第六悔

Non omne quod licet honestum est.

××

イタリア、とある病院にて、二人の少年が深刻そうな顔で話し込んでいた



「……おいフィディオ…本当、なんだな」


「………あぁ」


白く清潔な病院の通路の奥

そこで2人の少年が通路の端で何かを話し合っている

片方の少年の顔は真っ青で、片方の少年の顔は怒りに満ちている


「……くそっ!なんで、なんで何時も上手くいかねぇんだよ!!」


感情を抑えきれなくなった少年が傍らの壁を思いっきり叩く

通路全体に響き渡るような衝撃音

だけども、幸いにかここの病棟には彼等以外誰も居なかった


「………キャプテンは、彼女をライオコット島に連れて行くって」


「っ、なんでだよ!!あそこに行ってもアイツは辛い思いしか、「わかってるよ!!」


少年の言葉を遮る様に少年が荒々しく叫ぶ

口から零れ落ちる息切れの音が虚しく空間に吸い込まれる



「わかって、るんだ……」


顔を俯かせた少年を見て、一方の少年はばつが悪そうにに顔を背けた

静寂が響く廊下には、遠くから聞こえてくる無機質な機械の音が嫌に響く

窓の外はあの夏の日のように青い空の元太陽が輝いて、今日も暑くなるだろう

そう、あの夏の日のように


「……準決勝は何時だ」


それから何時間、いや実際には何分も掛かっていないのだろう

体感時間が嫌に早く感じる

少年はその時間を嫌というほど感じ、そしてやっと口を開いた


「…五日後、決勝戦は準決勝から三日後だ」


「……そうか」


そう言って2人の少年は1つの病室の扉を見つめる

愛しそうに、けれどどこか悲しそうに

その扉の向こう側に思いをはせる


「……絶対に、勝つぞ」


「………あぁ」


窓の外ではまだ太陽がギラギラと輝いている

遠くから、踏み切りの音が静かに聞こえていた

××

フィディオside


「本部からの派遣?」


夜、もう少しで寝る時間になるという時に旧友であるマークから電話が掛かってきた

生真面目な彼がこんな時間に電話するだなんて、何かあったのかと心配して電話にでてみると何とも気の抜けるような内容だった

また発作が起きたとか、ストレスで胃に穴が開きそうだとかそんな内容だと思っていた分、拍子抜けすぎて我慢していた欠伸が漏れてしまう


「……今くだらないって思っただろ」


「え?何のことかな?」


こういうときだけ勘が鋭い

だけどこういう時は知らぬ存ぜぬが一番だと昔から言われてきた

なのでそうしてみる


「…まぁ、いいが……それよりもフィディオ達の所には来てないのか?」


そう言われた最近あったことを思い出してみる

だけど監督から本部がどうちゃらこうちゃらの話など聞いた事が無いし

第一それらしい人物など一度も見ていない


「いや、ないけど……」


「そうか、フィディオの方はまだなのか」


そして少しの沈黙

マークの事だ、また考え事のしすぎで胃に穴が開きそうになるんだろうな……

いい加減このパターンに慣れてきてしまった


「で、マークが態々こんな時間帯に電話してくるんだから……何かあったんだよね?」


「……あった、というよりは……なんだか雰囲気が不気味なんだ」


まさかマークの口からそんな言葉でるとは

柄にも無く驚いてしまう

あのお人よしのマークが不気味だという人物……マークには悪いけど少しだけ興味が湧いてしまう


「不気味?」


「あぁ……愛奈という名前からして日本人っぽいんだけど……こう、ずっと無表情なんだ…会話も事務的なことしかしないし」


それは、確かに不気味だろう

マークのとこのチームはディランやイチノセとか明るい奴等が多いからより一層目立つのだろう

だけどあのコミュ力が異常というか騒がしいチームで事務的な会話しかしないとは……


「しかも本部からの派遣と言われてるが……そもそもそれ自体が怪しい」


「そもそも、一体何の派遣なんだい?」


今年開催されるFFI……その本部から派遣される人物達

普通に考えれば初めての大会でしかも世界中から注目されているのだ

運営側も色々と気を回しているのだろうと思ったが


「……記録係らしい、大会側から選手1人1人の練習記録を撮る様派遣されて、他にも選手の不正な行動などを見張る役目もあるらしいんだが………


なんで、予選から記録していて……しかも、1人なんだ?」


最初は何を言ってるのか意味がわからなかった

一見するとどこもおかしい所など無い様に見えた

だけど少しの間考えると、そのおかしさに背筋が凍っていく


「……なぁ、フィディオ………あの事件の首謀者はまだ、見つかってないんだよな」


「あぁ、」


「まさか、これに関係なんて……」


そう言って電話越しに息継ぎが早くなっている音が聞こえてくる

マズイ、これは発作の前兆だ!!

急いで携帯からディランとイチノセにメールを送ってマークの発作を止めて薬を飲ませる様に頼む


「どうしよう、どうしよう……また、また」


「マーク!!大丈夫だから!!もうあの事件は解決してるんだ!!それにFFIだなんて世界中注目している大会であんな事もうあるはずが無い!!」


「でも、でも」


電話口の向こうからディランの「マーク!!」と呼ぶ声が聞こえる

どうやらマークが発作で倒れる前に急いで来た様だ

電話口の向こう側からディランがマークを落ち着かせるように言葉を掛けている


「やぁ、フィディオ…久しぶり」


「イチノセ」


電話口に出てきたのはフィールドの魔術師こと一之瀬一哉だった

懐かしい声色に自然と笑みが零れるが、今は懐かしんでいる場合ではないことを思い出し、すぐさまマークの様子を聞きだした


「マークは?」


「今薬を飲ませたから、もう少しすれば眠ると思うよ」


それを聞いて安堵する

今は別のチームとはいえ、昔馴染みであるマークに何かあったらと思うと背筋が凍るようだ

もう、自分の友が居なくなるのは見たくない


「……それじゃぁ、もう遅いから切るよ」


「あぁ、いい夢を」


そう言って相手が電話を切ったのを確認して受話器を置いた

その瞬間、一気に体から力が抜けてズルズルと壁に背を預けながら床に座り込む

本当に、心臓が止まるかと思った

まさかマークがまた発作を起こすほど追い詰められるだなんて……ここ最近は無かったからすっかり油断していた

頭を抱え込み、マークが言っていた言葉をゆっくりと思い出す


―――なんで、予選から記録していて……しかも、1人なんだ?


そう、それこそおかしいのだ

予選からの記録……だけどこれに何の意味があるんだ?

予選だなんて所詮予選でしかない、そこから全てのチームの記録をしたって一回戦で負けてしまえばそこまでだというのに

しかも俺たちオルフェウスの様な本選出場候補のチームに来てないというのもおかしい

いや、そもそも一人という時点で怪しすぎる

一チームは大体16人前後で構成される、その全ての選手の記録をたった一人で記録して、しかも不正行為がないか見張る?

そんな人間離れしたこと出来るはずが無い、しかも試合となれば22人の人々が行き交う……それを処理していくだなんて出来るわけが無い

わからない、一体記録係とは何なんだ?

一体、何を記録しているんだ、一体何を見張っているんだ?

いや、そもそも……本当に本部からの派遣なのか?


考えれば考えるほど疑心暗鬼になっていき纏まらない

悪い方向へと考えていってしまう


―――嫌でも思い出す、あの忌まわしい事件


幼かった俺らにどうしようもない程のトラウマを植え付け、そして皆をバラバラにさせた

1つに纏まっていた俺らが、みんなして違うチームに行ってしまった

俺ですら、あの事件を思い出すと発作を起こしそうになる

だけど、俺の場合の発作はマークのとはちょっと違う

マークはどちらかと言うとあの事件に対する恐怖で発作ができるけど

俺の場合、罪悪感だ

本来なら、俺が彼女を守るべきだったのに

幼かった俺は、彼女に守られてばかりだった

俺は平気で傷ついてる彼女を見捨てたんだ

どうしようもない程、間違えた


「駄目、だな……ほんと」


FFI―――一体、誰が何の為に、俺たちを集めるのだろうか




Non omne quod licet honestum est.


(許されることすべてが正当だとは限らない)

(間違えて、壊れた僕達の日常)

(出来ることなら、あの日の笑顔をもう一度―――)

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