「 ─── 光希、光希」軽く揺さぶられて重い瞼をゆっくりと開ければ眩しい光が視界に飛び込んできた。「……ん……」反射的に頭からすっぽり布団にくるまろうとすると、頭を優しく抱え込まれて ─── 不意に鼻を掠めた懐かしい甘い匂いに俺は勢いよく目を開けた。「光希、起きて」覗き込むその顔は、心配げに俺を見つめている。きれいな顔に影が掛かって、僅かに憂いを帯びているように見えた。「……アスカ?」勢いよく飛び起きると、びっくりしたように目を見開いてたじろぐ姿が目の前にあった。「お前 ─── 」「どうしたの?」最愛の人は一瞬怪訝な顔をして、それから何かにふと気づいたように眉根を寄せて申し訳なさそうに謝る。「ああ、ごめん。勝手に入っちゃって」奇妙な違和感。辺りを見渡し、ここが自分の部屋だと確認してから、俺はようやく全てを思い出す。「いいよ。飛鳥が来たいときに来ればいいって、いつも言ってるだろ」俺の言葉に、飛鳥は安心したように微笑む。その笑顔を見て頬を緩ませたその時、なぜか耳元で自分の声が聴こえた。『お前が帰って来るのは、俺のところだ』残像のように脳裏に浮かぶのは、この腕の中で大粒の涙を零す飛鳥の顔。いつの記憶だろうか。頭の片隅がチリチリと灼けるように痛い。額を手で押さえる俺を見て、飛鳥は立ち上がってキッチンへと向かう。戻ってきたときにその手に持っていたのは、グラスに入った水だった。「光希、昨日いっぱい飲んだでしょ。僕まで酔いそうなぐらい、においがしてる」確かに頭がぼんやりするし、自分が酒臭い。身体の中からアルコールが抜けていないことはよくわかった。昨夜、俺は1人で飲んでて ─── 何でこんなになるまで飲んだんだっけ?身体が怠くて言うことをきかない。「そうだな、飲み過ぎたみたいだ。身体が重い」飛鳥の手からグラスを受け取って渇き切った喉に冷たい水を流し込めば、熱を持った身体にすんなりと染み込んでいく。「身体に悪いから、お酒はほどほどにしないと駄目だよ。わかった?」ベッドの脇に膝をつき、首を傾げて諭すようにそういう飛鳥はあどけなくて、いつもよりいっそうかわいく見えた。 - 22 - bookmarkprev next ▼back