クラス対抗ミス桜朋コンテスト。文化祭を締め括るメインイベントとして、今回実行委員会が打ち出したのが、学校名を冠したそんなふざけた企画だった。男子校でミスコンなんてやったところで、一体誰が得をするんだ。委員長が進行を務めるクラス会で呆れる俺を前にクラスメイト達は色めき立ち、その中で張り切って立ち上がった小柄な後ろ姿に、俺は真剣に頭を抱え込みそうになった。『はいはーい! 俺、出るっ』学食のカレーチケット、クラス全員分。七瀬を動かしたのは、そんな恐ろしいほどにどうでもいい優勝賞品だった。『だってカイくんにも皆にも、カレー食べてほしいから!』俺にとって、断じてカレーはそこまでして食べたいものではない。けれど、アイドル顔負けのキラキラした笑顔を振り撒きながら誇らしげにそう宣言する七瀬を止める術を、俺は持たなかった。こうして七瀬は、うちのクラスを代表してミス桜朋コンテストに出ることになったのだった。ミス桜朋コンテストは、午後4時からグラウンドの特設ステージで行われる。審査員は在校生と教師と来訪者。つまりその場に居合わせた全員で、1人1票を投票する形式らしい。そんな下らないイベントには全く興味がない俺は、参加せずにこっそりどこかへ姿を眩ませようと、さっきからしきりにクラスの輪から抜け出す隙を窺っている。けれど、七瀬がこの女子高生スタイルでぴったりと俺の傍をつきまとって離れない。さすが俺のオフィシャルストーカーを名乗るだけあるが、感心している場合ではなかった。すっかり片付けを終えて元の状態に戻った教室でツンツンと袖を引っ張られて振り返れば、どこからどう見ても女にしか見えない生き物が上目遣いで俺を見つめてくる。「カイくん。なんか俺、緊張してきたかも。ちょっと気晴らしに散歩しよ?」お前の辞書に緊張なんてあったのか。驚愕しながらも俺は渋々七瀬を連れて教室の外に出る。出演者の集合時間まで、そんなに時間はないはずだった。七瀬が会場に向かったら、俺もどこか適当な場所でコンテストが終わるのを待てばいい。廊下に出てすぐの階段を降りて校舎の外へと出れば、校内には大勢の人が行き交っていた。客として来ている女子高生の姿も多いが、どの子よりも七瀬の方がダントツにかわいく見えるのは、俺の目の錯覚だと思いたい。「おい、腕を組むなって」「いいじゃんっ。お祭りなんだし」祭りにかこつけていつも以上にベッタリとくっついてくる七瀬を振り解こうとしていると、向こうから歩いてくる女子高生らしき2人組がこちらに目を留めているのに気づいた。七瀬といると、不本意に目立つ。「見て。お似合いのカップル」「本当だ。美男美女だね」すれ違いざまにそんな会話が聞こえてきて、七瀬が俺の腕を取りながら嬉しそうに笑った。「カイくんと俺のこと、カップルだって。ふふ」けれど心なしかその眼差しは憂いを帯びているような気がする。何だか様子がおかしいなと思いながら七瀬に導かれるままに俺は別棟へと入っていった。文化祭では使われることのない視聴覚教室へと俺を押し込んだ七瀬は、後ろ手に扉を閉めて舌舐めずりせんばかりにあやしく微笑んだ。「カイくん、エッチしよ?」 - 35 - bookmarkprev next ▼back