急に与えられた強い刺激に堪え切れなくて、中が俺の意思とは関係なしに収縮を始めてしまう。
「───あ、ァッ……あぁ!」
溢れ出す快楽に全身の肌が粟立っていく。
意識がグラグラと震えるようにブレて、その度に何度も声を漏らしながら身体を強張らせて果てた。
一瞬、気が遠のいていく。
ゆらゆらと小さく腰を動かされて、寄せる波に揺られながらゆっくりと引き戻され、自分が身を置いてる状況を思い出すことができた。
─── このまま、飛んじゃうかと思った。
息苦しくて、乱れた呼吸音が耳障りで仕方ない。
ぼんやりとした焦点が次第に合ってくると、多田さんの顔がちゃんと見えてきた。
「大丈夫?」
目を細めながら覗き込んでくるその顔が、じっと見惚れてしまうぐらい、本当にきれいだった。
どうしてこの人はこんなに煌めいて見えるんだろう。
月が闇夜を照らすように、俺に優しい光を与えてくれる。だから、こんなにも惹きつけられる。
「ん……、平気」
心地よい倦怠感に包まれながら、笑って返事をする。伸ばした手はすぐに握りしめられて、引き寄せられるままに抱きついて唇を重ねる。
絡まる舌の感触が本当に気持ちよくて、そこから蕩けてしまいそうだ。
繋がった状態で多田さんの上に跨るように座り直せば、もっと深いところまで入って中の圧迫感が強まった。
そこからゾクゾクと這い上がる快感に翻弄されそうになるのを我慢しながら、俺は多田さんに言葉を掛ける。
「すごく、気持ちいい。多田さんも、気持ちよくなって……」
一緒に気持ちよくなりたい。融け合ってひとつになりたい。
一旦腰を浮かして落とせば、多田さんが眉根を寄せて小さく息をついた。少し開いた形のいい唇を啄ばんで、視線を絡ませ合う。
ゆっくりと上下に腰を動かしていけば、繋がるところからさざめくような快楽が生まれては身体中を廻っていく。
「ん……ふ、あぁ……っ」
しっかりと抱き合いながら、ベッドの上で波に翻弄されるように2人で揺れ動く。合わさる肌は熱く濡れて、スプリングが軋む度に吐息が縺れていく。
ひとつになってるその感覚が堪らなく気持ちよくて、もっともっと感じたくて腰を揺らしていけば、吐息混じりの囁きが耳に掛かって身体の芯を震わせる。
「楓の中、すごくいいよ……」
多田さんも、ちゃんと気持ちよくなってくれてる。
それが嬉しくて返事の代わりにギュッと抱きつけば、多田さんは抱き返しながら甘く低い声で俺の名前を呼んだ。
「 ─── 楓」
「……あ、あっ、多田さ……ッ」
腰を挟み込む形に回された両手が軽く左右に俺を揺さぶって、その度に水面が揺れるような細やかな音が跳ね上がって下肢から鳴り響いた。
じんじんと焦れるような痺れが広がって、腰の力が抜けていく。
「楓……わかる?」
耳元で囁かれたその声に肌が粟立つ。
駆け上がってくる快楽に容易く流されないよう我慢することに必死で、何かをまともに考える力なんて残ってなくて。
小さく首を横に振れば、多田さんは少しだけ身体を離して、濡れた額に唇を押しあててから俺の顔を覗き込んだ。
そのきれいな瞳には、俺の理性を根こそぎ絡め取る強い光が滲んでる。
「楓は名前を呼ぶと、締めつけるんだね。そんなに気持ちいい?」
この人に呼ばれると、身体が期待に震えてしまうんだ。
もう止まってしまいそうなほどに緩やかな律動でさえ、めちゃくちゃ気持ちよくて。
でも多分、それは俺だけじゃなくて多田さんも同じで。
理知的な雰囲気のする整った顔を、鋭い痛みを堪えるようにわずかに顰めながら、多田さんは悪戯っ子がする微笑みを見せる。
それがもう本当にセクシーで、胸がまたキュッと縮み込んだ。
「ん……、だって、好き……」
熱に浮かされながらそう口にすれば、多田さんは甘やかな眼差しをまっすぐに俺へと注いでくれる。
その瞳に吸い込まれて、身も心もドロドロに融かされて。自分を委ね切ってしまうことが、こんなにも気持ちいい。
名前を呼ばれることも。与えられるこの感覚も。俺の中に入ってる多田さんの熱も。
自分でも不思議なぐらい愛おしくて、たまらない。
多田さんのことが、大好きなんだ。
今この瞬間の全てが心地よくて。
多田さんに会うまで心の中に溜まっていたいろんなわだかまりが、全部するすると解けて、幸せな感覚でいっぱいになってる。
「楓……」
今日何度目かの名前を呼ばれた瞬間、俺の中を満たしてる熱いものが動いて、ビクリと腰が揺れてしまう。
「楓、好きだ」
ああ、夢みたいだ。
熱を孕みながら紡がれたその言葉に俺は何度も頷いて、俯いたまま汗ばむ額を寄せ合い至近距離で視線を絡ませる。
俺もだよ。多田さん。
大きな掌が頬にあてられて、その手の甲に自分の手を重ねながら唇を合わせる瞬間 ─── 指先に、硬い金属が触れた。
その冷たい感触に心臓がずくんと大きく収縮して、飛んでしまっていた理性が一瞬で呼び覚まされる。
そうだ、この人は結婚してる。
神様の前で、永遠の愛を誓い合った相手がいるんだ。
けれど、そんな戸惑いを全部呑み込んでいくかのように、多田さんの瞳は俺を捕らえてしまう。
少しの躊躇いを含みながら重ねられた唇は、罪に濡れていて。
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