RIMLESS FREE[2/5]

その想いが恋だということをはっきりと自覚したのは、母さんが亡くなった小学5年生の時だった。
だからと言って何がどうなるわけでもなく、もちろん好きだなんて絶対に言えるはずもない。万里に彼女ができたと聞いては胸を痛めて、別れたと聞いてはホッとして、用もないのに会いたくて家に遊びに行った。
これは一過性のビョーキみたいなもんで、シシュンキが終われば治るんだ。そう思いながら、自分の気持ちをひた隠しにして毎日を過ごしてきた。

俺が高校生になった春、万里は大学院に進学し、海里は役所に採用されて社会人になった。お堅い公務員だなんて、万里ならともかく海里にはこれっぽっちも似合わない。数ヶ月の条件付採用期間だとかいうのが終わり、海里はめでたく本採用となって職場近くに部屋を借りることになった。
引越しの手伝いに行った夜、散々こき使われてようやく片付いた2人きりの空間で、俺は海里に話を切り出される。

『お前、万里のこと好きなんだろ』

は? 何言ってんの。そりゃ海里よりは断然好きに決まってるけど。

そんなごまかしを口にしようとした瞬間、俺は真新しいシーツの張られたベッドに物の見事に押し倒されていた。そんなのっぴきならない状況で持ち出された取引きは、余りにもぶっ飛んだものだった。

『万里の役なら俺がしてやるから。その代わり、セックスさせろよ』

そう言って不敵に微笑んだ海里は俺の目の前でリムレスフレームの眼鏡を外した。

ああ、万里とおんなじ顔だ。

言葉の意味を考える隙さえ与えられずに初めてのキスを交わして、その勢いでもうひとつ別の初めても奪われた。わけのわからない強烈な痛みと感じたことのない気持ちよさにドロドロに溶かされながら、俺は不思議な高揚感を味わっていた。
それは、この想いが満たされてるっていう奇妙な錯覚だ。
それ以来2年間、俺は時々海里の住むこのマンションに来ては名前のないおかしな関係を続けてる。





なんでこんなに気持ちいいんだろう。
肌がぶつかる度に繋がる部分から跳ね上がる水音は、耳を塞ぎたくなるぐらい大きく鳴り響いてる。
ガクガクと揺さぶられて何度イかされたかわからない身体には全然力が入らないのに、中は勝手に動いて挿れられたものを締めつけていく。

「ん、は………あッ」

かわいくてちょっとエッチな女の子が大好きだっていっつも言ってるくせに。どうせ俺が見てないところで適当に遊んでるくせに。なんで俺とこんなことすんのって訊きたい気持ちはあるけど、何となく口に出せずにいる。

「伊吹」

名前を呼ぶ声も本当にそっくりだ。
返事をする代わりに手を伸ばしてみると、その手を取った海里は口を開けて俺の指を含んでいく。ぬるりと温かな感覚がゆっくりと肌を這い、丁寧にくすぐられる。

こんなところも性感帯になること。男同士のエッチがめちゃくちゃ気持ちいいこと。知らないままでも生きていけたのに、知ってしまったんだからもうどうしようもない。知らなかった頃には戻れない。

「あ、も……ッ」

ちゅぷりと指を吐き出されて触れる空気の冷たさに背筋が震える。濡れた前髪を掻き分けて頬に落ちてきた掌が、焦らすように肌を滑っていく。じんじんと痺れる下半身の感覚が苦しくて何度も息を吐くけど、全然治まらない。
ああ、理性がドロドロに蕩けていく。

「もう、何?」

「イきた、い」

両腕を回して縋りつけば、ちゃんと抱き返して応えてくれる。普段は意地悪なのにエッチしてるときはなぜか優しい。だんだん激しくなる腰の動きに意識が振り落とされないように必死にしがみつく。唇からみっともない声がひっきりなしにこぼれるけど、それを抑える余裕もない。
腰を打ち付けられる振動で、頭の中はクラッシュしていく。いろんなものがぐちゃぐちゃになって、好きっていう気持ちとかこのおかしな関係とか、形のないものは全部曖昧になってしまう。

「万里、万里……ッ」

違う名前で呼んでることに対する罪悪感は、理性と一緒に溶かされていく。
俺の中に入ってるものがグッと質量を増して、1番気持ちいいところを引っ掛けるように何度か突き上げられた途端、中が収縮を始めて身体の中を渦巻いてた熱が弾けていった。

「………ああ、ん、あ………っ」

ドクドクと心臓の音に合わせるように、奥で放たれたものがじんわりと広がっていく感覚がした。もつれ合ってひとつになって、胸の中に残るのは意味のわかんない充足感。呼吸が整わないまま重ねられた唇から舌が捻じ込まれて、息苦しさに喘ぎながらも素直に出した舌は絡み取られていく。

ずっとこのままでいられればいい。こうやって時々会って、エッチして、身代わりにして。それだけでこの想いが昇華するのなら。

「好き、万里、好き………」

歪んでることはちゃんとわかってる。それでも、幸せな気持ちになれてるんだからそれでいい。







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