Stay with Me[8/9]

懺悔してから、李一くんに壁に肘を付くような形で立ってもらって、丁寧に身体を拭いてあげる。小さな子どもにしてるみたいで、こんなことをさせてもらってることがすごく嬉しかった。李一くんのことなら俺はどんなことだってしてあげたいから。
また抱っこをして、寝室まで連れていく。ベッドの上に寝かせてきちんと服を着せてあげてから、隣にそっと滑り込んだ。
目を閉じている李一くんは、すごくいたいけな感じに見える。かわいい寝顔をじっと見つめてると、睫毛が震えてうっすらと目が開いた。形のいい唇から小刻みに震える声がこぼれ落ちる。


「………どこにも、行かないで」


そんなことを口にするなんて寝呆けてるに違いないんだけど、切実な懇願に胸が締めつけられてしまう。なぜだか今の李一くんはすごく幼く見えた。泣いてるように揺らめくふたつの瞳が、本当にきれいだ。


「うん、ずっとここにいるよ」


どうしても我慢できなくて、小さく開いた唇に触れるだけのキスをする。
向かい合わせで抱き合うと呼吸がしづらいだろうから、李一くんの身体を横向きになるようそっと動かして、後ろから背中を包み込むように抱きしめる。
いつの間にか嵐はすっかり止んでいた。けれど俺は、李一くんの意識が朦朧としてるのをいいことに、こうやって理由もなく密着する。


「李一くん、息苦しくない?」


「ん……」


抱きしめる腕にさっきよりも力を込める。平均的な男子高校生より少し小柄な身体が、呼吸に合わせて腕の中で動く感覚が、何とも気持ちいい。
俺が李一くんを守ってあげたい。そんな気持ちが込み上げてきて、もう一度しっかりと抱き直して首筋にキスをした。


「湊人」


思いがけず名前を呼ばれて、慌てて押しあてている唇を離す。


「……僕、子どもの頃」


不意に語り始めた李一くんの弱々しい声に、俺は必死に耳を澄ませる。


「お母さんと2人で。でも、お母さんは夜に家を空けるから、1人が多くて」


それは、李一くんが俺に初めて話してくれる自分のことだった。


「うん」


相槌を打てば、李一くんは小さな声で淡々と続けていく。


「小学校1年の時、1人で留守番してたら、大雨が降ってきて、雷が鳴り出して。急に停電して、家じゅうが真っ暗になったんだ。怖くてたまらなくて、泣いても誰も来なくて、だから」


だから、嵐の夜はきらい。

消え入りそうな声でそう呟く李一くんが愛おしくて、俺はギュッと抱きしめる。

そのお母さんは、今どこでどうしてるの? とか。
そういうことが、全然知りたくないというわけじゃない。でもそれは、もしも李一くんが話したくなったらその時に聞かせてもらえばいいことだ。


「大丈夫だよ」


小さな子どもみたいに身体を丸める李一くんを、少しでも安心させたくて。


「俺、李一くんの下僕だから。李一くんがいないと何にもできないから、ずっと傍にいるよ」


そう伝えてから、祈りを込めて細いうなじにそっと口づける。

どうか、李一くんが安心してこの夜を過ごせますように。

やがて聴こえてきた安らかな寝息を耳にしながら、いつの間にか俺も眠りに落ちてしまっていた。



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