the 4th day[3/14]

深い紺色のブルーバードに乗り込んで、運転席に掛けたアスカを問い詰める。

「貴重品は全部持って出た。ユイの連絡先も訊いた。仮病を使って店も抜けた。全部お前の言うとおりにしたよ。これからどうする気だよ」

アスカはただきれいな微笑みを浮かべて俺を見つめてる。嫌な予感がした。だってこれじゃあまるで、このまま一生ここに帰ってこないみたいじゃないか。
あの店のバックにはヤバイ奴らがついてる。俺が借金を返さずにいなくなれば、絶対にタダじゃすまない。

「心配いらないよ。とりあえず、これで今日一日ヒナは事務所に戻らなくても大丈夫だ。今日は僕の言うとおりにして。明日からは、ヒナが思うようにすればいいから」

含みのある言い方をしながら、アスカは真っ直ぐに前を向いてエンジンを掛けた。

「さあ、どこに行く? せっかく出て来たんだ。ヒナの好きなところに連れて行ってあげる」

そう言われても、行きたいところなんてあるわけがなかった。寮と事務所と、あとは客が指定した場所。それが、ここに連れて来られてから俺が行った場所の全てだったし、休みの日だってほとんど部屋に閉じこもってた。
実家に行きたい。家族に会いたい。でも実家はもぬけの殻だし、家族がどこでどうしてるのかもわからない。

「じゃあ、とりあえずお昼ごはんでも食べようか」

アスカが俺を横目で見ながら、おもむろに切り出す。

「ファストフード、好き?」





アスカに連れられて入ったのは、ハンバーガーショップだった。
高校生の時、変な奴らに絡まれて雄理に助けてもらった後で入ったところと同じ系列の店だ。
高校時代はよく一緒に行ってた。雄理が好きだったから。
この店に入ったのは本当に久しぶりだ。懐かしい気持ちでセットを頼んで二人掛けの席に向かい合わせに掛けた。

「たまに食べると、おいしいね」

フライドポテトを摘まみながら、アスカがそんなことを言う。
もう昼を過ぎてるから、店内には空席が目立つ。きれいで品のいい顔立ちのアスカにファストフードなんて似合わないと思ったけど、実際に食べてるところは年相応に見える。
アスカはいつも大人びた表情をしてる。でも、よく見ると整った顔には少しあどけなさが残ってて、多分俺と年はそう変わらない。
掴みどころのない、不思議なアスカ。やってることは滅茶苦茶なのに憎めない。それどころか、あんまり認めたくないけどちょっと、いやかなり惹かれてる。

「ヒナってかわいいね」

アスカが俺の顔を見つめながらニッコリと笑う。

「ヒナが店で成績がいいの、わかるな。今朝、我慢してるときの顔がすごく色っぽくてかわいかった」

飲んでるコーラを吹きそうになった。

「バ、バカッ。何言ってるんだよ」

周りを気にしながら咎めると、アスカは艶やかに笑った。その笑顔を見るとまた今朝のことを思い出してしまって、不覚にも下半身が熱くなってくる。

「続き、する?」

「するわけないだろ!」

頬が火照るの感じながら必死に断ると、アスカは漂う色気をふわりと緩ませた。

「冗談だよ」

全然冗談に聞こえない。アスカといると調子が狂う。
それでも、久しぶりに食べたハンバーガーは結構うまくて、すごく懐かしかった。





店を出てから、駐車場にとめてたブルーバードの助手席に乗ると、アスカが窓の外から声を掛けてきた。

「ちょっと電話してくるから、そこで待ってて」

そう言って、歩いてどこかへ行ってしまう。助手席の窓を開けると、冷たい外の空気が頬を刺した。
俺、仕事サボって何やってんだろ。
この窓ガラスの向こう側に、今は少しだけ足を踏み出してる気がする。でも、一人だと自由は手持ち無沙汰だ。
しばらくすると、アスカが帰ってきて運転席に腰掛けた。

「この車、そろそろ帰さないといけないと思って。僕はヒナと一緒にいて返せないから、代わりに返してもらう人を呼んだんだ」

「アスカ、お前は事務所に戻らないとマズイんじゃないか」

俺は仮病で休みをもらってる。でもアスカは俺を病院に連れて行ってることになってるから、いい加減帰らないといけない。

「もうあそこには戻らない。もともと四日間しかいるつもりはなかったんだ。仕事用に借りてた携帯も、置いてきちゃった。あの店は僕がいなくなっても、どうってことない」

しれっとそんなことを言う。辞める辞めないはアスカの自由だから、口を挟んでも仕方ない。無断で辞めるのはどうかと思うけど。
四日間。そう言えばこいつ、整体師のところで働いたときも四日で辞めたとか言ってたな。
確かに、デリヘルのドライバーなんてアスカには全然似合わないんだけど。

「三日坊主じゃなくて、四日坊主だな。お前、器用そうだし何でもうまくできるのに。何で四日間しか持たないんだよ」

「最初から四日間って、決めてるんだ」

そう言って、アスカは視線を俺に向けた。きれいな瞳は窓ガラスを透過した陽射しを受けて艶やかに煌めく。



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