威風堂々とそびえ立つ25階建ての超高級マンションの最上階は、本当に日当たりがいい。
この開放感溢れるLDKの、まるでインテリアのような佇まいを醸し出す美しいマーブルキッチンで何度も料理を作らせてもらううちに気づいたのは、この部屋の主であり俺の仕える王子様でもある李一くんは卵料理がお好みだということだ。 それも、オムライスだとか目玉焼きだとか、そういうシンプルな家庭料理。口には出さないけど箸の進み具合から察するに、お弁当に入ってるような卵焼きも大好物みたいだ。
卵焼きの味付けって、不思議なぐらい家庭によって全然違う。卵を焼くにおいがお母さんのにおいだっていうのは、そういう意味では正しいのかもしれない。だってその卵焼きは、お母さんにしか作れない味なんだから。 俺はこの広々としたキッチンで卵焼きを作る度に何とも言えない幸せな気持ちになって、だけど同時にちょっと胸が痛くなる。子どもの頃に食べた卵焼きの味は、なぜだかとても強く印象に残るものだ。だから、俺の作る卵焼きが少しでも李一くんのお母さんの味に近ければいいのになと思う。
リビング一面に広がる大きな窓から陽の光が射し込む。普通の人が一生身を粉にして働き続けても手の届かないこの部屋は、男子高校生1人が住むにはあまりにも広過ぎる。
清々しい休日の朝ごはんは、出汁を入れたふわふわの卵焼きに、わかめと豆腐のお味噌汁、ほうれん草のおひたし。炊き立てのご飯の匂いがふんわりと漂ってくる。 李一くん、まだ寝てるのかな。 寝室から出てこない王子様の様子を見に行けば、案の定布団を被ったまま気持ちよさそうに眠っていた。
李一くんは普段は早起きをして登校するのに、俺が泊まりに来た休日の朝は起きるのが遅い。それはきっと前の晩にセックスばっかりして疲れるからで、やっぱりあんな小さなところにこんなものを挿れちゃうなんてどう考えても身体に負担がかかるよね、と申し訳なく思ってしまう。
扉の前で李一くんの寝顔を遠目に眺めていると、ふと昨夜大事なところに嵌められた輪っかのことを思い出して、途端に根元がじんじんと疼きだす。あの、無駄にかわいい空色をしたブルブル震えるリングだ。 先日一緒に買いに行ったあのオモチャは、李一くんのお気に入りのひとつだった。 あれ、結構刺激が強くてきついんだよね。まあ俺は全然我慢できるし、李一くんがよければもうそれでいいんだけど。
遮光カーテンから漏れる光がいつにも増して強い。今日はいい天気だし、洗濯物もすぐに乾きそうだ。李一くんが起きたら、シーツを取り換えて洗わなくちゃ。 それにしても、よく寝てる。 忍び足でそっと近づいて、無防備な寝顔を覗き込む。さらさらした髪につるんとした頬、長い睫毛。王子様の寝顔は溜息が出るほど愛らしい。
顔を近づければ、小さく吐き出される寝息が鼻をふわんとくすぐる。 ああ、かわいくてたまらない。 途端にドキドキと逸る鼓動を抑えようと慌てて目を閉じてみるけれど、一向に収まる様子はなかった。 どうしよう。触れたい。 李一くんは熟睡しているみたいでこんなに近くにいるのに起きる気配がない。だから、きっと大丈夫だ。 覚悟を決めた俺は、思い切って目を開く。艶めかしい唇が薄く開いて魅惑的に俺を誘う。
あっさりと欲望に負けて、俺は少しの距離を詰めて李一くんの唇にキスしてしまう。ふにゃりと頼りない柔らかな感触に、高鳴っていた心臓の音が一段と大きくなる。 ほんのちょっとだけ。そんな気持ちとは裏腹に、俺は李一くんのマシュマロみたいな唇を味わうように食んでしまっていた。 何度も唇を重ね直しているうちにきれいに生え揃った睫毛が小刻みに震えて、うっすらと瞼が上がっていく。バッチリ目が合ってしまった瞬間、俺は光の速さで自分の身長分はある距離を飛びのいた。
「うわ、ごめんなさい!」
絶対に、怒られる。 俺を軽蔑した眼差しで見つめながら、李一くんはゆっくりと身体を起こす。 土下座しようと正座して両手を床に付いた俺の視線は、李一くんに釘付けになる。
「り、李一くん」
「……なんだ」
不機嫌そうな第一声にも俺はかまっていられなかった。だって、布団を剥いだ李一くんが目の前で勢いよくポンポンと服を脱ぎだしたからだ。
「あの、なんで、脱ぐの?」
「うるさい」
床の上に脱いだ服が1枚ずつ重なっていく。俺は突然始まった李一くんの魅惑のショウに、ただ呆然と見入ってしまっていた。 大事なところを覆う最後の1枚がぱさりと床に落ちて、勃ち上がってきれいに色づいた李一くんのものが露わになる。ああ、今日は朝からエロさMAXです。
「湊人。こっちに来い」
「は、はい」
低い声で呼ばれて、俺はおっかなびっくり李一くんのところににじり寄る。きっとこの後にはひどいお仕置きが待っている。どうしよう。今日こそ処女を喪失してしまうかもしれない。
「服を脱いで、座れ」
ひええ。やっぱりそうだ。 慌てて着ていた服を全部脱いで、生まれたままの恰好でベッドの上に乗る。俺はちゃんと正座してるのに、股間の分身は直立不動だ。李一くんは、しっかりと反応してる俺のものに視線を流して小さく舌打ちした。
「ちゃんと足を広げろ、バカ」
「はい。ごめんなさい」
そうだよね。じゃないと、挿れにくいもんね。 命じられるままにそろそろと足を広げていく。俺の恥ずかしいところは全部李一くんに丸見えだ。これから受ける辱めが何なのか、想像するだけでゾクゾクする。 李一くんは膝立ちの状態でじりじりと俺に近づいてくる。見下ろす冷たい眼差しの奥には、小さな情欲の焔が揺らめく。
急に両肩を掴まれて、ビクつきながら反射的に目を閉じれば唇を何かがふわりと掠める。それが李一くんからのキスだと気づくのに数秒を要した。
「李一く……」
すぐに唇を離した李一くんは、俺の上に跨って腰を落とし、眉根を寄せながら少し屈み込んだ。もうすっかり勃ち上がってる李一くんのものと俺のものが直に触れ合って、その熱さに思わず息をつく。
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