ELECTRIC MINT[2/3]

窓の隙間から漏れ聞こえる、淫らな喘ぎ声。

ベージュ色の丸みを帯びたカウンターの上に、誰だかわからない男が寝そべっていて。

その上に、はだけた制服の白いシャツ1枚で跨って腰を振っているのは。

自称俺の友人、節操のない中澤楓だった。


「せん、せ……、ん、は…ぁ…ッ」


普段の楓からは想像もつかないような、艶かしい声。

見てはいけないと思うのに、目が離せない。

身体全体から色気を放ちながら上下に揺れ動くその姿は、あまりにも官能的で。


「あ、ぁ……イキそ……ッ」


上擦った声でそう言って、背中を仰け反らせた楓と ─── 視線が絡まった。

大きな目が、零れそうに見開かれる。


「 ─── あ……」


まずい。慌ててその場から逃げ出そうとした瞬間。

死にたくなるぐらい素っ頓狂な声が聞こえた。


「蒼ちゃん!」



*****



「だってさあ。小島先生、結婚を約束してた彼女に振られちゃったんだって。かわいそうじゃない? なんか、話聞いてたら同情しちゃってさ。エッチなことしたら、気が紛れるかなとか、思って」


男子生徒と淫行する教師のどこがかわいそうなんだ。俺は頭を抱え込みたいのを必死に堪える。


「彼女に振られて学校までクビになっちゃったら、先生の人生踏んだり蹴ったりじゃん。内緒にしてて。蒼ちゃん、お願い」


授業中のひと気のない屋上で、楓は俺に手を合わせる。

フェンスにもたれ掛かって座り込んだまま空を仰ぐ。不安になるぐらい雲ひとつなく澄んだ青空だ。





─── あれから。


下半身丸出しで血相を変えて起き上がった国語教師だとか。

あられもない格好で窓まで歩いてきた挙句『蒼ちゃん! なんでここ、わかったの?』などと意味不明なことを口走る楓だとか。

何もかもが堪らなく面倒くさい状況下で、一刻も早く立ち去りたいのに。

とりあえず窓から入ってカウンターの隅に置き去りになっていた携帯を確保し、図書室から出ようとする俺の腕を、楓がガッチリと掴んだ。


『蒼ちゃん、服着るからちょっと待って。あ、先生はもう行って。俺に任せて、ね?』


なんで。なんで俺が、こんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ。






「……もともと、誰にも言うつもりはないから。俺には関係ないし」


素っ気なく言ったつもりの俺の言葉に、楓は極上の笑みを浮かべる。


「俺、蒼ちゃんのそういうとこ、好き」


好き、という言葉が妙に浮き足立っていて、イラついた。


「何? 怒っちゃった?」


「別に。怒ってないよ」


つっけんどんにそう言えば、楓はへらりと笑う。


「よかったー。蒼ちゃんに嫌われたら、俺のことわかってくれる人がいなくなっちゃうもんね」


伸び過ぎた色素の薄い前髪を掻き分けながら、楓は目を伏せる。


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