第五悔

Nemo fortunam jure accusat 

××

音無side

……私にとって、亜紀さんは不思議な人で、私を守ってくれる人で………初恋だった

ずっとずっと大好きで大好きで苦しかった

言えばよかったのに、言えなかった

いっつもそう、気づいたら遅くて、後悔ばかり

でもね、きっと言っても失恋だったと思う

なんとなく、わかっていた

だけど、どうせ失恋するならキッパリ言って、それでカッコつけて微笑んで終わりにしたかった

それが出来ないままズルズル引きずって、今こんなにも苦しんでいる


「………馬鹿、みたいですよね」


亜紀さんも、こんな気持ちを抱いていたのだろうか?

分かってるくせに臆病だから隠し通して笑って、自分がピエロにでもなったかのような気分になって

そうして勝手に終わらせてしまう

ポロポロ涙が零れ落ちる

亜紀さんは泣くことも出来なかったのに、私は泣ける

なんて幸福者なのだろうか

こんな真っ白な部屋に閉じこもって、それで人知れず泣けるのだから

このままここに居れば、ずっと幸せなのだろうか?


「…………っ、違う、それじゃぁ……また、同じなんですよね」


あの人は、自分が傷つく事を厭わず……私を助けた

私の幸せを優先した、皆の幸せを優先した

だったら、今度は私達が彼女を幸せにする番なのではないか?

今さらとか遅すぎるとか言う暇など無い

今さらも、遅すぎるも無い……今を精一杯頑張って、あの人が幸せだと思えるように血の滲む様な努力をして、辛酸を飲み込んで、傷ついて、遠回りして、ボロボロになって

それで、今度こそあの人を幸せにするんだ

私のエゴかもしれない、あの人はきっとそんな事望んでいないかもしれない

だけど……これが正解


「……FF、I………私も」


お兄ちゃんが居るとか、傷つくのが恐いとか言ってられない

精一杯努力して、それで皆に真実を伝えないといけない

それができるのは、私だけなのだから


「……今からでも、遅くないですよね………私、頑張ってみます」


だから、今度こそあの人にちゃんと伝えよう

貴方が好きだと、貴方の幸せを願っていると


××


とあるモブside

え?風丸亜紀を知ってるかだって?

当たり前じゃないか!!あの人は世界トップクラスのプレイヤーだぞ!!

俺があの人を凄いと思うところは速さだね

だってさっきまで前線で攻撃していると思ったら後ろでDFをやってるんだぜ?

あれがジャパニーズニンジャなのかと始めてみた時は思ったよ!!

それにあの人はサッカーだけじゃない、様々なスポーツで色んな記録を打ち出していたからね

だから学校じゃぁサッカー好きの奴と陸上好きの奴があの人について話し合う姿をよく見たよ

ちなみに俺が1番好きなのはイタリアのジュニアチーム時代だね

特にジュニアカップの時のあの人と仲間達の勇姿は目を見張るものだったよ

……それだけに残念さ、まさかその後あの人がイタリアから居なくなっちまうだなんて

実は俺、あの人と同じ学校を通っていたんだけどさ……本当、サインの1つぐらい強請っておけばよかったよ

え?なんであの人は居なくなったのかって?

それが俺もよくわかんないんだよ、周りの奴等もよくわかってないけど…元々日本に住んでたしなぁ……何かあって日本に戻ったんじゃないか?

他にも色んな説があるっちゃぁあるけど……あ、そうそう!!俺がおもしろいと思ったのはこれだな

あの人は異世界から来た人で異世界に帰った!!

笑っちまうだろ?んなのあるわけねーだろ!!って思いっきりソイツの背中叩いてやったよ

まぁ確かにあの人の凄さは人間離れしていたけど、流石にこれはなさすぎ

っと、やべ…そろそろ学校行かねーと遅刻するわ

じゃーなっ、えっと………アイリリー!!


××


不動side

……何なんだこの甘ったるいチームは

それが1番最初に感じた、俺のイナズマジャパンへの第一印象だった

この皆で代表選手になろう、エイエイオーな感じ

馬鹿みたいだ、日本代表選手だぞ?

なれる奴なんて一握りだ

なんでもっと強欲に、ストイックに、自己中心的に、周りの奴等は皆敵だと思えない?

こんなの世界じゃありえねぇ……っていうか、こんなんで世界に勝てるのか?

マジでありえねぇ……こいつ等本当に馬鹿すぎるだろ

ちなみに俺が思うにこのチームで1番の馬鹿はあの玲姫ってマネージャーだと思う

気持ち悪い猫撫で声で不細工な笑顔を振りまいてこれでもかって位腰をクネクネさせて……

しかもそれを見て全員……ってわけでもねーが可愛いって言いやがる

マジかよ、あれならまだ小鳥遊の方が可愛いって思えるぞ(思った事なんかねーけど)

鬼道君のあの顔見てみろよ、帝国時代の面影なんて1つもない

ギラギラと鋭いナイフの様なオーラなんか何処にも無い

気持ち悪いくらい、帝王が平民に成り下がっていた

あぁ気持ち悪い、これが影山が執着していた帝王の姿だというのか

こんなのに、俺は負けたのかと思うと怒りが込み上げてくる


そうだ、影山と言えば俺ん家にあった借金がいつの間にか全部無くなっていた、綺麗さっぱり跡形も無く

元々影山に加担していたのは借金があったからだ

じゃなかったらあんな犯罪まがいのこと死んでもするもんか

まぁ、その借金が無くなってくれたお陰で俺も随分と普通の学生生活を送れるようになった

一体誰がこんな事をしたのか、答えは簡単……風丸亜紀だ―――

影山が嫌に執着していて、甘ちゃんの癖に気持ち悪いくらい誰よりも高い所に居て、そして友の為に簡単に命を捨てる存在

しかも友達のために自分を犠牲にできるような大馬鹿

どう頑張っても俺には真似ができねぇし、したくも無かった

実を言うと、風丸亜紀には幼少期に一度だけ会ったことがある

会ったといっても数時間の出会いだったが

その時にアイツは俺の事を友達だと抜かしやがった、………ここまで聞けばなんとなくわかるだろう?

風丸亜紀と言う存在は散々自分の友達を傷つけた友達の代わりに多額の借金を返済して、尚且つ俺には何の損害も行かないようにしたんだよ

ほんっと、ありえねぇ……どこの正義のヒーローだよ


「……あーあ、全員馬鹿みてぇだ」


誰かが誰かの幸せを願う度、誰かが不幸になっていく

好きな人に自分を誰かの代わりにしてもいいと言う癖に、自分が誰かを好きな人の代わりにするのは心底嫌う

たった一言が言えれば良いくせに、その一言を言うのに戸惑う

母親の存在は肯定できるのに、父親の存在は肯定できない

つまりは、そういうことだ

誰もが誰も甘ちゃんで馬鹿、何かを勘違いして生きてる


「……こんなんで、優勝できんのかよ」


空が青いのは当たり前、海が青いのも当たり前、太陽が暑いのも当たり前だし、誰かが死んでいくのも当たり前だ

人は何時か死んでいくし、世の中思い通りに動くとは限らない

好きな人が自分を好きになるとは限らないし、血の繋がった親を変えることはできない

裏で傷ついてる人間なんか皆知らん振り、日の目に当たらない限り同情なんかされない


「それでも、お前はアイツを愛しちまったんだろう?」


風丸亜紀のことは散々調べつくした

まぁ、もともと影山のデータファイルに全部入ってたんだが

彼女の表の部分から、彼女の裏の部分まで微塵も残さず

そして知ってしまった真相は、酷く気持ち悪くて、残酷

遣り様によっては幸せで居られたくせに、彼女はそんな人生を自ら否定した

それこそ、物語でよくあるような正義の主人公の様に


「………結局、全員が全員甘ちゃんな話……だったてわけか」


だからこそ、風丸亜紀という人物は一言で言い表せて、一言では言い表せない

隣の奴と言う意見が真逆になっちまう

どこかが矛盾して、そして全部が正解になる

だからこそ、彼女は―――


「正真正銘の化物ってか」


大勢に愛された化物で、1人だけを愛してる化物

だけど、誰よりも人間らしくて、化物らしくない




Nemo fortunam jure accusat 

(誰も運命を正当に非難できない。)

(誰も出来なかったからこそ)

(誰もが幸せで不幸だった)


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DATA

アイリリー『???』―――誰かに聞き込みをしていた人物

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