部屋を出ていったソラウの足音が完全に聞こえなくなるのを待ってから、名前は部屋の片隅に備え付けられていたごみ箱に近付き、黙ってそこに片手を突っ込んだ。

部屋を出ていく前にソラウが興味も躊躇いもなくごみ箱に放り込んでいった紙袋を拾い上げ、そこについた埃をぱたぱたと払いのける。それから名前は先程まで無表情を繕っていた顔を辛そうに歪めた。

事の一部始終はランサーの見守るところでもあった。先程まで霊体化して事の成り行きを見守っていた彼は、今は実体化して黙って名前の後ろに佇んでいる。ただ、居ても立っても居られなくなり実体化して出てきたはいいものの、ランサーはまだ名前の背中にかける言葉を考えあぐねていた。

名前もまた拾い上げた紙袋の処遇について考えを巡らせているところだった。なんとも言えない想いに駆り立てられ、衝動的にそれを拾い上げてみたはいいものの、ソラウの代わりに自分がこれを拝借するなどもってのほかであるし、だからといってソラウに付き返すこともできない。

ただ、外出途中で偶然見つけたからと言ってケイネスがソラウに手渡していたその中身が、実はお洒落なアンティークショップでそれなりの時間をかけて見繕われたものであることを、名前は知っている。

「…不毛ですね。」

思考を中断して、先に沈黙を破ったのは名前だった。視線は下に落としたまま、表情は相変わらず辛そうに歪めたままで、独り言のように名前が呟く。

ソラウを愛しているケイネスも、そんなケイネスを慕っている名前自身も、不毛だ。

「ええ、とても。」

ランサーも短く同意した。

ソラウを愛しているケイネスも、ケイネスを慕っている名前も、そして何より、名前を好いているランサー自身も、黒子に魅了されているソラウも。

掌の上で持て余していた紙袋を、名前は結局ごみ箱に捨てた。


不毛ですねやっぱり


(どこまで行っても、何もない。)