K01 : 熱の入江[17/24]


「ん、あ……っ」

握り込まれたまま親指で先端を弄られる度に、もどかしい快感がじわじわと生まれては重なっていく。

ぬるぬると先走りを絡ませるように指の腹で円を描かれる。その弱い刺激がもう堪らなくて、お腹の下の方に何度も力が入ってしまう。

焦らされて勝手に揺れる腰は、もう片方の手で動きを押さえ込まれる。

「 ─── ちょ、まっ……、んッ」

言葉ごと唇を塞がれて舌を強く吸われる。それだけで蕩けそうに気持ちよくて、意識がするすると引き摺り込まれていく。

身体の震えが止まらないのは、熱が出る前の悪寒のようだ。

余計なことを全部忘れて、俺はただ与えられる感覚に身を委ねてしまってた。

ああ、これだ。

俺はずっとずっと、この感覚が欲しかったんだ。

「多田さ、ぁ……ッ」

滴る先走りを絡め取られて拡げるようにゆっくりと扱かれていく。

それだけでもう我慢できないぐらい気持ちよくて、何度も喘ぎ声を漏らしてしまう。

「ダメ、あ……、あっ」

身体の中から波のように何かがどんどん押し寄せてきて、上擦った声が零れていく。

どうしよう、もうイキたい。

緩やかに与えられる快楽に堪え切れなくて、もっと強い刺激を求めて腰が揺れる。

「─── は、あっ、ぁ……ッ」

息を吐くことで少しでも熱を逃がそうとするけど、うまくいかなくて。

俺の顔を見下ろしながら、多田さんはうっとりするような微笑みを浮かべる。

「楓くん、じっとして……」

からかうように甘い声で低く囁かれて、それだけでまた身体が震える。

どうしてそんなことを言うんだろう。もっと欲しくて堪らないのに。

少しの刺激でこんなになるほど感じてるのが恥ずかしくて。今にも達しそうなのを必死に我慢しようと俯いて視線を泳がせるけど、やっぱりどうしようもなくて。

緩やかに送り込まれる快楽は、真綿で首を絞めるようにじわりじわりと俺を追い詰めていく。

きれいな顔がそっと近づいてきて、いつの間にか目尻に溜まっていた涙を舌先で掬われる。その感覚にまたびくりと大きく反応した俺の昂ぶりから、突然掌の感触がなくなった。

「 ─── あ……っ」

何の前触れもなく熱を失って淋しさに顔を上げれば、多田さんが着ていた白いバスローブをぱさりと脱ぎ落とすのが目に入る。

身につけているものがなくなって現れたのは程よく筋肉のついたきれいな身体で、均整の取れた美しさにどぎまぎしながらも見惚れてしまう。

チュ、と音を立てて唇を啄ばまれた拍子に覆い被さるように組み敷かれて、至近距離で見下ろされる。

熱を浮かべた瞳に呑み込まれてしまいそうで、恥ずかしくて思わず顔を反らせば、そのまま耳元に唇が寄せられて耳朶を食まれる。

小さく喘ぎながら身体を捩らせると、柔らかな弾力の唇がそのまま首筋を伝い降りて、鎖骨をなぞって胸まで辿り着いた。

「ん、あ……ッ」

胸の突起をそっと舐められて、急に与えられた敏感な部分への愛撫に声が漏れる。

そのまま口に含まれて舌先で緩く転がされれば、高めるだけ高められて放ったらかしにされた半身の先端からまた先走りがとろりと溢れ出す。

小さな水音を立てながら何度も吸い上げられて、その度に水揚げされた魚みたいに身体がビクビクと跳ね上がって。そんな小さな刺激に翻弄されて、自分の中で大きくぶれてる針がもう振り切れそうになってる。

「や、ん……、あっ」

かぶりを振りながら訴えても、多田さんはお構いなしにそこを攻め立てる。それは俺が本当は拒絶してないことをちゃんと知ってるからだ。

もっと欲しいし、もっと求められたい。そして、自分がどれだけ欲されているか、この人はもうわかってる。わかってて焦らしてるんだから、趣味が悪い。

小さく甘噛みされながらもう片方の頂きを指で摘まむように捏ねられて、ビリビリと電気が走ったみたいに身体が震えた。

「あっ、そこ、や……っ」

身体はどうしようもなく淫らに感じてて、もう果てる寸前まで来てるのに、そこに辿り着くまであと少しだけ足りない。

だから俺は、足りないものを貪欲にねだる。

「キス……したい……」

喘ぎ混じりにそう訴えながら、筋肉が硬く張った腕に手を掛けて引く。次の瞬間には、胸元から唇を離した多田さんの顔が俺の鼻先の距離まで近づいてた。

「多田さん……」

腕を伸ばしてその身体を抱きしめながら名前を呼ぶ。

早く欲しい、もっと欲しい。でも、性急過ぎるのはもったいない。

欲しいものはもうこの手の中にある。だったら、ゆっくりと味わいたい。

せめぎ合う感覚に翻弄されながら、2人で汗ばむ額をくっつけて見つめ合う。

視線が絡み合って、そこには熱で蕩けた甘い空間が生まれる。

多田さんは、俺の瞳を覗き込んだままおもむろに口を開いた。

「楓くんに黙ってたことが2つあるんだ」

そう言って、子どもが内緒にしてた悪戯を告白するみたいな、罰が悪いけど少し悦んでる、そんな微笑みを見せる。

「ひとつはね、俺も楓くんと同じ。人を好きになるのに性別は関係ないと思ってる」

焦らされて疼く身体の奥も、籠る熱を逃そうと汗ばむ肌も、この人に与えられる感覚の全てが俺には心地よくて。

浅い呼吸を繰り返しながら、俺は多田さんの唇が奏でる低く艶やかな囁きにうっとりと耳を澄ます。

「もうひとつは?」

そう促せば、その双眸が甘い光を滲ませてゆらりと煌めく。

深い琥珀色の瞳は、穏やかで優しい色合いをしてる。

「初めて逢ったときから、なんてきれいな子なんだろうって思ってた。かわいくて、自分に素直で、表情が豊かで。気がつけば、目を奪われていて」



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