首に腕を回されて、きれいな顔が近づいてくる。そのまま、吸い寄せられるように唇が重なった。蕩けそうに柔らかな唇の感触に気を取られていると、舌が滑るように口の中に入ってくる。グッと体重を掛けられて、前のめりに倒れ込む。ベッドが派手に軋んで、押し倒すようにアスカに覆い被さってしまう。離れた唇はすぐに重ね直された。「……ん……」鼻に抜けた声を漏らしながら、口の中を弄ってくる。それに応えて舌を絡めていけば、背筋が震えるほどの情欲が身体の奥底から湧き起こり溢れ出す。「エイジさん……」唇を離して俺の名を呼び、アスカはうっとりと微笑む。その身体から官能的に放たれるのは、芳香な花の匂い。頭の中で何かが壊れていく音がした。俺は縺れる手で衣服を全て脱いでいく。その細い腰に手を掛ければ、嬉しそうにまた口づけてきた。身につけているものを残らず脱がせた途端、アスカは俺の手を取って自らの中心に導く。雄の象徴であるそこは、今にも達しそうなほど硬く張り詰めていた。思わず手を引けば、今度は俺の手を顔の前に持ってきて、2本の指を纏めて口に含んだ。温かく濡れた感覚に包まれ、ちゅぷりと小さな音が鳴る。そのまま舌を使って指を愛撫しながら、俺の半身が手を掛かる。そこはもう、言い訳もできないほど明らかに反応していた。リズミカルに扱いていくその手つきに、吐息が漏れる。「……ん、ん……っ」水音に混じって零れる甘い声に下を向けば、アスカの先端は既に蜜を垂らして濡れていた。口に含んでいた指をそっと出して、俺のものに緩やかな刺激を与えたまま耳元で囁く。「ここ、触って……」しっかりと握られた手は、再び下肢へと導かれる。唾液にまみれた指先が、小さな蕾に触れた。恐る恐る襞を何度か弄ると、小さく息を吐いて潤んだ瞳で俺を見つめる。快楽を切に求めるその顔に、堪らず指を突き立てるように挿入していた。「あぁ、あ……っ」しなやかな身体が跳ね上がって、スプリングが深く沈む。「もっと、奥……、ん……ッ」アスカの中は熱を持ってうねりながら指を咥え込み、より深いところへと誘う。口づけて貪るようにキスをしながら指の抽送を繰り返せば、濡れた音が響き始める。「……ん、ふ……、んッ」合わさる唇の隙間から上擦った声が零れる。舌を絡ませながら唇を離せば、うっすらと開いた瞳が濡れたように光っていた。熱を孕んだ中から指を抜いて、さっきからずっと俺のものを握っていたアスカの手首を掴み、引き離す。「エイジさん……欲しい」荒い呼吸を繰り返しながらねだるその姿が、どうしようもなく淫靡だった。脚の間に割り入って、細い腰を掴んで抱え上げる。情動に突き動かされるまま、昂りを後孔に捻じ込んだ。「──っ、あぁ……、あッ!」シーツを握りしめながら顔を顰めて悲鳴のような声を漏らす。その苦しげな様子に思わず引き抜こうとすれば、両腕を伸ばして首に回してきた。「大丈、夫……」縋るように抱きついて、小さく囁いてから口づけてくる。熱く濡れた咥内を弄りながら狭い部分に少しずつ侵入していけば、息を吐きながら俺を誘き寄せるように腰を揺らす。そこはまだ受け容れる準備ができていないのだろう。なのに、あえて痛みを欲するかのように性急な動きだった。熱に呑まれてギチギチと押し開きながら辿り着いたその奥は、離すことを拒むかのように俺を強く咥え込んで締めつける。ひどい眩暈に襲われたように、視界がぐらりと揺れる。それは、世界が覆るような未知の快楽だった。「あ、あ……ッ」熱で掠れた声が、耳朶を甘く擽る。もっと、もっとこの感覚を味わいたい。ゆっくりと腰を動かせば、上擦った声で喘ぎながらしがみついてくる。「エイジ、さん……」しなやかな身体はしっとりと汗ばんでいる。 ぎこちなく軋んでいたスプリングの音が規則正しいリズムを刻む頃には、アスカの中は解れて濡れた音を立てるようになっていた。「あ、ふっ、あァ……ッ」腕の中の身体がビクビクと震えたかと思えば、触れてもいないのにアスカの先端から白濁が飛び散った。体液に濡れた肌を重ね合わせて穿つ度に、快感は背筋を繰り返し駆け上がり増幅していく。アスカが放つ花の香りは次第に濃くなってきていた。むせ返りそうな甘い匂いに包まれて快楽を貪り続けるうちに、ふと意識が飛びそうになる。『瑛士さん』遥か遠くで、鈴の音のような美しい声が聴こえた。 『瑛士さん、愛してる』知ってるよ。だから、離れたんだ。これ以上傍にいれば、もう──。 「エイジ、さ……、あ、ぁッ」耳元で名前を呼ばれて、我に返る。その身体は小刻みに震えながら限界を訴える。奥深くを抉るように突き続けるうちに、俺を包み込んでいたアスカの中が一層強く締まった。「──ああ、あ……ッ!」繰り返される収縮の刺激に堪え切れず最奥へと熱を放てば、アスカは俺を咥え込んだままその全てを受け容れる。快楽の余韻は長く尾を引き摺りながら、全身を這うように拡がっていった。乱れた呼吸と甘い匂いが部屋中に充満していた。顔を上げてアスカを見れば、ぼんやりと焦点の合わない瞳に俺を映し出す。「すごくよかったよ……」そう囁くように言いながら、薄い笑みを浮かべて口づけてくる。唇を重ねるだけのキスは、蜜のように甘かった。「こんな時間に帰るのか」「朝になって僕がいないとわかれば、家族が心配するから」随分過保護な家だと思った。だが、これほどまでに美しい姿をしていれば、その身が案じるのも無理はないのかもしれない。家族を知らない俺には、普通の感覚がわからなかった。夜明けにはまだ早い。ベッドから起き上がったアスカの身体が、暗がりにうっすらと浮かぶ。その姿は今にも闇に溶けて消えてしまいそうなほどに儚げだ。このまま帰せば全てが幻となる気がして、思わずその手首を掴んだ。「家まで送るよ」俺の言葉に目を見開き、かぶりを振る。「エイジさん、まだお酒が抜けてないでしょ。運転は駄目だ」名前しか知らない一夜限りの相手は、夜に咲く白い花のように美しく匂う。次の約束が欲しい。そんなことを思う自分に戸惑いながらも、結んだばかりのこの関係を必死に繋ぎとめようとしていた。「連絡先を、教えてくれ。また会いたいんだ」その言葉を聞いた途端、アスカは微笑みを浮かべた。世界中の人間を魅了するかのように艶やかな笑みだ。「いいよ、その代わりお願いがある」「何だ」身体を起こしてアスカと向き合えば、ゆっくりと顔を近づけてくる。濡れた眼差しに俺を映したまま、鼻先の距離できれいな形の唇を動かした。「今日から3日間、僕と会う時間を作ってほしいんだ」奇妙な申し出だった。けれど、俺はその意味を深く考えることもせず、魔法に掛かったかのように首を縦に振る。「わかったよ。今、仕事はそんなに忙しくないから」女を騙して金を巻き上げるのが仕事だとは、さすがに言えない。「本当? よかった」安堵したように頬を緩ませる顔は、少しだけあどけなくて。「ねえ、エイジさん。僕があなたを」冷ややかな両手が、俺の頭を抱えるように包み込む。「違う世界に連れて行ってあげる……」ここではない、もうひとつの世界。そこには誰かが待っているのだろうか。交わす口づけは、今まで目に見えていた世界を残らず融かし尽くすほどに甘い。味わうように舌を絡ませていけば、ゆっくりと意識が海の底深くに沈み込んでいく錯覚がした。"Another Kiss" end - 2 - bookmarkprev next ▼back