Love You, Too[1/3]

キラキラとドーム越しに水面を反射する陽射しの眩しさに目を細める。

今日の日直当番にあたっている俺は、空腹を覚えながら4時間目の授業が終わったばかりのプールサイドでビート板を乗せた台車を倉庫へと片付けていた。
この学校では、室内プールで春から秋にかけて不定期に水泳の授業が行われる。気候に関係なくプールが使える環境は水泳部にとっては喜ばしいものなのかもしれないが、俺にとっては全く望ましくはない。その理由はあえて言及しないが、とにかく水着に着替える度に余計な煩わしさが増えるばかりだ。
それにしても蒸し暑い。これは気候の問題ではなく、どちらかというと精神的な要因が大きい。

「 ──── おい、七瀬。いい加減、出て来いよ」

聞こえるようなトーンでそう声をかければ、倉庫の陰からぴょこんと人影が飛び出してくる。それは、紛れもなく俺の学校公認ストーカーを名乗る男子生徒のものだった。

「へへ、ばれてた?」

「アホか」

チラチラとあからさまにこちらの様子を窺っておきながら隠れているつもりだと言うのだから、全くもって呆れる。

「だってカイくんのこと、待ち伏せしたかったんだもん」

バスタオルを片手に持ちながら、恥ずかしげにそんなことを口にする。いつもは歩く度にふわふわと風に揺れる癖っ毛が、今は濡れてハタハタと水が滴っている。シャワーを浴びた後にきちんと拭いていないんだろう。
黙ってさえいれば天使のように愛らしいこの同級生は、そのおかしな性格が災いして外見と見事に相殺されてしまっている。だから、俺にとってはただのうっとうしいストーカーにしか見えない。
そうだ。いくらかわいい顔をしていたところで、七瀬はただの変態だ。それを俺はよくよく肝に銘じておかなければならない。

それにしても、と俺は華奢な身体に視線を流して小さく溜息をつく。緩いハーフパンツタイプの水着を履いているだけの姿が、無駄にエロいことこの上ない。こいつがこの格好で人前に出ているだけで気が気でないなんて、この室内プール特有の蒸し暑さのせいで俺の頭はイカれてるんだと思う。

「カイくんって、ホントにイケメンだよね。思わず見惚れちゃう。水着って、なんか裸よりエッチだし!」

「デカイ声を出すなバカ」

1人で騒ぎ出す七瀬を置き去りにして、溜息をつきながらプールサイドの階段を降りる。外へ続く扉を開けば、クラブ棟の入り口が見えた。更衣室はグラウンドの片脇に連なるこのクラブ棟に入っている。早く着替えて腹を満たすことだけを考えよう。

「あ、待ってってば」

ちょこまかと後ろからついてくる七瀬は本当に嬉しそうな顔をしている。毎日呆れるぐらい楽しげで、そんな七瀬を見ること自体は別に嫌いではない。
クラブ棟の長い廊下を抜けた奥にある更衣室の扉を開ければ、着替えを終えたクラスメイト3人が出てくるところだった。中には他に誰もいないようだ。

「あー、ちょうどよかった。鍵、頼むな」

そんな風に声を掛けられて、俺は渡された鍵を受け取りながらも危機感を覚える。ここの鍵は日直の俺が返さなければならないから、最後に戸締まりをすることはもともと俺の仕事だ。問題はそんなことではない。
後ろで引き戸がスッと閉まって、嫌な予感に振り返れば含み笑いを浮かべた七瀬が舐めるような目つきで俺を見ていた。

「カイくん!」

「やらないからな」

「まだ何にも言ってないよねっ」

「これから言うつもりだろ。やらないぞ」

釘を刺す俺をじっとりと艶かしい瞳で見つめながら、七瀬は後ろ手で素早く扉に鍵を掛ける。無駄に器用なところが全く気に喰わない。
両脇に縦長の3連ロッカーが並ぶ通路をじりじりと後ずさる。更衣室は着替えるところであって、それ以外の用途に使うべきではないんだ。

「カイくん! エッチしたいよう!」

だから、デカイ声を出すなって。嫌な予感が物の見事に的中して、俺は頭を抱え込みたい気分だった。

「こんなとこでできるか、バカ」

いや、できる。言い返しながらも俺は頭の中で自分の台詞を即座に否定してしまう。昼休みが始まったばかりの時間にクラブ棟まで来る奴なんて、いるはずもない。
人が来たらどうするんだ、という言葉を呑み込んで、俺は別方向から七瀬を説得しようとする。

「腹が減ってるから、駄目だ」

「わあ、俺も減ってるんだけど! 一緒にお腹が空くなんて、これって運命だよね?」

違う。生理現象だ。
背中に冷たいスチールがあたる。にじり寄ってくる七瀬にいつの間にか俺は追い詰められていた。至近距離で潤んだ瞳を向けられて、正視できずに思わず目線を逸らす。

「仕方ないじゃん。カイくんの水着姿見てたら、ムラムラしてきたんだもんっ」

細い両腕が伸びてきて、身体を摺り寄せるように抱きつかれる。太腿に押しつけられた中心は、薄い生地越しでもしっかりと反応して硬くなっているのがわかった。

「ねえ。カイくん、エッチしよ?」

上半身の肌が直に触れ合っている。ドクドクと伝わってくる七瀬の鼓動がうるさいが、それはもしかすると俺のものかもしれない。どちらの心拍音かもわからないぐらいに密着したまま、七瀬がそっと唇を重ねてきた。

伸びてきた舌が唇の隙間を割って入ってくる。ぬるりとした感触は一瞬で引っ込められて、反射的に物足りなさを覚えて目を開けた瞬間、水着の中に手を差し込まれてしまう。確かめるようにそっと触れてくる指がくすぐったい。


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