコライは目を見開く。

 彼の性器を吸いながら頭を前後させるミハイル。水音が部屋に響き、彼の顎を飲み込めなかった唾液が伝う。時頼ニコライの顔を一瞥する彼の若菜色の双眸が妖艶だ。

 「っ……や、やめ……」

 強い快感にニコライの恐怖心は増す。自分が悪魔に口淫されて今までに感じたことがないくらいの性的快感を得てしまうなんて、思っていなかった。その羞恥心すらも興奮させる要因になってしまうようだった。

 完全な勃起状態になり、大きさを増した彼の陰茎は、ミハイルの口には入りきれなくなった。

 ズルリと彼の口から性器が出る。先端から流れる尿道球腺液を柔らかな舌で舐め上げ、彼は言う。

 「こんな大きいの、入るかな?」

 「な、にを……?」

 「童貞奪ってあげるって言ってるじゃない」

 ミハイルはニコライの下着とズボンを全て脱がせると、自分も下着と一緒にズボンを脱ぎ全裸になった。彼はもう既に半分勃起している。

 「後ろは1度開発されたとはいえ、久々なんだ」

 「……肛門性交させる気ですか」

 「他にどこがあるの。いくらなんでも俺、膣は持ってないから」

 「やめてください!気持ち悪い!」

 「何言ってるの今更。手借りるよ」

 必死に抵抗の言葉を叫ぶニコライを尻目に、ミハイルは彼の左手の指をしゃぶった。大きく白い手で、決して細くはない指が唾液で濡れる。

 その人差し指と中指をミハイルが自分の後ろの孔に突き立てた。

 「あっ……」

 艶めかしい声を上げるミハイル。身体を支える膝が震える。

 湿っていて熱い彼の中に自分の指が入っていく感覚に、ニコライはゾッとした。入り口の筋肉が指を締め付けてくる。

 「ぬ、抜いてください」

 「やだよ……。っあ」

 痛いのだろうか。ミハイルは少し眉を眉間に寄せている。しかし指を中から抜こうとはしないので、ニコライは不思議に思った。

 「痛いのはあなたでしょう?抜いてください」

 「君にも後で同じことをしてもらうよ。まあ初めてだから俺よりよっぽど痛い思いするだろうケドね」

 「…………!」

 「大丈夫。俺は優しいからね」

 ミハイルはそう言って、恐怖に目を見開いているニコライに微笑した。そして彼の指を根元まで挿れ、腹部側に動かす。

 「ああっ」

 ニコライが指先に何か柔らかいものを感じたと同時に、ミハイルは上擦った声を出した。そこを刺激していると、彼は完全に勃起し、先端からは尿道球腺液を溢れさせる。

 「コーリャの指、イイっ……あんっ……」

 性器を触っていないにもかかわらず、彼は快感を得ているようだ。ニコライの指を締め付ける力は弱くなっている。

 前立腺への刺激だけにとどまらず、ミハイルは勃起したニコライの性器に自分の性器を擦り付けた。

 その貪婪(どんらん)で淫猥な悪魔の姿にニコライは目を背けたくなる。気持ち良いと思わされてしまっている自分の中にも、どこかに彼のような浅ましさがあるように思えてしまうのが嫌だった。

 頬を赤らめ、少し潤んだ瞳でミハイルは天使を見下ろす。

 「そろそろ、挿れようかな」

 「やめてくださいっ」

 「まだそんなこと言うの?」

 「嫌です!あなたなんかと……!」

 「黙って。先に俺が入れられる側になってあげただけいいと思ってよね」

 「こんな意味のないことをしてどうするっていうんですか!!」

 「うるさい」

 パンっ、とミハイルの掌がニコライの顔の左側面を打った。

 ニコライの目の前が一瞬白くなった。音は大きくなかったし、腫れもしなかった割に受ける痛みと衝撃だけは大きい打撃。

 彼が驚いている間に、ミハイルは彼の指を引き抜いて性器の先端を自分の後ろの孔にあてがう。

 「ううっ……」

 「っく、悪魔……」

 自分の先端が目の前の男の体内に入っていく感覚に、ニコライは呻いた。

 ミハイルも流石に苦しいのか、深く呼吸しながら自分の中に性器を挿入していく。

 「ん、あ……おっきい……」

 「いや、やめてくださいっ」

 自分の性器が悪魔の中に入っていってしまうことに恐怖を感じるニコライ。

 陰茎が相手の躰に包み込まれる。この悪魔の呼吸も、鼓動も、体温も感じてしまう。自分の最大の敵が生きていることを感じてしまう。そして自分の中の欲望に、気がついてしまう。

 ミハイルが、ニコライの上に完全に腰を下ろした。

 「入った……。繋がったよ、コーリャ」

 甘いテノールの声が、そう言った。その顔は少し苦しげながらに嬉しそうだ。

 ニコライはもう何も考えられなかった。目の前の現実を受け入れたくない。悪魔と繋がってしまっている、現実。

 ミハイルは再び腰を上げていく。

 「動くよ」

 その言葉と同時に彼は腰の上げ下げを始めた。ニコライの先端が何度も彼の奥を突く。

 男の体に扱かれる初めての強い快感に、ニコライは戸惑う。

 「あっ……やめ、イく……」

 「え?だめ、まだイかないで」

 「無理ですっ」

 ミハイルが奥まで挿れた瞬間、ニコライは凄まじい快感と共に目の前が白くなるのを感じた。全身に衝撃が駆け巡る。一瞬遅れて自分がオーガズムに達してしまったのだと理解した。

 中に精液が出された感覚に、ミハイルは少し顔を顰める。

 「イッちゃったの?早いよコーリャ」

 「そんなこと、言われましても」

 ニコライは真っ赤な顔をして、涙目になっていた。息も上がっている。

 少し不機嫌そうな顔をしていたミハイルだが、彼の表情を見て再び笑顔になった。

 「まぁ初めてだしね。許してあげる」

 そう言いながらミハイルは自分の中から相手の性器を出した。

 「じゃあ、しゃぶってよ」

 「えっ……?」

 「見えるでしょ、コレ」

 ミハイルは勃起した自分の陰茎をニコライの眼前に近づける。血管の浮いたそれの桃色の先端からは透明な液体が流れ出ている。

 「フェラして。うまくできなくてもいいから」

 「嫌ですっ!」

 叫んだニコライが腕を顔の前でクロスさせると、目を細めるミハイル。

 「もう動けるようになっちゃったの?」

 彼の言葉に、ニコライ自身も驚く。反射的に腕を動かしていたので気がつかなかった。

 彼が更に動こうとする前に、悪魔は彼の両腕を片手でまとめて掴んだ。

 魔力で強化されたその力では、鍛えられたニコライでも抵抗できない。下手に動いけば骨を折るだけだ。

 「暴れるなら拘束してあげなきゃね」

 悪魔はそう言ってベッドサイドにある小さな引き出しを開けた。

 ニコライにはそこになにがあるのか見ようとしても見えない。目の前の男が何をしているのか全く分からないままに、頭の上で彼に固定された両手に何か金属製のものが付けられた。

 手錠を付けられた、とニコライは直ぐに理解した。それはベッドの上部の木でできた柵に括られて付けられている。

 太い木ではないので折れないかと力を込めて引っ張るが、予想以上にそれは頑丈だ。

 「くっ……」

 「魔力で強化してあるから壊せないよ。さあ、フェラしてよ」

 「誰がそんなことしますか」

 ニコライが近づけられたミハイルの性器から顔を背ける。

 すると悪魔は彼の銀髪を鷲掴みにし、無理矢理顔を自分の方に向けさせた。

 「言うこと聞かないなら、君を助けに他の天使がここに来た時に後悔することになるよ?」

 「……?!どういう、意味ですか」

 「君と連絡が取れなくなれば、どうせ救援部隊が来るんだろ。そいつらが皆殺しになるか、その前に俺が君を解放するかは、今の君の態度次第ってことさ」

 「私を殺さずに解放する気があると?」

 「君の態度次第だってば。……そうだね、君を殺すっていう選択肢も無くはないよ。コーリャ?」

 「……生きることなど望んではいません」

 悪魔に完全に敗北し、性交までさせられてしまって、最早ニコライに生きて天界に帰ろうとなど思えない。しかし天使であるが故に自殺はできない。いっそ目の前の悪魔に殺されたいとすら思える。

 やや不機嫌そうな顔になるミハイル。

 「まあ、君を殺す気はないよ。仲間が大量に殺されたくなければ俺に服従することだね」

 「救援部隊全員に、あなたが勝てると?」

 「俺が勝てないと思うの?」

 「…………っ」

 「口開けて」

 自分は傷つけられても構わないが、仲間を殺されたくない。天界軍の一般兵が100人いたとしても、おそらくこの最強の悪魔には勝てないだろう。ニコライにはよくわかった。

 彼にミハイルを拒むことは最早できなくなった。逡巡した後、彼は恐る恐る口を開ける。

 ミハイルの性器が彼の口内に入ってきた。独特の臭いに顔を顰めるニコライを見下ろし、愉しげな顔をする彼。

 「歯は立てないように、少し吸って」

 ニコライが言われた通りにすると、ミハイルは腰を動かした。陰茎の先端で喉を突かれた彼は、苦しそうな顔をする。

 「んっ、ぐぅ……う!」

 「ああ、イイよ……コーリャ」

 嗤うミハイルを泣きそうな目で見つめるニコライ。呼吸がとてもしにくい。飲み込むことができなかった唾を、口の端から垂れ流すしかない。

 卑猥な水音が部屋に響く。

 天使である自分が悪魔に脱がされ、愛撫され、その体内で射精させられ、口淫までさせられている。ニコライにとっては耐え難い屈辱だ。

 「ううっ……ん」

 「はぁ、コーリャ……イクよ」

 「んんっ?!」

 射精する寸前に、ミハイルは自分の性器をニコライの口から出す。先端から出た精液はニコライの顔にかけられた。

 「やっ……」

 彼の端麗な顔に、髪に、白濁した精液が飛び散った。手が拘束されていてはそのドロドロとした液体を拭うことすらできたない。

 ミハイルが満足げな表情をしてニコライに軽く接吻する。

 「よかったよ」

 「……気持ち悪い」

 ニコライは小さくそう応えた。それを気にするでもなく、ミハイルは彼の顔に付着した精液を自分の指に僅かに絡める。

 「脚、開きなよ」

 「は?」

 ニコライが反応する間も無く、ミハイルが力の入っていなかった彼の両膝の間に自分の膝を入れ、一気に開かせた。

 次に悪魔が何をするのか予想がついたニコライは、怖くなって脚を閉じようとする。しかしその無駄な行為は悪魔を悦ばせるだけだ。

 「頭が良いのに無駄な抵抗はするんだね?コーリャ」

 そう言ってミハイルはニコライの後ろの孔に精液の付いた指を押し付ける。その冷たさに彼は体を少し仰け反らせた。

 「や、それだけはやめてくださっ……うあっ!」

 嫌がる彼の言葉も意味を成さず、ミハイルの人差し指の先が体内に侵入する。その痛みに彼は体を強張らせた。

 「い、痛っ……やだ、抜いてください……、くっ!」

 「力入れるから痛いんだよ。力を抜いて、ゆっくり呼吸して」

 ミハイルの指は尚も深くまで入ろうとしてくる。

 ニコライは少しでも苦痛を軽減させようと、彼の言う通りに力を抜いた。その瞬間、確かに痛みは和らいだが、彼の指が更に奥へ差し込まれた。

 「ううっ!や、抜いてっ……嫌です、お願いっ……」

 誰にも触られたことの無い場所に入ってくる、悪魔の指。ニコライは痛みより大きな恐怖を感じた。これ以上この悪魔に体を弄られてはおかしくなってしまいそうだ。

 だが、無慈悲にも悪魔は中指も中に挿れようとしてくる。

 「コーリャ、また力入ってる。俺は無理矢理でも君の中に挿れられるけれど、それで痛いのは君だよ」

 「挿れないでくださいっ」

 「それは無理。でも俺は今、君を傷つけたいわけじゃないんだ。力を抜いて」

 ミハイルの大きな両目がニコライの泣きそうな顔を見つめる。

 ニコライの精神はどんどん追い詰められていた。悪魔に好き勝手に体を弄られ、プライドが瓦解していく。それでもこの悪魔に従うしかないのだ。

 「く、あっ……」

 力を抜いたニコライの体内に、ミハイルの2本目の指が侵入した。関節がやや太めのミハイルの指は、彼の敏感な開口部に刺激を与える。

 ニコライの中を探るように動く2本の指。その異物感に、彼は顔を顰める。

 「う……気持ち、悪いです」

 「我慢して。力、大分抜けてきたね」

 ミハイルの2本の指は根元まで完全に入っている。そしてその指は何の意味も無く動いていたかといえば、そうでは無かった。

 体内のある一点、前立腺を指先は探り当てた。ビクン、とニコライの躰がその刺激に大きく反応する。

 「あっ……?!何、ああっ!」

 「ここだね。前立腺っていうんだよ。知ってるかな?」

 「やめて、くださいっ……んあっ」

 ミハイルに執拗に前立腺を攻め立てられるニコライ。全身を強い快感が駆け抜け、陰茎は固く勃起してきた。

 その快感すらもニコライが怖がることは、ミハイルも分かっている。

 「気持ち良いでしょ?ほら、勃ってきた」

 「んっ、何でっ……!」

 触られたのは後ろの孔だけなのに勃起してしまったことにショックを受けるニコライに、ミハイル。

 「俺、後ろだけでイっちゃったこともあるんだ。まぁ君はそこまで感じやすくはないだろうけれどね」

 さっき自分の指を体内に挿れ、嬌声を上げていたミハイルを思い出す。あれと同じにはなりたくないと、ニコライは思った。

 彼の前立腺を刺激しつつ、ミハイルは更にもう1本指を中に挿入した。

 「うん、いい感じ。かなり解れてきたね」

 「んあ、そんなこと……ないです」

 「気づいてる?もう俺の指、3本入ってるんだよ」

 「えっ?」

 前立腺への刺激で受けていた快感が大きくて、3本目が入っていたことに気づいていなかったニコライ。驚く彼に、ミハイルは言う。

 「そろそろ良さそうだね」

 そして指を体内から引き抜いた。次に何をするかなんて明白だ。

 ニコライは涙目で首を横に振る。

 「嫌ですっ、お願いですからやめてくださいっ!」

 「大丈夫、ちゃんと解したからそんなに痛くはないと思うよ」

 「そういう問題じゃありません!」

 「処女くらい、自分の命に比べれば安いもんだと思わない?」

 「あなたに犯されるくらいなら死んだ方がマシです!」

 ニコライがそう叫ぶと、ミハイルは浅く溜息を吐いた。自分の半分勃起している性器を手で軽く扱く。

 「そう言われると、尚更犯したくなる。思いっきりさ。俺を受け入れなよ、コーリャ」

 愉しんでいるのか怒っているのかわからない、笑顔のポーカーフェイス。その悪魔の美しさと恐ろしさに、ニコライは固まった。

 晒されている彼の孔にミハイルの性器の先端が押し付けられた。

 「嫌っ……」

 「痛いのが嫌なら力抜きな」

 ズッ、と容赦無くミハイルの性器がニコライの中に侵入する。指を上回る圧迫感に、ニコライは息を詰まらせた。

 「痛っ…………うっ、ああぁ……」

元々解されていたので、力を抜けば確かに痛みは少ない。しかしその異物感と自分の体内に性器が入ってくるという未知の恐怖がニコライを襲った。

 ミハイルは挿れながらニコライの唇に軽い接吻をする。

 「凄い。あんまり締め付けすぎないで」

 「無理ですっ、うぅ……」

 開口部が性器に押し広げられ、本来そこに入るべきではないものがどんどん奥へと入っていく。

 「全部入ったよ。君は俺のモノだ」

 「……そんな……」

 遂にニコライの両目に溜まっていた涙が溢れた。悪魔に犯された。完全に操(みさお)を奪われてしまった。

 悪魔の陰茎が自分の中で脈打っている。生物とは思えない程に美しい外見をした悪魔の生々しい欲望を直接感じる。気持ちが悪い。

 手でニコライの涙を拭うミハイル。

 「可愛いね、コーリャ。まさか誰も君が俺とセックスしてるだなんて思わないんだろうね」

 ズンッとミハイルがニコライの奥を突き上げ、ニコライは強く彼を締め付ける。

 「ああっ」

 「ここ突かれると、最高でしょ?」

 何度も何度もニコライの前立腺を突き上げるミハイル。腰を動かしながら天使の桜色をした唇に深く唇を重ね、舌で口内を蹂躙する。

 苦しさ以上の快感を与えられるニコライ。確実に前立腺を刺激され、屈辱もプライドも忘れてしまいそうなくらいゾクゾクして気持ちが良い。その気持ち良さが怖くもあった。

 ミハイルの唇がニコライの唇を離れ、唾液が銀色の糸を引いた。

 「コーリャの中、いいよ」

 そう囁き、彼はニコライの性器を握る。それはもう勃起し、尿道球腺液まで溢れさせている。

 「んああっ……そっちはっ…………」

 前立腺と性器を同時に刺激され、ニコライは堪らず上擦った声を上げた。

 ミハイルは腰を動かし彼の奥を突きながら器用に性器も扱く。あまりの快感に彼の腰は僅かにベッドから浮いていた。完全に無意識なのだろう。

 2人の男が上で性交しているベッドが軋む音が、男の息遣いが淫らに部屋に響く。

 彼に性的刺激を与えるミハイルの方も、絶頂が近くなっていた。

 「ああ……俺、もうイキそう」

 「…………っ、中ではやめてくださ、んああっ……」

 「やだ、コーリャの中に出したい」

 「駄目ですっ……、あ、うああっ!」

 「んっ……」

 ミハイルに亀頭を爪で刺激されたニコライが先にオーガズムに達し、その後ミハイルが彼の中で達した。

 ニコライの精液がミハイルの手に流れ落ちる。射精の衝撃と悪魔に中出しさせてしまったショックで彼の頭は朦朧とした。

 ズルリ、と悪魔の陰茎が彼の体内から抜かれた。呆然としている彼の唇に、ミハイルは幾度目かのキスを落とす。

 「よかったよ。予想以上だ、君の体は」

 そして彼はニコライの中に指を差し込んだ。さっきまで陰茎を飲み込んでいたそこは、すんなりと二本の指を受け入れる。

 「掃除しといてあげるよ」

 「…………」

 何も映さない目でミハイルの様子を見ているニコライ。そこに出された精液を掻き出されても、何も言わなかった。体だけは時頼刺激に反応した。

 2人の精液はティッシュで拭き取られ、ニコライの両手に付けられた手錠は外され、代わりに左手のみがベッドに繋がれた。

 ニコライは茫々とミハイルを見て、僅かな涙を流し続けていた。

 「暫く休んでいていいよ」

 全ての処理を終えたミハイルは、そう言って寝室から出て行ってしまった。

 薄暗い悪魔の部屋に残された天使は、静かに双眸を閉じた。






 「ねぇ、飲んでよ。何も入れてないってば」

 「…………」

 ニコライはシャツ1枚だけの姿で、両手両足を縛られ、手は頭の上でベッドに固定されている。ベッドの上で広がっている、乱れた長い銀髪。

 彼の目の前にさしだされている珈琲の入ったマグカップ。その良い香りが寝室には充満している。

 マグカップを持っているミハイルは、大きな瞳でニコライの顔を覗き込んでいる。

 「喉渇いてるんでしょ?」

 「…………」

 「ご飯食べたくないなら別にいいけれどさ、飲み物は飲んだほうがいいと思うなぁ」

 「…………」

 「……あ、もしかしてブラック飲めない?」

 「……っ、そういうわけではっ」

 「え?そうなの?」

 「悪魔から施しなど受けません!」

 「もう、意地っ張りなんだから」

 ミハイルはそう言って溜息を吐く。

 ニコライはミハイルとの性交の後、直ぐに眠ってしまい、目覚めたらもう辺りは真っ暗になっていた。起きてすぐ隣にいたのは、珈琲が入ったマグカップを手に持ったミハイルだったのだ。

 「高い豆挽いて淹れたから、美味しいよー。この珈琲」

 ミハイルはその珈琲を一口飲んだ。

 「うん、美味しい。コーリャがどうしても何にも飲みたくないっていうなら、魔力を使って直接君の体に水分を送るって方法があるけれど、そっちの方がいい?」

 「嫌です」

 魔力をこれ以上感じなければならないなど、天使のニコライにとっては酷い苦痛だ。彼は目の前で薄笑いを浮かべている悪魔を睨みつけた。

 ニコライの口元にマグカップを近づけるミハイル。

 「嫌なら飲みなよ」

 「くっ……悪魔……」

 苦々しい顔をしながらも、ニコライはその珈琲を飲んだ。豊かな芳香が口の中に広がり、続いて苦味を強く感じた。

 ゆっくりと時間をかけて、そのマグカップの中に入っていた全ての珈琲を彼の喉に流し込んだミハイル。険しい表情のニコライに笑いかける。

 マグカップをベッドサイドに起き、彼はニコライの首にかかっている認識票を手に取った。

 「君、相当強いんでしょ?」

 「……さあ」

 「君だけで一般兵士の100人分くらいになる。違うかな?」

 「…………」

 ニコライは確かに、そう言われることがある。しかし神通力が使えないこの家では、彼にまともな抵抗もできない。

 ミハイルの指に弄ばれる認識票は、部屋の蛍光灯の下でキラキラと輝いた。

 「軍では皆から信頼される。でも人と関わるのが苦手な君は、皆と距離を置こうとしてしまうんだ。そして、自分を孤高の存在にしてしまう。そうでしょ?」

 言いながら認識票を手放し、胸元に手を這わせるミハイルから、ニコライは嫌そうに目を反らす。

 「勝手な妄想は止めてください」

 「確かに勝手な妄想だけれど、当たってるでしょ」

 「……私に、触らないでください」

 「まだそんなこと言うの?もうセックスまでしちゃったのに。随分気持ち良さそうだったじゃない」

 「…………っ」

 何も言わないニコライの顔に、顔を近づけるミハイル。首筋に1つ、口唇を落とす。

 「俺の話をしてあげるよ」

 ミハイルは、ニコライの鎖骨の辺りを舐めた。手を握りしめるニコライ。

 「聞かせてくれなんて言ってません」

 「俺はね、小さい頃に両親を殺したんだ。っていっても、母親の方は殺すつもりなかったけれどね」

 ニコライの返答は無視し、手を彼の胸と腹に行き来させるミハイル。

 「俺は母親が大好きだった。愛していた。でも母親が愛していたのは、父親だったことに俺は気づいたんだ。それで俺は、父親が憎くなったよ。だから殺した。その時から俺は父親より強かったからね」

 ミハイルの唇は、ニコライの首筋に口づけを繰り返す。

 「母親は父親を殺した俺を殴ろうとした。俺はそれを防ごうとした。それだけだったけれど、その頃手加減の仕方が分からなかった俺は、母親を殺してしまった」

 そしてニコライと軽く唇を重ねたミハイル。

 「これを思い返していてね……、気づいた。君がどうしてこんなに魅力的に見えるのか。君は俺の母親に似ている」

 ミハイルの話に、眉間に皺を寄せるニコライ。

 「私はあなたの母親代わりですか?女ですらない私は」

 「……もし君が女だったら、母親そのものだ。きっと俺は正気を保ってなんていられなかった」

 「もう狂ってるじゃありませんか……あなた」

 「ああ、そうかもね。魔界を捨てて逃げた時、両親の死体と一緒に正気も置いてきたよ」

 ミハイルはそう言って、その手をニコライの下半身へと伸ばした。性器はまだ柔らかい。

 「ここに兵士は来るんだろうから、明日君を解放してあげてもいい」

 悪魔の手は更に奥の、開口部を触る。

 「やっ……」

 「面倒な事は嫌いだからね。でもね、コーリャ。だからといって俺から逃れられると思わない方がいい」

 「何を言って……うっ!」

 指先が僅かに孔の中に侵入する。

 「昼間ヤッたばかりなのにこんなにキツい」

 「や、お止めなさい……あっ……」

 「まだまだ、たっぷり愛してあげるよ」

 ズッ、とミハイルの指は一気に奥まで入り込んだ。

 痛みに呻くニコライ。彼を触る悪魔の手つきは昼間よりも乱暴に見える。

 悪魔は自分の腰に手をやり、ズボンに挟んでいたらしい何かを取った。

 「ほら、これ何だかわかる?」

 翡翠の瞳の瞳が嗤う。ニコライに見せつけられたのは1丁の銃。

 「…………っ!」

 リボルバータイプ、ダブルアクションの拳銃。それはその悪魔を撃とうとしたニコライの愛銃――彼がファンタジア(幻想曲)と呼んでいるものだ。

 先ほど居間に落としたままにしたので、拾ってきたのだろう。

 「その銃に触らないでください」

 幾人もの悪魔を共に殺してきた相棒に手を伸ばそうとした。しかし体を拘束された状態では、どんなにもがいてもそれを取り返すことはできない。動こうとしても、ロープの締め付けに皮膚が傷つくばかりだ。

 無駄に動こうとするニコライを、楽しげに嗤(わら)う悪魔。

 「これで君は俺を撃とうとした。本当にできると思ってたの?」

 悪魔は銃を反対に持ち、グリップで天使の顎を押し上げる。弾は入っていないが、僅かに残る火薬の匂いが嗅覚を刺激する。

 「それは悪魔が触るものではありません」

 ニコライがそう言うと、ミハイルは彼に口づけした。彼は顔を動かそうとするが、ミハイルの手がそれを阻止する。

 唇を離し、彼の下唇を軽く舐めたミハイル。手に持っていたファンタジアを彼の首筋に押し付ける。

 ニコライはいつも共に戦ってきた拳銃の冷たさを感じさせられる。

 「その銃は私のものです。離してください」

 「そんなにコレが大切?」

 男の艶かしい唇が紡ぐ言葉。

 「それじゃあ、俺よりもこの銃の方がコーリャは感じるのかな?」

 耳元でそう囁かれたが、ニコライにはその意味が分からなかった。しかし、銃のグリップを顎から首筋を伝ってゆっくりと胸の方に下ろされていき、理解した。

 固い銃のその感覚に、この悪魔がしようとしている行為に、ニコライは背筋が寒くなる。

 「やめて、ください」

 「今からコーリャが大好きなコレで遊ぼうか?」

 それはあまりにも、信じがたい言葉だった。

 ミハイルの指がニコライの中で蠢く。開口部を押し広げるように、容赦ない動き。

 「さっき俺のが入ってたからね、流石にすぐ慣れる」

 昼間、悪魔の陰茎が自分の中に入っていたーーその事実にゾッとするニコライ。今、指で弄られているそこは、もう痛みは感じていない。厭な異物感だけだ。

 乱暴に指が引き抜かれ、銃口がそこに押し当てられた。

 「嫌だっ……」

 縛られた両手両足を動かそうともがくニコライの太腿をミハイルは掴み、無理矢理銃口を孔に押し込んだ。

 「あああっ!!」

 冷たく硬い金属が体内に挿入される。それは陰茎よりもやや細いが、フロントサイトの突起が押し込まれるときはやや痛みを感じる。さらにエジェクター・ロッドの部分まで入り込み、開口部は押し広げられる。あまり丁寧に慣らしていないこともあり、裂けるのではないかと思うほどの痛みだった。

 「痛、ああぁ……」

 「君の大好きなのが中に入ってるよ?」

 ミハイルの指が溢れ出したニコライの涙を拭う。彼の笑顔がニコライの潤んだ瞳の中で揺れた。

 銃口が肉壁をグリグリと刺激する。銃の凹凸は容赦無く痛みを与える。快感は無い、ただニコライを苦しめるだけの刺激。呻く彼をミハイルは嬉しそうに見つめる。

 「君がいつも悪魔を殺してる銃はどう?痛いかな?」

 「ぐ、うぅ……。あなたなんて、死んでしまえばいい」

 「君がコレで殺すの失敗しちゃったんじゃない」

 銃をギリギリまで抜き、一気に奥まで突っ込むミハイル。彼を睨みつけていたニコライの美女桜の双眸が揺らいだ。

 「うぐっ!」

 「その顔最高。ねぇ、気持ちよくしてほしい?それともこのまま痛い方がいい?」

 「……ファンタジアを抜いて、ください」

 ニコライが言った直後、銃口が前立腺を強く突いた。唐突な快感が腰を貫く。

 「んああっ」

 「気持ちいいでしょ?この方がいいかな?」

 「嫌ですっ……」

 愛銃で快感を感じてしまうなんて嫌だ。それなら痛い方がまだ受け入れられるし、強い快感より痛みの方がよほど慣れた感覚だ。

 しかし、悪魔は再び彼の前立腺を銃で突く。

 「あっ」

 「嫌って言われるとやりたくなっちゃうよね」

 「くっ……死ねっ!」

 子供のようなことを言う悪魔を、ニコライは涙目で睨みつける。しかし前立腺を刺激されながら手で性器を擦られると気持ちよさに睨みつける力も弱くなる。

 全く反応していなかったニコライの性器は徐々に硬くなり、その事実に彼は悲しくなった。肛門に銃を挿れられて勃起するなんて考えられない。

 「う……もう、止めてください」

 「嫌。俺よりまだ銃の方がいいんじないの?」

 「んっ、あ、どっちも……嫌ですっ」

 「そう?」

 「あああっ!」

 突然、銃が前立腺の更に奥を突いた。強い射精感を与えられ、ニコライは体を仰け反らせて喘いだ。

 「何、や、そこ……んあっ!」

 「当たった?ここ、何だかわかる?」

 今まで体験したこともない強い快感に喘ぐニコライを楽しげに見るミハイル。その手に握られた彼の性器は完全に勃起している。

 「嫌です、お願い……ああ!やめてくださいっ」

 「凄く気持ち良いでしょ?精嚢だよ、ここ」

 ミハイルは銃の先で直腸越しに精嚢を刺激しているのだ。硬い金属での刺激は陰茎でのそれよりも的確で強いだろう。

 自尊心が高く崇高な男が銃を挿れられて快感に喘ぐ様は、ミハイルを興奮させた。さっきまで自分を睨みつけていた両目は快感に濡れている。無意識だろうが、浅ましくも腰をベッドから僅かに浮かせている。この男を更に傷つけ、自尊心を瓦解させたくて仕方ない。

 ミハイルはニコライの精嚢を刺激するのを止めた。

 少し息の上がったニコライは、漸く止んだ快感に安心しつつも、もっと刺激して欲しくなる。体が刺激を求めている。それがどれほど淫らで異常なことか分かっていつつも、物欲しげにミハイルの目を見てしまう。

 そんな彼にミハイルは微笑んだ。

 「どうして欲しいの?コーリャ」

 「…………っ」

 悪魔にもっと奥を突いて射精させて欲しいなどと言えるほどニコライの自尊心は低くない。ただ、悪魔の笑顔を見つめた。

 ミハイルが彼の性器を握る力を強めると、尿道球腺液が先端から溢れる。

 「んっ」

 「どうして欲しいか言ってくれたらその通りにするんだけれど、言えないならこのままにするよ」

 「う……」

 「言ってごらんよ。『イかせて』って。それだけでいいよ」

 ニコライに簡単に言えはしない。分かっていて彼は言っているのだ。

 無言で彼を見るだけのニコライに、彼は軽く溜息を吐く。しかし楽しげに、ニコライの手足のロープを解き始めた。

 「な、に?」

 「拘束されててもされてなくても同じでしょ」

 ロープの解かれた手足には少し擦り傷が付いていた。ミハイルは拘束の解かれたニコライに言う。

 「言えないなら自分でやりなよ」

 「は……?」

 ミハイルはニコライに銃口が孔に入ったままの銃のグリップを握らせる。

 「どこを突けばいいか分かってるんでしょ。上は俺がやってあげるよ」

 悪魔はニコライに自分で精嚢を刺激して射精しろと言っているのだ。

 そんな淫猥な行為、できるはずがない。ニコライはそう思ったが、手は銃のグリップを握っていた。早くこれで奥を突いてイってしまいたい。体は貪婪にそう叫んでいた。

 「……ああっ」

 恐る恐るニコライの手が銃で自分の体の奥を突き、ミハイルが手で彼の性器を刺激した。先程と同じ精嚢を直腸越しに刺激すると、快感が下腹部を突き抜ける。

 愛銃を自分の欲望を満たす道具にしてしまう。悪魔の思うがままの行動をしてしまう。そんなことを意識の外に追いやり、自由になった手で快感を貪った。

 自尊心を完全に無視して、ただ欲望に忠実になる。その気持ちよさをニコライは知ってしまった。

 銃で奥を突き上げる手が止まらない。たまらなく気持ちいい。

 「あっ、んあ……!」

 「気持ちいいでしょ?コーリャ」

 「っは、イイっ……」

 ニコライの左手はミハイルの白いシャツを掴んだ。自由になった脚を左右に開き、銃で自分の奥を突いて喘ぐ彼の姿は、普段の崇高な彼からは考えられない程に浅ましく淫らだ。恐らく本来彼はとても素直な性格なのだろう。

 目の前の天使を見ていて、ミハイルの性器も下着の中でどんどん張り詰めていく。この天使は自ら、こちらに銃が出し入れされる開口部がよく見える体制をとっているのだ。

 「……っ。ほら、イきなよ」

 「あああんっ!!」

 大きく嬌声を上げ、オーガズムに達したニコライ。一瞬失神したように思ったが、白くなった視界は直ぐに戻ってきた。

 今までにこんなに強烈なオーガズムは体験したことはない。躰全体にビリビリと快感が響く。溢れ出る精液に勢いは無く、トロトロとミハイルの手に流れ落ちた。射精後も続く快感に、彼は放心して茫と目の前の悪魔を眺めた。

 ミハイルがニコライの中から拳銃を引き抜く。その凹凸による開口部への刺激だけで、射精したばかりのニコライの躰は反応した。

 「あっ……」

 「コーリャ。もう俺、限界だよ」

 そう言ってミハイルは銃を枕元に置き、ニコライの躰を反転させた。射精後の高揚感でよく状況が飲み込めないニコライは、彼にされるがままに腰を上げさせられ、四つん這いに近い状態になる。肘はベッドに付けたままだ。

 ミハイルからは、銃を中から抜かれヒクついているニコライの孔がよく見える。まるで早く挿れてくれと誘っているようだ。

 ズボンのファスナーを下ろし、既に固くなって挿入の準備ができている陰茎を下着から出すミハイル。

 「挿れるよ」

 「え?……ああっ!」

 ミハイルの勃起した陰茎がニコライの後ろの孔へと侵入させられた。一気に奥まで挿れられ、ニコライは驚く。

 先ほどまで拳銃を挿れていた孔は容易にミハイルの陰茎を飲み込んでしまう。銃とは違う、熱く脈打つ棒が彼の奥を突き上げる。

 「あっ、んあ!」

 「君がこんなにエロくなるなんて思わなかったよ」

 ミハイルはニコライの耳元でそう囁きながら彼の体内に性器を出し入れする。

 前立腺や精嚢を突かれていたわけではないが、彼にはその感覚が痛みなのか快感なのかもうわからないし、ミハイルに言われた言葉もほとんど理解できなかった。

 ミハイルに突き上げられるだけのニコライ。躰が熱くて、何も考えられない。いつまでも先程の射精感を引きずる。

 「っく、あぁ……」

 「イイよ、コーリャ。君の中とっても熱くて気持ちいい」

 ピストン運動が速くなる。ミハイルはニコライの躰のことは考えず、欲望のまに激しく彼を突く。すると直ぐに絶頂は近くなった。

 ミハイルはニコライの中から性器を抜き、彼を仰向けにしてその白い胸元に射精した。

 自分の胸に落ちる白くドロドロとした生暖かい液体。ニコライはその様子を放心したままで眺めた。何かを思うことすらも面倒だったが、自然と両目から涙が流れていた。

 ミハイルは射精した後、ニコライの唇に軽くキスをした。

 「疲れたかな?眠ってもいいよ」

 「…………」

 ニコライは静かに瞳を閉じた。彼の銀髪を撫でたミハイルは、その瞼に優しく唇を落とした。

 「おやすみコーリャ」

 気絶したかのように直ぐに深い眠りについたニコライ。ミハイルはテイッシュで彼の躰に付着した涙と精液を拭う。上掛けをニコライに被せ、拳銃を手にとって部屋を出た。

 さっきまでの熱がミハイルの躰からだんだん引いていく。洗面台で蛇口を捻り、冷たい水で拳銃を洗った。

 この拳銃であの天使は自分を撃とうとした。この拳銃を下の口に咥えてあの天使は快感に喘いだ。思い出すだけでまた甘い熱が疼きそうで、ミハイルはその水に濡れる鉄の冷たさに意識を戻す。

 水を止めて丁寧にタオルで拳銃を拭き、天使の眠る寝室に戻ったミハイル。拳銃は枕元に置いて、天使と共に上掛けの中に入る。

 隣に眠る男の躰が、温かかった。






 朝日が部屋に差し込む中、目を覚ましたニコライは目の前の光景に驚いた。

 自分の目と鼻の先に、端正で美しいミハイルの顔があった。ニコライは直ぐにベッドから抜け出そうとしたが、彼に抱き締められていて抜け出せない。どうやら彼は目を瞑っているが寝てはいないようだ。

 ニコライは自分がシャツ1枚しか着ていなくて、ちゃんと服を着ているのはミハイルだけだということにも気づく。こんなにも無防備な姿をこの悪魔に晒していたのか。彼の顔を見つめてどうしようかと思っていると、彼はゆっくり両目を開けた。

 「おはよう、コーリャ」

 「……離してくれませんか」

 「もうちょっとこうしてたい」

 テノールの甘い声。子供のように無邪気な若菜色の瞳。何故か彼のその態度には抵抗し難くなってしまう。

 「…………」

 しかしこの男は自分を犯した悪魔だ。ニコライはそう思い、そして昨夜の記憶が蘇る。自分が何をしたのか徐々に記憶が鮮明になり、今すぐ消えてしまいたいほど恥ずかしくなった。この悪魔の前で、自分の中を拳銃で突いて快感によがっていた。

 何故あんなことができたのか、今ではよくわからない。自分の中にあんなにも強い性欲があったなんて知らなかった。誰かと性交をしたいと思ったことすら無いというのに。

 ニコライの瞳を覗き込んでいるミハイル。

 「何考えてるの?ニコライ」

 「な、何も」

 「嘘。昨日の夜のこと考えてた」

 「…………っ」

 「気持ち良かったんでしょ?」

 ミハイルの左手がニコライの背中から下に移動し、尻を撫でた。その手つきにゾッとするニコライ。

 「は、離してくださいっ」

 腕の中で身じろぎするニコライをミハイルは抱きしめる。

 「何にもしないよ」

 彼はそう言ってニコライの胸に顔を埋めた。

 本当にそれ以上何もしないでニコライを抱くミハイル。ニコライは諦めて大人しく彼に抱かれながら横目で部屋にある掛時計を一瞥した。午前8時30分。天界軍基地の起床時間は既に過ぎており、もう活動が始まっている時間だ。

 救援部隊はここ、人間界に下りているだろう。しかし目隠しの術がかかったこの山は簡単に見つけられることはないはずだ。ニコライですら破るのに半日かかった術。一般兵士ならばさらにその倍以上の時間は必要だろう。

 ニコライの胸から顔を離して彼を見上げるミハイル。

 「天使がさ、ここの山の近くにいるんだ。20人くらい」

 突然、心を読まれたかのように彼にそう言われ、ニコライは目を見開いた。

 「救援部隊……ですか?」

 「そうなんじゃない?そう簡単に俺の目隠しは破られないと思うけれど、明日にはバレるかもね」

 「どうするんです?彼らが来る前に私を殺しますか」

 「さぁね」

 他人事のように返事をするミハイルに、口を噤んだニコライ。おそらくこの悪魔は本当は何か考えているのだ。その考え全くを見抜けないのが悔しい。

 「ねぇ、なんでコーリャは特務曹長なの?」

 「はい?」

 唐突なミハイル質問に、ニコライは片眉を上げる。ミハイルは本当に不思議そうに聞いてくる。

 「だってそんなに強くて頭もいいのに少尉ですらないなんて、おかしいじゃない。いつから軍に入ってたの?」

 「……6年前からですが……階級なんてそんなもの、どうだっていいでしょう」

 「そうかな?」

 「少なくともあなたには関係ありません」

 「冷たいなぁ」

 ミハイルからの質問よりも、救援部隊のことの方が余程気になっているニコライ。

 救援部隊は20人程度だとミハイルは言っていた。誰が来ているのだろう。自分がここに来るのを止めようとしてくれたレオや、彼の親友のディーマはどうしているだろうか。特にレオは自分を心配しているかも知れない。救援部隊にいるのかも知れない。

 レオには救援部隊にいて欲しく無い。確実にこの最強の悪魔には勝てないし、レオが殺されて自分が生かされるなどということがあっては本当に嫌だ。

 基地の天使にはもう顔向けできない。悪魔と性交したこの躰を再び天界に戻すこと自体を汚らわしく思う。

 幼なじみであり自分の唯一の親友のレオはーー自分が唯一心を開ける彼は、こんな汚れた自分でも受け入れてくれるだろうか。いつも通り接してくれるのだろうか。

 他人のことはどうでもいいと思っていた。しかし今、これまでに無いほど危機的な状況に陥り、レオのことだけは考えると切なくなる。

 「コーリャ」

 ミハイルが黙っていたニコライの愛称を口にした。いつもより少し低いトーンの声に、ニコライはその悪魔を見下ろした。悪魔は彼を睨むようにこちらを見上げていた。

 「今、何考えてた?」

 今までとは違う鋭い彼の目つきに、ニコライは戦慄した。

 「……あなたに話す義務はありません」

 そう答えたニコライに、ミハイルは彼を抱くのを止めて体を起こす。そして彼を仰向けにし、その腹の上に馬乗りになった。

 「誰か、俺意外の奴こと考えてたでしょ」

 「誰のことを考えてようと私の自由でしょう」

 恐怖を押し殺してそう応えたニコライ。ミハイルは彼に顔を近付け、その美女桜色の両目を覗き込む。

 「誰のこと考えてたの?俺といるのに他の奴のこと考えるなんて、最悪だ」

 「あなたには関係ない」

 ニコライが言った直後、ミハイルは彼の顔の左側面を平手で殴った。高い音が寝室に響く。

 「俺だけを見てよ。君を愛してるんだ。君も俺を愛して」

 「……っ、ふざけないで、ください」

 尚も反抗的な言葉を返したニコライ。頬ではなく顎骨のあたりを殴られたので、痛みはあるが際立って腫れることはない。ミハイルはニコライの顔には傷を付けないのだ。

 「殴りたければ殴りなさい。私はあなたのことなんて絶対に愛しませんよ」

 反抗的なニコライの態度に、何を思ったのか頬を緩めたミハイル。

 「素敵な目だね、コーリャ。生きてるって感じがする」

 そう言って、赤い唇をニコライの唇に重ねた。優しい口付けだった。

 「少し面倒くさいことをしてでも、君が欲しい」

 「面倒くさいこと?」

 ニコライが聞き返したが、ミハイルはそれについては答える気がなさそうだ。ただ笑顔を返した。

 「ご飯、食べようか?」

 そしてミハイルは、ニコライに手錠を付けた。






 窓から差す白い月明かりが、2人の天使と悪魔を照らす。

 ニコライは腕を背中側で紐で縛られ、騎乗位での性交をミハイルにさせられていた。

 「そう、そのまま腰を下ろして」

 「や、ううっ……もう、無理ですっ……!」

 首を横に降るニコライの陰茎は勃起していない。苦痛しか感じていないのだ。

 その白い躰のあちこちに切り傷があった。紅い傷口から垂れた血液の幾らかは雫となってミハイルの躰に落ちる。

 彼を上に跨らせているミハイルは、彼の腰に手をやった。

 「それじゃあ、こうしようか?」

 「え、あっ……ああっ! うぁあっ!」

 ミハイルがニコライの中に性器を入れたまま正常位に体勢を変えた。

 ベッドに寝かせられたニコライは涙の溜まった目でミハイルを見上げる。

 ミハイルの片手に握られているナイフ。それはニコライが彼を刺そうとした戦闘用のもので、今は彼がニコライを傷付けているナイフだ。

 ニコライを凌辱しながらナイフで切りつけるミハイル。

 「君はこれで俺を殺そうとした。無駄なのにね」

 「あっ、う……」

 ニコライの腹部に刃を立てる。刃を滑らせたところから血が溢れる。

 「ぐっ……!」

 「切る度に締め付けて、堪らないね」

 溢れた血を、ミハイルの舌が舐め取る。

 「美味しい……。もっと、傷つけたくなるよ、コーリャ」

 今度は刃が腕に当て行われた。

 「ねえ、ミーシャって呼んでよ。俺のこと」

 「……誰が、そんなこと……! あ、ああ!」

 一際深く刃が腕を切りつけ、血液が溢れだす。同時にミハイルはニコライの奥を突き上げた。

 痛みに悶絶するニコライ。彼に強く性器を締め付けられたミハイルも僅かに顔を歪める。

 「くっ……!凄いね、コーリャ。堪らなく気持ちいいよ」

 「ううっ……く、ああ……」

 美女桜色の双眸から涙を流すニコライ。今まで自分が使ってきたナイフの刃が冷たい。それが皮膚に触れるたびに痛みの箇所は増えていく。

 裸の躰も冷えていくように感じられ、ミハイルとの接合部だけが矢鱈に熱く思える。暫くオーガズムに達しておらず、勃起状態のままのミハイルの陰茎はニコライの中で固く熱を持っている。何故彼はこのようなことをして勃起していられるのか、ニコライにはその神経が理解できない。

 天使の長い銀髪を、ミハイルは片手で撫でた。

 「愛しているよ、コーリャ。犯し続けて、俺がいない生活なんて忘れさせてやりたい……」

 ナイフがニコライの掌に浅い傷を生み出し、同時にミハイルの陰茎が彼の中を突いた。

 「うぁっ…………もう、殺してください……、今すぐに」

 「そのお願い事は、聞けないかな」

 残酷なミハイルの言動。

 1度溢れだした涙を止めることができなくなるニコライ。昼間は何もされなかったが、夕方になってから悪魔の暴行は始まった。もう幾度目になるかわからない性交。悪魔に犯され、傷つけられ、今はその存在しか感じられず、世界に2人きりかのようだ。このまま傷つけられてこの悪魔に殺されてしまえばどんなに楽だろう。

 「私に……生きる意味なんてない」

 一言、ニコライがそう言うと、ミハイルが僅かに驚いた顔をした。そして彼は、ニコライを米袋か何かのようにひっくり返した。

 白く広い背中。その肩甲骨の辺りにある一対の赤く長細い痣ーー翼痕(よくこん)。天使が大昔、そこに白い翼を持っていた証。

 悪魔はニコライの翼痕に手を這わせ、彼の耳元に口を近づける。

 「天使って言うのは、理解できないよ。天使が悪魔を理解できないのと同じでね」

 ナイフが、ニコライの肩の辺りを滑る。

 「く……うっ!」

 「どうして天使は人間界の悪魔を殺したがるんだろうね? 今は停戦中なのに、何のために殺すんだろう」

 傷口を舐めるミハイルの舌。その味を楽しんでいるかのようだ。

 「何で天使と悪魔は戦争なんてするんだろう、ね? 同じ翼を失った者同士……戦ってなきゃいられないのかな? 平和はいつも壊される」

 「争いは……なくならない……」

 「え?」

 「天使と悪魔は似ていますが、違うんです……。理解できないんです。だから戦う」

 先程つけた傷の上を、再び刃が滑った。ニコライの中をミハイルが動く。

 「ううっ! ……わからない、怖い、気持ち悪いと……、あ、くうっ…………戦ってはたくさん殺され、恨みが募り、また戦うのです……」

 「お互いが理解できれば、戦いはなくなるのかな。悲しみの連鎖は、なくなる?」

 「……そんな日が来るとは思えません、うあっ!嫌、もう止めてください……!」

 苦痛に歪められるニコライの表情。ミハイルは彼の顔を自分の方に向けさせ、その唇に接吻した。

 「俺は君に暗示をかける」

 ミハイルの白い手が、ニコライの顔の輪郭をなぞる。

 「君は明日になったら俺の顔を忘れるよ」

 そしてもう1度唇を重ね、ニコライとしっかり目を合わせる。

 「でもね、またこの両目を見たら、君は俺の顔を思い出すんだ」

 狂気と無邪気さをあわせ持つ若菜色の瞳。それはあまりにも美しく、それでいて恐ろしい。

 「俺を満足させたら、眠るんだ。コーリャ……」

 「うっ、んああっ……!痛っ、嫌ぁ……うあぁっ!」

 狂気に満ちた長い夜は、まだ続いた。


[ 3/12 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]

top
[しおりを挟む]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -