He Loves[2/5]

公衆の面前で恥も外聞もなく同性の俺に告白してきたこの美少年が七瀬という名だと知ったのは、そのすぐ後だった。

その時から、七瀬はクラス公認、いや学校公認ストーカーとしてベッタリと俺につきまとっている。


『オフィシャルなストーカーって、最高!』


まるで社会的地位を得たかのように誇らしげにそう言い切る七瀬につきまとわれ続ける俺は、いつしかこんなにも破廉恥な日々を送る羽目になっていた。







「ここ、よくない? 入ろうよ」


校舎3階の最西端に位置する空き教室は今日も当然のように無人だった。放課後ということもあってここまで人が来ることはまずない。もしも誰かが来るとすれば、それはよからぬ使用方法を目的とする七瀬の同類に他ならない。

七瀬は引き戸をそろそろと開けてから、俺の背中に片手を添えて先に入るよう促した。日暮れの近づく教室はベージュ色のブラインドが閉まっていて薄暗い。
俺の後ろから滑るように入り込んで来て後ろ手で扉を閉めた七瀬は、この上なく嬉しそうに笑いながら「やっと2人きりになれたねっ」と歓喜の声を上げた。


「さあ! カイくん、エッチしよ」


「学校はセックスをするところじゃないって、先生に教わらなかったのか」


俺の手を引いて足早に教室の後ろまで来た七瀬は「ああもう、限界!」とどうでもいい激情を口走った。向き合えば上目遣いで俺を見てモジモジと身を捩らせる。


「あ……、カイくん俺のことそんな目で見ないで。ゾクゾクしてたまんない」


うっとりと俺を見つめるクリクリの瞳が泣き出しそうに潤んでいる。こいつは一体俺の何に欲情するんだろう。この高校に入学した時からかれこれ1年と少しの間つきまとわれているが、俺は未だにその理由を知らない。

壁沿いに配置された腰の高さのスチール製ロッカーに2つ並べて学生カバンを置いた途端、ぴょんと飛びついてきた小柄な身体を慌てて受け止める。
ちゅ、ちゅ、とじゃれるようにキスをしながら、七瀬はもそもそと俺のブレザーのジャケットを脱がせてくる。結局俺はこいつに流されてしまうんだ。
シャツのボタンに手を掛ける七瀬に俺は釘を刺す。


「おい、服は脱がないからな」


「その方が萌えるもんね?」


一緒にするな、変態。


「でも、邪魔だからブレザーだけ脱ごっか」


七瀬は俺のジャケットをロッカーの上に置いて、自分もいそいそと脱ぎ出した。ジャケットを脱ぎ、解いたネクタイをするりと音を立てて抜き取る。白いワイシャツにはうっすらと肌が透けていて、きっと下着をつけていないに違いなかった。
その白い布の下に隠された艶かしい肌を想像してしまい、俺は慌てて目を逸らす。


「カイくん、大好き」


俺に抱きついてきた七瀬は背伸びをしながらまた唇を重ねてくる。華奢な身体はもう熱を帯びていて、恐る恐る抱きしめてやると合わさる唇の隙間から小さな吐息が漏れた。
口の中に舌を挿し込んでいけば、待ってましたと言わんばかりの勢いで吸いつかれて絡み取られる。


「………ん、んっ」


柔らかな舌の感触を味わいながら押しつけられた半身を布越しにひと撫でしてやると、鼻から声が抜けていく。七瀬は閉じていた目をそっと開けて、頬を上気させたまま小さくかぶりを振った。


「あ、カイくん待って……」


唇を離してそう囁いた七瀬は、知る者は誰もがひれ伏す校章の入ったカバンに手を差し伸ばす。その中から取り出したのは、透明な液体の入ったボトルだった。


「今日はこれしか持ってないんだ、ザンネン」



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