2日間に渡って開催された文化祭が、無事に閉幕を迎えた。
ミスコンテストで準優勝という何とも微妙なポジションに収まり、優勝賞品カレーチケットクラス人数分を逃した俺は、結局李一くんに連れられて女装したまま後夜祭のファイヤーストームに参加することになった。そしてそれが終わると俺たちは誰よりも早く学校を飛び出して、李一くんの家へと向かっていた。
李一くんの家は学校から徒歩圏内だしすごく近いんだけど、それでもこんなワンピース姿で、しかもノーパンで外を出歩くのはもうめちゃくちゃ恥ずかしい。 いや、それよりももっと俺をドキドキさせてるのは、校門を出てから李一くんが手を繋いでくれてることだったりする。 歩くのが速くてむしろ引きずられてるという表現の方がしっくりくるんだけど。
そもそも李一くんと俺は絶対的な主従関係で結ばれてるわけで、けっして手を繋いで歩くような甘い仲じゃない。 だから、こんなところを知ってる人に見られて、もしも俺のせいで李一くんに変な噂が立ったりしたら、申し訳なさすぎてどう落とし前をつければいいかわからない。 いや、なんか言い方が極道っぽくなっちゃったけど、それにしても李一くんと俺はクラスの委員長と副委員長という立場なのに、後夜祭が終わった途端抜け出してきて大丈夫なんだろうか。
「李一くん、片付けは?」
「実行委員に任せておけばいい」
「そ、そうだね」
さすが王子様。片付けなんて下々のすることで、李一くんがその場にいないところで文句を言う人は誰もいない。 まあ、俺は何か言われるかもしれないけどそれはもう仕方ない。だって、俺は李一くんに逆らうわけにはいかないから。 手を引かれるまま李一くんの住むマンションへと続く道を歩いていると、俺は大事なことを思い出す。
「あ、カレーの材料、買わないと」
「あとでいい」
えっ? だって、あんなに食べたがってたじゃないか。 携帯電話を取り出して時間を確認すれば、午後8時を過ぎてる。近くで買い物をして帰ればいいのに。まあ、俺もこの格好でスーパーに入るのはかなりの勇気がいるんだけど、何だか感覚が麻痺してきてて、もはやそのぐらいの辱めならどうってことはない。
それでもスーパーへと足を向ける気配は全くなくて、そうこうしてるうちに李一くんが住む25階建の高級マンションに辿り着いてしまう。エントランスホールに入ればいつもにこやかな笑顔で迎えてくれるコンシェルジュのおねえさんの姿が見えない。そうか、この時間はもう帰ってしまってるんだ。
李一くんはまだ俺と手を繋いでくれてる。 すごくドキドキして嬉しくて、華奢な手をそっと握り返してみるけど、俺の前を歩く李一くんがどんな表情をしてるのかが全然わからない。 3ヶ所のオートロックをくぐり抜けて李一くんの住む部屋に辿り着けば、すぐさまカードキーで扉を解錠して中へと引っ張り込まれる。李一くんに続いて慌ててパンプスを脱いで玄関を上がると、リビングでも浴室でもなくいきなり寝室へと連れて行かれた。 ええっ! いきなりセックスするの?
「あのっ、シャワー、浴びた方が」
「うるさい」
だって俺、今日は結構汗をかいたから、こんな身体でセックスしたら李一くんが汚れちゃうよ。 戸惑っていると突然李一くんがくるりと振り向いて、俺の両肩をガッチリ掴んできた。
「わ、李一く……っ」
そのまま勢いよくベッドに押し倒されて、スプリングの弾みで身体が小さく跳ね上がる。心地いい重みを預けてくる李一くんのぬくもりに、俺の心臓はバクバクと高らかに鳴り響く。
えっ、待って! この微妙な空気。俺、もしかして。 このまま、李一くんに挿れられちゃう流れじゃない?
「湊人」
至近距離で囁かれるその声は、心なしかいつもより艶っぽい。
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