the 2nd day[6/6]

ベッドのスプリングが軋む音に混じり、甘ったるい声が部屋に充満する。僕は意識の片隅でその淫らな声を他人事のように聞いていた。
律動を繰り返しながら、ユウの先端が僕の中の弱い部分を強く擦り上げる。

「あぁッ、や……っ」

ふたつの身体に挟まれて雫をこぼしながら震える僕のものに、ユウの手が掛かる。そのまま上下に扱かれて啜り泣きながら声をあげれば、一層激しく揺さぶられた。
溢れる先走りが、ユウの手をしとどに濡らしていた。卑猥な水音と喘ぎ混じりの乱れた呼吸が空間に折り重なって、より深いところへと僕を沈めていく。
こうして追い詰められれば、達するごとに敏感になる身体はひとたまりもなかった。なのに、増幅しながら身体を廻っていた熱が、突然下肢でピタリと動かなくなる。

「……ん、く……ああぁ……ッ」

欲を吐き出す寸前に指で根元をきつく締められて、思わず悲鳴が漏れた。

「ユウ、ユウ……ッ」

今にも弾けそうなのに、強い力で堰き止められた熱が中心で渦を巻き、達することができない。その状態で焦らすようにゆっくりと突き上げられれば言いようのない痺れた感覚が身体中に拡がって、全身が小刻みに震えだす。
僕は堪らずにユウに手を伸ばす。きれいに筋肉の付いた腕は、熱くしっとりと濡れていた。

「ねだって、みろよ……」

鼻先の距離で苦しげに息を吐きながら、ユウが囁く。

「今、お前が一番望んでることを、言ってみろ」

僕が、望むこと。
ユウの顔が近づいて、目尻に唇を押しあてられる。涙を掬うその舌の動きにさえ感じて、また喘いだ。

「……や、ぁ……っ」

「じゃあ、ここでやめるか」

耳元で囁かれる低音に身体の奥がまた震える。解放を求めてぶるぶると下肢が強張っていた。必死に息を吐きながら欲望から逃れようとしても、全ての感覚はもうとうに不埒な波に浚われてしまっている。
もっと、もっと。うだるような快楽が欲しくて堪らない。

「あ、ぁ……ユウ、お願い……イきたい……」

余計な感情を何もかも投げ棄てて、僕は這い上がれないほど深いところへと堕ちていく。
ユウは満足げな笑みを浮かべて、僕の根元を指できつく締めつけたまま激しく腰を動かした。中の弱い部分を押し潰すように突かれ続ければ、身体の奥から湧き上がった感覚が噴き出していく。

「あ、あッ! ああ……ッ」

渦巻く欲を吐き出せないまま、後孔が遣る瀬なく収縮を繰り返す。下肢が痺れたように痙攣する中、ユウが僕の根元から手を離した。

「んっ、は……ぁッ」

ようやく戒めから解放されたその先端から、はしたなく白濁が飛び散って腹部を汚す。熱病に罹ったかのように身体が熱い。強い薬で頭の中がドロリと溶けているようだ。
息が苦しくて必死に酸素を吸う。身体が重く、自分の意志で動かすことができない。
飛びそうになる意識を繋ぎ止めるように、緩々とまた抽送が再開された。

「あぁ……ア……ッ」

気を失う寸前のところで現実に引き戻されて、唇からだらしない声がこぼれた。下肢の感覚はとうに麻痺していてもおかしくないのに、快楽にはひどく鋭敏だった。苦しくて堪らなくても、身体は与えられる悦びを進んで受け容れている。
もっと、もっと。この魂が融けてしまうほどの、淫らな熱が欲しい。快楽だけが、きっと全てを忘れさせてくれる。
目を開けば見える、光を湛えながら僕を映す鳶色の瞳。思わず顔を背ければ、また涙が伝い落ちた。
ああ、サキ。お願いだ。こんなに醜い僕を、見ないで。
僕の中を行き来するユウの動きが、突然緩やかなものに変わっていった。

「アスカ。覚えておけ」

ゆっくりと、子どもに言い聞かせるようにユウは口を開く。

「本当に死にたい奴は、セックスしたいと思わないし、快楽なんて感じないんだ」

与え続けられた感覚で飽和した頭の中に、紡がれる言葉がするりと入ってくる。

「だから、二度と死にたいなんて言うな」

僕の目から溢れる涙を親指で拭いながら、ユウは呟くように名前を口にした。

「──アスカ」

繋がるところから伝わるさざなみのような優しい快楽が心地よくて、僕はゆっくりと両腕を伸ばす。掌に触れるユウの肌はしっとりと汗ばんで濡れていた。

「どんな形でもいい。アスカ、生きろ。俺がお前の生命を預かる」

僕を抱きしめる身体は燃えるように熱くて、それを感じられることは生きている証なのだと言われている気がした。

「ど……して……」

どうして、ユウはこんな僕を引き止めようとするんだろう。
次第に激しくなる動きに振り落とされないようしがみつくと、耳元で熱を孕んだ囁きが聞こえた。

「お前まで失いたくないんだ」

それは、ユウから初めて聞いたサキの死を悔やむ言葉だった。

ごめんなさい。

そう口にしたつもりだった。けれど、もう言葉にはならなかったかもしれない。
頭の中に細い光が射し込んで、次第に真っ白になるのがわかった。体液で濡れたふたつの身体が、縺れ合いながら深いところへと堕ちていく。

「あぁ、あッ……ア……ッ」

身体の奥で熱い飛沫が迸るのを感じながら、引き摺られるように果ててしまう。乱れた呼吸が折り重なって、全身が脱力したまま意識が朦朧としていく。

「アスカ。俺が……」

ユウの声が、遠ざかっていく。

──俺の意志でお前を抱くのは、これが。

頭の中で鐘を打つように声が反響する。
体力も気力も、持てるもの全てを使い果たした僕は、気絶するように意識を手放していた。








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