まだ挿れたばかりなのに絡みつく七瀬の中はヒクヒクと小さな蠕動を繰り返していた。身体を離せば涙目で俺を見ながら七瀬が必死に訴えてくる。
「カイくん、イきたい、イきたい……」
焦らすように白いシャツのボタンを上からひとつずつ外していけば、はだけたそこから現われるのは熟れた小さな果実。ぷっくりと控えめに主張する突起を摘まんでみると、ひときわ高い声があがった。
「ひゃあっ、あ、あぁ……ッ」
そのまま何度か軽く突き上げれば、七瀬は呆気なく達してしまった。ぎゅうぎゅうと締めつけてくるその動きに持っていかれそうになるのを息を吐いてどうにかやり過ごす。 下を向けば、七瀬が吐き出した白濁はきっちりと膜の中に収まっていた。まあ一応役には立ってるなと、どうでもいいことを思う。 荒く息をつきながら、七瀬は恍惚とした眼差しを俺に向けてきた。
「カイくん、好き……」
七瀬はどうして俺を好きなんだろう。 いつ離れていくとも知れないのに愛おしいなんて思うのは不毛だと思う。それでも時々無性に七瀬がかわいく見えてたまらない。
「……カイくん?」
きょとんと一瞬目を見開いて、それから七瀬は妙に嬉しそうに微笑む。
「カイくん今、俺が1番好きな顔してる」
そのおかしな物言いに眉を顰めれば、七瀬は言葉を続けていく。
「エッチしてるときって、カイくんの普段見られないところがたくさん見えるし。それを俺が全部独り占めできるのが嬉しくって、もうゾクゾクするんだよねっ」
照れたように視線を下げてから、そっと唇を重ねてくる。ラテックス特有のにおいはまだ消えてなかったけど、舌を挿し込んで貪っていけばやがて唾液に薄まっていつもの七瀬の味に戻っていく。 濡れた音を立てながら舌が絡み合う度に俺を包み込む七瀬の中が挑発的なまでに蠢く。
「 ─── ん、ふっ、ん……ッ」
揺さぶるように抽送を再開すれば、合わさる唇の隙間から喘ぎ声がこぼれていく。それを封じ込めるためにまた口づけ直して細い身体を両腕で抱えてやると、それに応えるように締めつけがきつくなった。快楽に素直に流されるまま奥を抉るように突いていくうちに、とうとう唇を離して七瀬はぶるりと背中を震わせる。
「あぁっ、カイくん、イく、イく……ッ」
強く収縮を繰り返すその最奥に、溜め込んだ欲を吐き出していく。最後の一滴まで注ぎ込んで、耳元で聴こえるのは七瀬が囁く歓喜の声。
「ん、カイくんの、熱い……」
七瀬は本当に馬鹿だと思う。 セックスしなくったって、お前はちゃんと俺を独り占めしてるよ。
「なんか、しっくりこなかったんだけどっ」
七瀬の中に出した分をとりあえずは掻き出してティッシュでしっかりと受け止めてやれば、浮かない顔でそんなことを口にする。何のことかと思えば、またもやコンドームネタだった。
「なんかさ。ベタベタになるのがエッチの醍醐味なのかも。だから、コンドームはもう捨てよっかな。使い道もないし」
一体何がどう醍醐味なんだ。引っ張って外したそれを中身がこぼれないようにひと結びしてから、七瀬は更にとんでもないことを口にする。
「そうだ。ローションでベタベタになってエッチするとか、楽しそうじゃない? なんか、想像するだけで興奮してきた……!」
「アホか」
「ね、今度そういうのしようよ。ローションならリイくんが回してくれるし」
そういう変態プレイに巻き込むのはやめてくれ。 危うくさらっと聞き流しかけて、踏みとどまる。今、何て言った?
「李一が?」
俺の顔色を見て、途端に七瀬が困惑した表情になる。
「だって、エッチする時はこういうの使わないと痛いからって、リイくんがいっつもくれるんだもん。カイくんと使えばいいって」
──── あいつめ。七瀬を煽って、一体何が目的なんだ。
「リイくんは、俺のこと応援してくれてるだけだよ? 俺、リイくんのこと大好きだし」
大好き、という言葉にいちいち引っかかる自分がどうかと思う。
『カイがその気じゃないのなら、僕が七瀬をもらうよ』
何を考えてるのかわからない李一のあの発言もまだ頭の片隅に残っていて、正直いい気はしない。 そんな俺に、七瀬は言い訳がましく口を開く。
「リイくんのことは、友達として大好きなんだけど。カイくんのことは、えっと」
必死に弁明されるのが、却って癪に障る。そうだ、七瀬は別に俺が特別好きってわけじゃないんだ。 でも、まだしばらくはそれに気づかないでいてほしい。そんなことを考えるなんて、全く俺はどうかしてる。
「………カイくんのことを考えると、俺、ここがドキドキして、ぎゅっと苦しくなるんだよね」
カイくんのは、そういう"大好き"。
掌で胸を押さえながらそう囁いて、七瀬は唇を重ねてくる。 ああ、七瀬。 お前の大好きがそれなら、俺のも ──── 。
チクリとした胸の痛みをキスでごまかしながら、俺は今だけ七瀬を優しく抱き寄せる。
"My Heart Aches" end
- 64 -
bookmark
|