「俺、蒼ちゃんとは友達でいたい。そしたら別れたりとかもなくて、ずっと一緒にいられるしさ」
楓のよくわからない理屈は、俺の心を掻き乱す。
さっきの楓の艶かしい声が脳裏にこびりついて離れない。
あんな声で、あんな風に快楽に身体を震わせながら男に抱かれる楓。
絶対にそんなことはありえないけれど、俺は想像してしまう。
この腕の中で、細い背中を抱きながら突き上げて揺さぶれば、楓はどんな顔をするんだろう。
「 ─── 蒼ちゃん?」
俺の顔を覗き込む楓は、さっきまで教師と淫行に励んでいたとは思えないぐらいあどけない顔をしている。
「何でもない」
目を逸らしながらポケットに入っているミントのタブレットケースを取り出す。
頭に浮かんだとんでもない想像を払拭したくて、掌に振り落として出てきたミントの粒3個をそのまま口に放り込んだ。
つんとした辛味が拡がっていく。
「それ、俺にもちょうだい。先生の、苦くて何か後味悪いし」
全くいらない情報を口走りながら、楓は俺の手からケースを取って、いくつかを口に入れた。
「……うわ、何これ。辛い!」
顔を顰めながら、楓は目を潤ませる。そんな味だとわかってて食べたんじゃないのか。いちいち理解に苦しむ。
「蒼ちゃんごめん、返すね」
そう言った楓は伸ばした腕で俺の頭を引き寄せて。
躊躇いもなく、口づけた。
柔らかな舌が唇から侵入して、俺の口内を弄る。
器用な舌先が俺の舌の上にタブレットを乗せた途端、ピリリと刺激が走った。
ちょこちょこと歯列をくすぐるように舌を動かしながら、軽く下唇を吸われて。
キラキラ光る糸を引きながら、楓の唇が離れていく。
「あ、ごめん。垂れた」
呆然とする俺の唇を親指で拭いながら、楓は濡れた唇のまま屈託無く笑った。
「蒼ちゃんって、なんか甘いね。ごちそうさま」
俺は息を吐きながら空を見上げる。青のグラデーションに混じって真昼の白い月が所在なく浮いていた。
今は節操のない楓にも、いつか真剣に恋をするときが来る。
でも、わかってる。その相手は俺じゃない。
万一俺が楓を抱くことがあるとしたら、それは ─── 。
友達として、楓を慰めるときのような気がした。
けれどそれはきっと、来るのかどうかも定かではないぐらい遠い未来の話。
fin.
2013.7.13
「MELANCHOLIC HALF」の楓が高校時代のお話です。 メルマガ限定SSに置いてたものを、全体公開に移しました。 長編「MELANCHOLIC HALF」はこのお話の後に生まれています(^^)
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