epilogue[3/3]

「高階さん、すごくいい人だったな」

俺の言葉に、雄理はフライドポテトを摘まみながら頷く。
高階さんに相談した後、ホッとしたら急にお腹が空いてきたから、俺は雄理と昼下がりのハンバーガーショップに来てた。
雄理がこの系列店に来たのは高校以来らしくて、あまり表情には出さないけどかなりテンションが上がってるみたいだった。LLセットにハンバーガー二個追加って、どんだけ食うんだよ。

「あの人、優しくて誠実そうだし、顔もいいしさ。賢くて包容力があって、頼りになりそう。そういうの、憧れるな」

そう話してるうちに、雄理がどんどん不機嫌な顔になっていく。

「何、俺なんか変なこと言った?」

「別に」

目も合わせずにつっけんどんに言うから、ちょっとからかってみる。

「なあ、もしかしてヤキモチ?」

「うるさい」

うわあ、お前ってそんなキャラだったの?

「なんか意外。はは」

「笑うな。帰ったら覚悟しとけよ」

ギロッと睨みながら声を潜めてそう言うから、思わず反論する。

「あのな。高校時代に、彼女を取っ替え引っ替えしてるお前を見て俺がどれだけ嫉妬したと思ってるんだよ」

周りを見渡して誰もこっちを見てないことを確かめてから、テーブルの上に置かれた大きな手をそっと握る。

「俺、お前しか見てないからさ」

自分の言葉に恥ずかしくなる。雄理の顔を覗き込むと、照れくさそうにしてる顔が見えて、嬉しくて笑ってしまった。
素直になることの大切さを教えてくれたのは、神崎さんだ。神崎さんのことを考えると、やっぱりまだちょっと胸が痛む。
でも大丈夫。俺は掛け替えのない幸せを、しっかりとこの手で掴んでる。
不意に、『青い鳥』の結末を思い出す。チルチルとミチルが探してた青い鳥は、自分たちの傍にいたんだ。
幸せは身近なところに潜んでる。ちょっと遠回りしたかもしれないけど、俺は閉じこもってた籠から出られたし、ちゃんと青い鳥も見つけた。
だから、アスカ。お前もいつか──。
突然、素っ気ない電子音が鳴り響く。雄理がズボンのポケットから携帯電話を取り出した。画面を見て、俺に目配せしながら微笑む雄理は本当に嬉しそうに見えた。

「今、陽向と一緒にいる。換わるよ」

それは、待ち望んでた電話だった。俺は雄理から携帯を受け取りながら、話したいことを色々と思い浮かべる。

みんな元気か? 俺はすごく元気だし、雄理との仲もうまくいって、一緒に暮らしてるんだ。信頼できる弁護士の人に会えたから、お金のことはきっと何とかなるよ。だから、大丈夫。

一体何から話せばいいんだろう。
心臓が痛いぐらいに鳴り響いて、涙が出そうになる。携帯を耳にあてると、すすり泣く声が聞こえた。
バカだな。お前が泣くと俺も泣けてくるだろ。
喉につかえて出てこようとしない声を無理に引っ張り出そうとするけど、なかなかうまくいかない。
視界が滲んで小刻みに揺れ始める。雄理が困ったような優しい顔をしながら、親指で俺の目尻にそっと触れた。
涙を流せば大好きな人が拭ってくれる。それがどんなに幸せなことか、今はわかるんだ。
俺はいろんな人に救われた。だから、今度は俺が救う番。
ゆっくりと深呼吸してから、恐る恐る言葉を紡ぐ。

「もしもし、綾乃? 俺──」








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