お風呂に入ってさっぱりと身体を洗い流せば、1日の疲れがどっと押し寄せてくる。 文化祭の最中にちょっと食べ物を摘まんだぐらいだからちゃんとごはんを食べてないんだけど、俺はもうこのまま寝てしまいたい気分で、どうやら李一くんもそんな感じみたいだった。
クイーンサイズのベッドに横たわった李一くんの隣に滑り込む。嵩が高いふわふわの羽毛布団に包まれてると、気持ちよくてすぐに寝ちゃいそうだ。 今日はいろんなことがあったなあ、なんてしみじみ振り返ってたら、身体ひとつ空けた位置から李一くんがぽつりと呟いた。
「明日の昼は、カレーが食べたい」
そうだった。ミスコンの優勝賞品、逃しちゃったからね。
「うん、明日は朝から準備して作るね」
文化祭の代休で、明日は学校に行かなくていいから。朝のうちにスーパーへ食材を買いに行って、李一くんのためにカレーを作って、それから家に帰ろう。 ぼんやりと天井を見つめながらそんなことを考えていると、吐息のように小さな声が聞こえてきた。
「………やっぱり、お前は女装なんてしない方がいい」
「え。あ、はい」
うん、やっぱりイケてなかったよね。 もともと今日の俺をミスコン仕様にプロデュースしてくれたのは李一くんだから、そう言われてしまうとちょっと複雑な気分だ。 李一くんが望むのなら、俺は女装だって何だって喜んで頑張れる。まあ、あの格好で人前に出るのはできればもう避けたいけどね。
李一くんが俺を目に留めてくれたきっかけは、きっとお母さんに似てるからなんだろうと思う。 だけど、李一くんがセックスのときに何度も俺の名前を呼ぶのは、ちゃんと俺のことを必要だと感じてくれてるからなのかなあなんて思ったりもする。 ただの下僕なのに自惚れてしまうのはいけないんだけど、それが俺にはすごく嬉しいんだ。
1人で悦びを噛み締めてると、ポソッとぶっきらぼうな言葉が聞こえてきた。
「……湊人。明日、夕方まででいいから僕の傍にいろ」
突然の李一くんの命令に、びっくりして勢いよく身体を起こしてしまう。
「えっ、いいの?」
だって、今まで何度かここに泊まってもいつも翌朝には自分の家に帰るように言われてて、だから俺は休みの日を李一くんと一緒に過ごしたことなんてなかったんだ。
「じゃあ、ちょっと早めの時間にカレーを食べて、それからどこかへ出掛ける?」
李一くんの行きたい場所があるなら、どこまでだってついていくから。
嬉しくてそう提案すれば、李一くんは何も言わずに背中を向けてしまった。 その後ろ姿がたまらなくかわいくて、湧き起こる願望をついそのまま口にする。
「李一くん、抱きしめてもいいですか」
沈黙は肯定の印。距離を詰めて後ろから包み込むように抱きしめれば、腕の中で李一くんが小さく身じろぐ。 李一くんの抱き心地は最高で、こうしてるとすごく満たされた気持ちでいっぱいになる。 愛おしさが込み上げてきて、きれいな細いうなじにそっと唇を押しあてた。
「おやすみなさい」
これからも李一くんに触れるのが、どうか俺だけでありますように。
贅沢な望みを心の中で唱えながら、俺は大好きな王子様が眠りにつくのを待ち続ける。
"by Ourselves" end
2014.9.19 公開 2014.12.27 修正
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