「ユウ……」
もう一口。ユウはまたグラスを呷って、僕に口づける。
慣れてきたこの味が、今度はひどく心地よくて。
僕の全てを奪うようなキスに何もかもを委ねて、舌を絡めながら味わい尽くしていく。
「……ん、ふっ」
急にユウの身体が後ろへと倒れて、僕は引き摺られるようにユウに覆い被さる。
背中に回ったユウの腕が僕の背中を撫で上げて、身体が熱を持っていく。
至近距離で見つめ合えば、鳶色の瞳が滲んだように揺れていた。
顔には出ていないけど、相当飲んでいることは想像がついた。
僕の身体はもうすっかり反応してしまっていたけれど、酔ったユウとセックスをするのはあまり好きじゃなかった。
加減ができなくなる、とユウは言っていた。
それぐらいなら僕は全然平気だ。だけど、そんな状態で身体を重ねることが、僕たちの微妙なバランスを崩してしまう気がして怖かった。
「ユウ、待って……」
少し身体を下にずらして、胸の辺りに耳をあててみる。大きくて速い鼓動がダイレクトに伝わってきて、僕はひどく安心する。
毎月同じ日にユウが仕事を休んで1人でどこへ行っているのか、どうしていつも酔って帰ってくるのか、臆病な僕は訊くことができない。
答え合わせをするのが怖いんだ。
だって今日は、サキの───。
「アスカ」
低い声が緩やかに僕の名を奏でる。
───飛鳥、愛してる。
甘く響く声が、遠くで聴こえた。
もう二度と聴くことができない懐かしい声に、僕は息を殺しながら涙を零す。
火照る身体を持て余しながら、ユウに身体を預けて目を閉じる。
あんなに僅かなアルコールで、僕はもう眠気に襲われていた。
お酒も悪くないな、と思った。
「ユウ、大好きだよ……」
幼子にするように頭をそっと撫でられる。
その掌の心地よさに僕は全てを委ねて、死に近い眠りの世界に堕ちていった。
"Amber Kiss side A" end
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