窓の隙間から漏れ聞こえる、淫らな喘ぎ声。
ベージュ色の丸みを帯びたカウンターの上に、誰だかわからない男が寝そべっていて。
その上に、はだけた制服の白いシャツ1枚で跨って腰を振っているのは。
自称俺の友人、節操のない中澤楓だった。
「せん、せ……、ん、は…ぁ…ッ」
普段の楓からは想像もつかないような、艶かしい声。
見てはいけないと思うのに、目が離せない。
身体全体から色気を放ちながら上下に揺れ動くその姿は、あまりにも官能的で。
「あ、ぁ……イキそ……ッ」
上擦った声でそう言って、背中を仰け反らせた楓と ─── 視線が絡まった。
大きな目が、零れそうに見開かれる。
「 ─── あ……」
まずい。慌ててその場から逃げ出そうとした瞬間。
死にたくなるぐらい素っ頓狂な声が聞こえた。
「蒼ちゃん!」
*****
「だってさあ。小島先生、結婚を約束してた彼女に振られちゃったんだって。かわいそうじゃない? なんか、話聞いてたら同情しちゃってさ。エッチなことしたら、気が紛れるかなとか、思って」
男子生徒と淫行する教師のどこがかわいそうなんだ。俺は頭を抱え込みたいのを必死に堪える。
「彼女に振られて学校までクビになっちゃったら、先生の人生踏んだり蹴ったりじゃん。内緒にしてて。蒼ちゃん、お願い」
授業中のひと気のない屋上で、楓は俺に手を合わせる。
フェンスにもたれ掛かって座り込んだまま空を仰ぐ。不安になるぐらい雲ひとつなく澄んだ青空だ。
─── あれから。
下半身丸出しで血相を変えて起き上がった国語教師だとか。
あられもない格好で窓まで歩いてきた挙句『蒼ちゃん! なんでここ、わかったの?』などと意味不明なことを口走る楓だとか。
何もかもが堪らなく面倒くさい状況下で、一刻も早く立ち去りたいのに。
とりあえず窓から入ってカウンターの隅に置き去りになっていた携帯を確保し、図書室から出ようとする俺の腕を、楓がガッチリと掴んだ。
『蒼ちゃん、服着るからちょっと待って。あ、先生はもう行って。俺に任せて、ね?』
なんで。なんで俺が、こんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ。
「……もともと、誰にも言うつもりはないから。俺には関係ないし」
素っ気なく言ったつもりの俺の言葉に、楓は極上の笑みを浮かべる。
「俺、蒼ちゃんのそういうとこ、好き」
好き、という言葉が妙に浮き足立っていて、イラついた。
「何? 怒っちゃった?」
「別に。怒ってないよ」
つっけんどんにそう言えば、楓はへらりと笑う。
「よかったー。蒼ちゃんに嫌われたら、俺のことわかってくれる人がいなくなっちゃうもんね」
伸び過ぎた色素の薄い前髪を掻き分けながら、楓は目を伏せる。
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