「…どうしたの?」

物音に気がついて玄関に様子を見に来た名前が目撃したのは、苦笑いを浮かべるフォルテとフォルテに支えられながら帰って来たシャムロックの姿だった。

シャムロックの顔は真っ赤で、その足取りは覚束ない。フォルテに支えられて立っているのがやっと、という感じである。そのうえ二人からほのかに香ってきた香りに名前はそっと眉根を寄せた。

「…お酒くさい。」

「ん?…ああ、ちょっとばかしひっかけてきたからな。」

名前が不審そうな瞳で二人を眺めている間に、フォルテは慣れた手つきで肩に担いでいたシャムロックの腕を解くと彼を玄関の脇に座らせた。

「こんな酔いつぶれるまで飲んでたわけ?」

「いいや、シャムロックのやつなんか飲んだのは一杯だけだぜ?…まあ、こいつは昔から酒に弱いんだけどな。」

「…ちょっと、弱いって分かってるんなら飲ませないでよ。」

「いやあ〜、少しは強くなったんじゃないかと思ってな〜。」

冷ややかな視線を向ける名前にフォルテは苦笑いを返すと、水でも持ってくるわ、と言い残して台所の方に消えていった。

「…シャムロック、」

フォルテを横目で見送ってから名前が彼の脇にしゃがみ込むと、シャムロックのぼうっとした目が名前の方を向いた。彼の目はおぼろげで、顔は耳まで真っ赤だ。

…そういえば、鞄の中に二日酔い防止ドリンクがあったような。

そう思い立って名前が立ち上がろうとすると、急に後ろから腕を掴まれ、酔っ払いとは思えない力でぐいと引っ張られた。

「きゃっ!」

どかりと尻もちをついたところに後ろから両腕が回ってきて、ほのかなアルコールの香りに包まれる。彼の前髪が首元をくすぐった。

「ちょっと、シャムロック!」

「……ん…、名前、」

回された腕の力が思いのほか強かったせいか、藻掻いてみてもべしべしと腕を叩いてみてもまるで反応がない。その上そうしているうちに背中の方から寝息が聞こえてきて、名前は思わず頭を抱えたくなった。

寝ている。だがこの抱枕を抱きしめる体勢で眠りにつかれても困る。

しかも間の悪いことにちょうどそこに水の入ったコップを持ったフォルテが現れたものだから、名前は今度こそ真剣に頭を抱えた。彼のにやにやした表情が痛い。

「…あー、もしかして邪魔したか?」

「邪魔してないっ!」

彼の言葉を名前はすぐさま否定したが、彼に反抗した顔がきっと真っ赤だったに違いないことは自分でも自覚できていた。


あなたは覚えていますか


(きっと覚えていないだろうことは翌日フォルテにからかわれて青ざめる彼の顔を見れば分かったけれど。)