Your Pleasure[1/6]

一言で言うと、うちの学校の有名人、李一(リイチ)くんはすごい人だ。


俺のクラス2ーBで委員長を務める李一くんは、まず抜群にきれいな顔をしている。派手な顔立ちじゃないけど、こう、なんていうか品のいい知性の滲み出た感じだ。

顔だけじゃなくて、頭もめちゃくちゃいい。中学のときにクラスで1番だった人たちがこぞって入ってくるこの高校で、李一くんは常にダントツの学年トップ。T大の理Vを志望していると噂されている。

性格は、クールで物静か。一見近寄りがたい雰囲気なんだけど、実は聞き上手で人望が厚い。先生からもクラスメイトからも一目置かれる李一くんが、委員長を任せられるのは至極当然の話。
だけど。


「副委員長、やってくれる?」


高校2年生の4月。今までクラスが違って遠目にしか見ることのなかった有名人の李一くんが、なぜか地味で目立たない俺を副委員長に指名してきた。
委員長とか副委員長の仕事って、正直普段は雑用ばかりで大したことはなくて、行事のときにちょっとクラスを仕切ったりしないといけないのが大変なぐらい。
だから別にいいんだけど、なんで俺?

でも、李一くんの言うことに逆らう人なんていない。俺はその時から恐れ多くも李一くんの補佐役を務めることになった。
でも、本当に大変なのはそのことじゃなかった。
それから2ヶ月とちょっと。俺は、いまだかつてないぐらいに衝撃的な日々を送っている。


「今日、来いよ」


授業が終わった途端、俺の前に座る李一くんが振り返って低い声でそう囁いてくる。俺はビクビクしながらも首を大きく縦に振って頷く。拒否する権利なんて、俺には微塵もないから。


「はい、喜んで」


そうです。俺は、李一くんの従順な下僕です。



*****



俺は半歩下がった右斜め後ろから李一くんについていく。隣に並ぶなんてとんでもない。これが俺の定位置だ。
颯爽と歩く李一くんはさらさらした黒髪が風にそよいで、本当にキラキラしてる。まるで王子様みたいだ。俺はうっとりとその高貴な後ろ姿に視線を這わせる。

学校から徒歩20分。李一くんが一人暮らしをする高級マンションは、今日もセレブ感漂う佇まいでそびえ立つ。初めてここへ来たときは本当にびっくりした。だって、普通の高校生が1人で住めるところでは絶対にないから。
カードキーで開いた重厚なエントランスを潜り抜ければ、そこにあるのは天井が高くて広々としたロビー。


「おかえりなさいませ」


黒い大理石のカウンターできれいなコンシェルジュのお姉さんがにこやかに微笑んでくれる。頭を下げながらその横を通り抜けて、2つ目の扉の前でカードキーを翳してエレベーターホールへと進んでいく。

もう一度カードキーを使ってエレベーターに乗り込めば、もう何も押さなくても目的の最上階へと辿り着く。このエレベーターは、自分の住む階にしか止まらない仕組みになっているんだという。
つまりこのマンションでは、住人は自分の部屋へ行くまでにカードキーを3回も使わなければならない。



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